コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2026年9月16日号より
最近、Google アナリティクス(GA4)の管理画面や探索レポートのUIを、ほとんど開かなくなりました。私自身の率直な実感ですし、周囲のアナリスト仲間と話していても、まったく同じ声が返ってきます。
かつては、GA4の画面でディメンションや指標を組み合わせ、探索レポートを根気強く操作しては、きれいなグラフのキャプチャを撮って提案書や社内報告のスライドに貼り付けていました。ところが今は、MCP(Model Context Protocol)を通じてAIに直接BigQueryの生データを読み込ませることが日常になりました。対話型AIにデータを渡せば、グラフの作成から改善案、未来予測までを一瞬で出させることもできます。
実は当初、「画面を見なくなったGA4は、計測ツールとして今後どう進化していくべきなのか?」というテーマで書こうとしていました。
「UIを捨てて、APIやデータ収集に特化した完全なヘッドレス計測基盤になるべきなのか?」
「Googleの優秀なエンジニアは、画面を持たないインフラツールに情熱を持ち続けられるのか?」
「データ保存とパイプラインだけなら、顧客のBigQueryに直結してGoogle側はログを削除していけばいいのではないか?」
そんなツールの進化論について、あれこれと思いを巡らせていたのです。
しかし、この問題を深く掘り下げていくうちに、だんだんと違和感に突き当たりました。
「いや、待てよ。直面している課題は、GA4というツール単体の進化の話ではないぞ」と。
そもそも、なぜアナリストたちはGA4の画面を開かなくなったのでしょうか。理由は明快です。AIの性能向上によって、分析作業が圧倒的に速くなり、改善施策へ最短でたどり着け、実用に足る信頼できる答えが得られるようになったからです。
dbt Labsが2026年4月に発表した『2026 State of Analytics Engineering Report』によると、データアナリストやエンジニアの72%が「AI支援コーディング」を日々の開発・分析プロセスにおける最優先事項に挙げています。
従来のアクセス解析の実務では、ディメンションと指標の癖を理解し、探索レポートを操作し、BigQueryでSQLを書くといった作業が欠かせませんでした。こうした「ツールの操作知識と作業時間」が、大きな割合を占めていたのです。しかし、データ集計と整備から可視化、仮説立案に至る一連のワークフローの多くをAIが肩代わりしてくれるようになった今、ツール操作そのものの価値は大きく下がっています。
これはアナリストにとって決してネガティブな話ではなく、オペレーション作業から解放され、本来向き合うべきビジネスの課題解決に戻れる健全な変化と言えます。
ツールとしてのGA4が、人間が画面を眺めるUI中心の道具から、AIに対話やデータを提供する「ヘッドレスな計測プラットフォーム」へと移り変わっていくのは、自然な流れに見えます。
「では、GA4が理想的なヘッドレス計測ツールへと進化したとして、データ分析の課題は本当に解決するのだろうか?」という疑問が湧いてきたのです。
視野をツールからWebサイト全体へと広げてみると、分析側の進化とまったく同じタイミングで、分析の対象である「Webサイトの来訪者」にも巨大な変化が同時並行で起きていることに気づかされます。
従来のアクセス解析には、ひとつの暗黙の大前提がありました。それは、
「ユーザーとは、Webサイトをブラウザで見ている人間である」
という前提です。データから画面の向こう側にいる生身の人間の心理や迷いを読み取ることこそが、アナリストの腕の見せどころでした。
ところが現在、その前提そのものが崩れはじめています。
CloudflareのCEOであるMatthew Prince氏は、2026年6月3日、自身のX(旧Twitter)への投稿で、インターネットの歴史における重大な転換点を明かしました。
▼Matthew Prince氏のX投稿(2026年6月3日)
Cloudflareの観測データによると、HTMLウェブトラフィックにおいて自動化リクエスト(ボット・エージェント)の割合が57.5%に達し、人間のアクセス(42.5%)をはじめて逆転したというのです。
なかでも人間の指示を受けてWeb上を自律的に巡回する「AIエージェント&自動化ボット」は、前年比で約7,851%増(約80倍)という驚異的な伸びを見せています。
かつてアクセス解析において、検索エンジンの正規クローラー以外のボットは除外すべき「データノイズ」でした。しかし、これからのAIエージェントは違います。
「予算3万円以内で、今週末までに届く一番軽いランニングシューズを調べて比較して」
「来月の京都旅行で、駅から徒歩5分以内のおすすめの宿を比較して予約して」
といった、人間の意思や購買意欲を反映した、いわばユーザーの代理人なのです。
しかも最近のAIエージェントはJavaScriptを実行し、フォーム操作までこなします。当然ながら、GA4にも「1ユーザー」「1セッション」として計測される可能性が高いのです。
ここで、アクセス解析の指標に決定的なねじれが生じます。
たとえば、ページを訪れて「わずか数秒で離脱したセッション」があったとします。人間のアクセスであれば、滞在時間が短すぎるため離脱に近い扱いでしょう。しかし、AIエージェントであれば、目的を瞬時に達成して立ち去った可能性が極めて高いセッションなのです。
画面の向こう側にいる訪問者が人間なのか、代理エージェントなのかすら判別できない状態で、GA4の指標を分析していても、顧客の心理にたどり着けないでしょう。
