a2iコラム

2009年に始まったアナリティクスアソシエーション(a2i)は、2027年10月に活動を閉じます。残りはおよそ1年。この最後の期間を、私たちa2i編成委員は「ファイナルステージ」と呼ぶことにしました。

18年の歩みを思い返したとき、ひとつの言葉が浮かびました。

「Progress not perfection」=「前進しよう。完璧じゃなくていいから」

この言葉に出会ったのは2011年です。好きなジャズバンド「ヴァンガード・ジャズ・オーケストラ(The Vanguard Jazz Orchestra)」のリーダーのインタビュー本で見つけました。

居心地のいい場所(Comfort Zone)を抜け出し、完璧でなくても一歩前に踏み出す。その積み重ねが、やがて人生を変えるチャンスにつながる。そんな趣旨の言葉です。

▼『前に進む力』/ ダグラス・パーヴァイアンス、跡部徹 著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年6月

当時も「ふむ」と思いましたが、今読み返すと、古い友人に再会したような気持ちになります。15年を経た今も、そのまま噛みしめることができる言葉です。

2009年、手探りの始まり

a2iの原点は、2007年に書籍『できる100ワザ Google Analytics』を書いたとき、まだ数少なかったアクセス解析の担当者たちに話を聞いたことでした。

当時、アクセス解析は業務としてまだ認知されていませんでした。興味をもった人が本業の傍らで取り組む、孤独な仕事だったのです。出版前の取材でも、出版後も、いろいろな方にお会いしました。私の拙いGA本に、付箋をびっしり貼ってくれた人も何人かいました。

そんな人たちを集めてみよう。そう思って一歩を踏み出したのが、a2iのきっかけです。

当時、Webのデータはツールによって計測方法が違い、出てくる数字もバラバラでした。どこにも正解のない世界です。

a2iの発足に先立つ2008年、最初の活動は「アクセス解析のワークショップ」でした。

今思えば、ちょっと無謀な試みだったかもしれません。環境保全団体のWWFジャパンにGoogle Analyticsを開放してもらい、4-5人のグループ5つほどで、データ分析から改善提案までをまとめてもらいました。

当然、サイトの改善提案はグループごとに違いました。どれも間違いではありません。正解はひとつではないのです。

正解のない世界で、一歩前へ

デジタルマーケティングのデータ分析では、今でも完璧なデータがそろうことはありません。不完全なデータから仮説を立て、施策を試し、そこからまた新しい気づきを得る。その繰り返しです。試験問題も模範解答もありません。

a2iの運営も同じでした。「この人の取り組みが面白そう」という人を探して、登壇をお願いする。セミナーで誰かが発表した工夫を別の誰かが試し、別の角度からの気づきをまた共有する。セミナールームの聞き手が、いつの間にか登壇者になっている。そんな場でした。

おそらく「自分でもできそうだ」と思った方も多かったのでしょう。a2iの終了を発表すると、こんな声が届きました。

– 「自分はa2iが最初の登壇だった」
– 「a2iに参加したことでデジタルマーケティングの世界に踏み込んだ」
– 「もし、a2iに参加しなければぜんぜん違うキャリアになっていた」

a2iが、業界を一変させるような大きな成果を出したわけではありません。それでも、確実に進んだものはあります。ユーザーの変化やツールの進化とともに、私たちの分析手法も、一人ひとりのスキルも、2009年とは比べものになりません。最近のいちしま泰樹さん(株式会社真摯)のブログ記事などを読むと、GA4だけでも、設定次第で相当高度な分析ができるようになっています。
私自身、今はサイトに限らず、インプレッションや売上、顧客データなど、あらゆるデータを分析しています。

▼株式会社真摯 ブログ記事一覧

ただ、その根底に流れるものは変わっていません。私の場合は「データの先のユーザーからビジネス改善のヒントをつかむ」という尽きない探究心です。

a2iファイナルシーズンでは、関わっていただいたキーパーソンへの動画インタビューを掲載していきます。
第1回は、登壇回数が最も多い小川卓さんです。「一番最初の登壇がa2i」で、「そのときのスライドは今でもこのまま話せる」と話してくださいました。

▼小川卓 x 渋谷泰一郎「集計はAIへ。アナリストは何をする?」

AI時代にこそ、一歩前へ

「Progress not perfection」、とにかく一歩ずつでも前に進むこと。それは、アクセス解析に関わる人たちが共通して身につけてきた姿勢です。もちろん、戦略や計画を軽んじるつもりはありません。「こんないい加減な分析じゃダメだ」と何度も立ち止まって考えた時間もあります。
ただ18年を通して見ると、インパクトを生んできたのは、緻密な計画よりもアクションのほうでした。

では、AI時代はどうでしょうか。生成AIの登場で、アイデアを形にして試すコストは劇的に下がりました。分析も、タグを駆使した複雑な設定も、ずいぶん楽になっています。指標の意味やツールの使い方を理解するのに多くの時間を費やしていたころとは、隔世の感があります。

一方で、不思議な時代になったとも感じます。AIは答えをどんどん出してくれます。それなのに、次に何をすべきか、自分は何を提供すべきかという問いは、昔よりも見通しが利かなくなっています。

正解が見えないなら、完璧な計画は立てられません。今立てた計画も、数カ月後、数年後には変更を余儀なくされるでしょう。2009年にa2iが正解のない世界へ踏み出したとき以上に、一歩でもアクションを起こすことの価値は大きくなっています。

AI時代には「人間に残された役割は、本質的な問いを立てること」とよく言われます。日々進化するAIモデルを試すことに追われ、肝心の「問い」が空っぽにならないよう、じっくり立ち止まって考える時間も必要です。

あるいは、大事な問いは、スマホやパソコンから離れて人に会う中で見つかることもあります。自分なりのアウトプットを重ねる中で見えてくることもあるでしょう。
「恐れずに最初の一歩を踏み出す」ことから問いが生まれる。そのことは、AI時代になっても変わらないと思います。

ファイナルステージで残していくもの

最後の1年は、これまでのセミナーの振り返りや「アクセス解析の歴史」、この分野を切り拓いてきた「アナリティクスの証言者たち」へのインタビューなどを、順次お届けしていく予定です。

振り返りの企画ではありますが、私たちがあがきながら一歩ずつ進んできたProgressの生々しい記録には、次につながるヒントがあるかもしれません。そんな思いで取り組んでいきます。

a2iは2027年に幕を閉じますが、「一歩前に進む」姿勢は、皆さんそれぞれの現場でこれからも続いていくはずです。最後の1年、ぜひ一緒に前進を重ねていきましょう。

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表  
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。

主な講演

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ファイナルシーズンでは、2027年7月までセミナーを開催します。過去のアーカイブ動画もご視聴いただけます。ぜひご参加ください。

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