コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2026年8月19日号より
BBCニュースの「Why Japanese firms are being so slow to use AI(なぜ日本企業はAI活用がそんなに遅れているのか)」という記事が話題になりました。
▼Why Japanese firms are being so slow to use AI
記事によれば、職場でAIを使う日本の労働者は8.4%にとどまり、米国の50%、英国の32%を大きく下回ります。障壁として挙げられているのは、1) 失敗を嫌う企業文化、2) 合意形成に時間のかかる組織、3) 紙業務や老朽システム、4) IT人材不足。つまり、お決まりの「日本の企業文化批判」です。
私は個人的に、この見立てにはやや懐疑的です。
当初ChatGPTが登場した頃、日本企業はむしろ積極的に生成AIの導入を進めていました。ただ、その時点での選択肢は、話題のChatGPT、普段使いのビジネスアプリと親和性が高いMicrosoft Copilot、Google Geminiが中心でした。
ところが今年はじめ頃から、ClaudeがOpus 4.8やAgent Teamsを出し、先進層の間ではClaudeが第一候補に躍り出ました。大企業が有料のClaudeを社員に広く使わせる追加導入や切り替えは、正直すぐには難しかったでしょう。
導入が遅れて見えるのは、こうした事情の積み重ねもあるのではないでしょうか。
まあ、これからです。
ただ、もうひとつ。文化よりも根深い、生成AIという道具そのものが持つ構造的な「やりにくさ」があると私は考えています。
AIはひたすら一人が集中して使った方が生産性が高く、共同作業との相性はまだよくありません。
この点では確かに、合意や承認を重んじる日本企業には、決定的に合わない面があります。周りを気にせず、ガンガン使ったもん勝ちな道具なのです。
実際、周囲と相談するより、AIと対話しながら進めた方が進みは早いです。
マルチエージェントを使えば、自分ひとりの指示で優秀なメンバーがガンガン働いてくれます。
その間、脳みそにはアドレナリンが出ているので、集中できる時間があればあるほど良いのです。
ところが、完成までのプロセスや途中経過は、周囲と共有のしようがありません。
いわゆる「使い方」や「手順書」も、かなりケースバイケースになります。
GA4はじめ、これまでの既製品のツールなら、社内説明会や研修トレーニングで広げることができました。でも生成AIに決まった使い方やお作法はなく、そんな時間があるならさっさと使った方が早い、という状態です。
このような状態ですから、いいものができても、作った個人に属したまま、なかなか広がっていきません。
基幹業務やSaaSの置き換えをAIで進めるとなると、足踏みすることになるでしょう。
個人が取り組んだ方がいいものができます。しかし、それを会社でオーソライズして良いのか、誰が何をチェックして承認するのか。そう考えだすとなかなか進まないのも、しばらくは仕方がないでしょう。
a2i編成委員でもある運営堂・森野さんの「森野誠之の毎日堂マーケティングラジオ」に、名誉ある第一回ゲストとして出た時にも、そんな話をしました。AIはどんどん使い倒したもの勝ち、ひとり、もしくは少人数で進める方がはるかに早い。だから本当は、中小企業やその支援者の方が、どんどん使いこなせるようになるはずだ、と。
▼森野誠之の毎日堂マーケティングラジオ / アユダンテ 大内範行 さんインタビュー前編
さて、私個人はどうか。実は悩んでおります。
正直にいうと、これまで新しいものには、ずいぶんチャレンジしてきました。SEO、AdWordsなどデジタル広告への大胆なシフト、Google アナリティクスによるデータ分析。
こうしたチャレンジでは、クライアントのビジネスを上向かせ、変革をもたらしてきた感触があります。特に取り組みはじめに、成功体験を積むことができました。
ところが、日々生成AIを使っていながら、支援側として顧客のビジネスにいい影響を与えた、という実感はまだ持てていません。これは自分でも首を傾げています。
不思議なことに、自分自身は、生成AIのおかげで大きく変わったとさえ思っています。大げさに聞こえるかもしれませんが、言い過ぎではありません。
ClaudeのFableを使い倒し、働き方、考え方、習慣、そして人生の優先順位さえ、新たな視点で取り組みはじめています。
個人の私は、生成AIで確かに変わりました。でも支援者としての私は、まだクライアントの企業を変えられていません。考えてみれば、これは冒頭のBBCの記事と同じ構図です。日本でAIが広がらないのは、個人にはよく効くのに組織には広がりにくい、この道具の性質そのものが原因なのかもしれません。
では、この壁をどう越えるのか。
同じ悩みを持つ実践者のみなさんと正面から議論してみたいと思い、9月の小さなイベントを企画しました。
先駆者たちは生成AIを使って、どんな手応えがあったのか?
逆にどこが今ひとつだったのか?
そして支援側に求められるものは何か?──そもそも支援はまだ必要なのか。
みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
【セミナー情報】
「生成AIのデータ分析 現場のリアルとこれから」 【a2i DEEP Connection】|2026/9/15(火)
アナリティクスアソシエーション代表
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
2026/09/15(火)
セミナー「生成AIのデータ分析 現場のリアルとこれから」 【a2i DEEP Connection】|2026/9/15(火)
生成AIでデータ分析はどこまでできるのか? 先駆者はどのAIを使いどう取り組んでいるのか? 本当に価値が出せているのか? 組織の中で取り組む …
2026/08/25(火)
オンラインセミナー「ノンデザイナー&ノンプログラマー向け 生成AI×クリエイティブ実践」|2026/8/25(火)
生成AIを活用すれば、ノンデザイナー・ノンプログラマーのマーケターでも、初期案づくりや突発的な制作をスピーディに進められます。 本セミナーで …
2026/07/15(水)
オンラインセミナー「はじめてのBigQuery生成AI分析 ― 費用と難しさへの不安を解消して、まず動かしてみよう」|2026/7/15(水)
「BigQueryでの分析が本命」とわかっていても、SQL、費用、設定の多さに身構えてしまう――そんな方に向けたセミナーです。 生成AIの進 …
【コラム】生成AIは個人=私自身を大きく変えた。では、企業のビジネスは?
アナリティクスアソシエーション 大内 範行BBCニュースの「Why Japanese firms are being so slow to use AI(なぜ日本企業はAI活用がそん …
【a2i DEEP INSIGHT】ボットが過半数のウェブ。「訪問者は人間」という前提が崩れはじめている(7月度ニュース深掘り)
発信元:メールマガジン2026年8月5日号より今月は趣向を変え、a2iメンバーがピックアップした記事の中からひとつのテーマに絞ってお届けします。「ウェブへのアクセスの過半数が、すでに人間 …
【コラム】自社の経験と文脈を蓄積しよう ― BigQueryと生成AIで変わるマーケターとデータの関係
アナリティクスアソシエーション 大内 範行マーケティングの現場で、BigQueryに挑戦する非エンジニアの方が、少しずつ増えています。 BigQueryには優れた点がいくつもあります …