変化は機械の側だけではありません。生身の人間の行動もまた、生成AIの普及によって不可逆な変化を遂げています。
サイバーエージェントが2026年9月に発表した『生成AIのユーザー利用実態調査(2026年8月期)』は、日本のユーザー行動のリアルな変化を浮き彫りにしています。
この調査によると、検索における生成AIの利用率は52.3%に達し、調査開始以来はじめて50%を超えました。検索の「半分以上」を生成AIに切り替えた人も46.6%にのぼります。
とりわけ注目すべきは、検索行動の目的別データです。商品の価格比較(15.5%)や宿泊施設の比較(14.8%)など、すべてのジャンルにおいて単なる「情報収集」以上に「比較・検討(絞り込み)」の段階で生成AIが第一の選択肢として使われているのです。さらに、AIのおすすめをきっかけに実際に商品を購入したりサービスを利用したりした経験がある人は58.7%と6割近くに達しています。
この数字が意味するものは明白です。従来のマーケティングファネルは、次のような直線型でした。
【従来のファネル】
検索 → Webサイト来訪 → 情報収集 → 比較検討 → コンバージョン
しかし生成AI時代には、これが完全に逆転しています。
【AI時代のファネル】
AIに相談 → AIが網羅的に比較・検討・絞り込み → 候補確定 → 確認のためにWebサイト来訪 → 即コンバージョン
AIによって事前に比較検討と候補の絞り込みを済ませてやってくるため、サイトに訪れるのは、直帰率が低く素早く目的を達成するユーザーばかりになります。
つまり、GA4が計測を開始する「前」の段階で、重要な顧客行動の大半がすでに完了しているのです。
しかも、ChatGPTやGeminiで商品を知り、翌日Googleでブランド名を指名検索して来訪した場合、GA4に記録される流入元は単なる「Organic Search」や「Direct」です。どれほどGA4のレポートを高度に分析したところで、そこに存在しないデータから「なぜ選ばれたのか」「競合のどこに勝ったのか」という文脈を読み取ることは、極めて困難でしょう。
ここに至って、当初抱いていた「GA4はどう進化すべきか」という問いの答えがはっきりと見えてきました。
直面している問題の本質は、「GA4というツールの画面を見るか見ないか」でもなければ、「GA4の機能がどう進化すべきか」というツール論でもありませんでした。
「AIによって自分たちのデータ分析は劇的に速くなった。しかしそれと同時並行で、AIによって分析対象(顧客行動)がGA4の外側へと大きく飛び出してしまった」
こうした地殻変動がこれから起きようとしているのです。
理想を言えば、GoogleがGeminiのAI上のユーザー行動データを、個人情報が特定されない集計レベルで公開してくれれば話は早いのですが、どうなんでしょうね(現実にはなかなかそうもいかないでしょうが)。
あるいはGA4のデータ以上に、サーバーログのボットたちのアクセスデータを見る必要がありそうです。
もしくは、人とボットの区分けこそ、AIで自動的に振り分ける仕組みが必要とも思います。
いずれにしろ、プラットフォームの進化をただ待つのではなく、アナリストの側が発想を変えなければなりません。
これから求められるのは、「GA4で何がわかるか」を考えることではなく、「ビジネスを改善するために何を知る必要があり、そのためにGA4の内外からどんなデータを統合してAIに揃えてあげるか」という視点です。
これはこれで大きな問いなので、答えは簡単ではありません。
最後に、現場の実務者として足元の現実的な温度感についても触れておきたいと思います。私自身は少し長いスパン(そうはいっても進みが速いのですが)で捉えてこのコラムを書いています。
今回ご紹介した調査の数字は、世界や日本全体のマクロな集計値です。当然ながら、自社の業界や取り扱う商材、BtoBかBtoCかによって、現場で受けている影響の度合いは大きく異なります。
自社サイトの顧客層を見極めたとき、「まだそこまで慌てて心配する必要はない」というサイトもあるでしょう。一方で、「すでにAI経由の来訪やエージェントの巡回が増えており、急ぎ構造化データや機械可読性の対策を検討すべき」というサイトもあるはずです。
欧米の調査に比べれば、私が見る範囲では、日本のサイトはそこまでボットの割合は高くない印象です。
「GA4はどう進化すべきか」というツール単体の思考からはじまった問いは、Webの世界とユーザー行動の構造変化、そして「ビジネスのためにどんなデータを揃えるか」というデータアーキテクチャの設計論へとたどり着きました。
今年から来年に向けての大きなテーマとして、ぜひみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
次回は、こうした環境変化の中で、現場のアナリストが足元で具体的にどんなデータ準備を進めるべきかについて考えてみたいと思います。
【前回のコラム】生成AIは個人=私自身を大きく変えた。では、企業のビジネスは?(大内 範行 2026年8月19日)
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[参考リンク]
・dbt Labs: 2026 State of Analytics Engineering Report
・Matthew Prince (Cloudflare CEO): X post on automated web traffic crossover
アナリティクスアソシエーション代表
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
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