コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2025年7月9日号より
本日のコラムは、ショッピングと生成AIについてです。
私たちは、果たして購買行動を生成AIで決めるようになるのでしょうか?
結論を先に言えば、実際にそうなるには、もう少しだけ時間が必要です。けれども、その日のために、今からできることがある、というお話です。
今回のコラムは、前回のコラムの続きでもあります。
【コラム】生成AI検索時代のマーケティングこそ王道マーケティング
まずは、生成AIがショッピング行動に影響を与えているという調査結果から。
Adobeによると、米国のECサイトへの生成AI経由のトラフィックは、2024年7月から2025年2月の7か月間で1,200%増加し、特にホリデーシーズンに顕著な伸びを示しました。
5,000人の消費者調査では、39%がオンラインショッピングに生成AIを活用し、53%が今後1年以内に利用を予定しているとのことです。
▽Generative AI use surging among consumers for online shopping: Report
出だしで紹介しておきながら何ですが、私は、この調査結果に懐疑的です。お金を払うことに、まだまだ生成AIは頼れないだろうと、考えている一人です。
ただ、実際に試してみると、思ったよりも便利だったのです。
今回の私の買い物は、6畳の部屋に置く空気清浄機でした。決して安くない買い物ですが、そこまでのこだわりはありません。そこまで時間をかけたくないな、という買い物です。
まずは、いつも通りAmazonあたりから商品を検索しながら調べていきます。
ショッピングでは実際に購入した人の口コミが大切です。ただ、最近はAmazonの口コミが信頼できません。
やけに短い高評価の口コミが大量に並んでいたり、なんか日本語が怪しいものも多かったりします。ネガティブな評価も、どうも競合の書き込みに見えてきて、どんどん心配になってきます。
商品を評価した口コミを、さらに自分の目でじっくり評価しないといけない、とは、なんとも馬鹿げた時間の使い方です。
さて、ここから生成AIに頼ってみました。
代表的な商品を紹介してもらい、比較してもらい、それを見ながら自分の重視する条件(花粉症対策、大きさ、静かさ)がわかってきました。さらに、そこに重点をおいて比較表を作ってもらいます。
特に便利に感じたのは、レビューのまとめです。
口コミ評価をさらに評価するような無駄な時間を省いてくれます。
生成AIは、Amazonのレビューに加えて、価格.com、ヨドバシ、Yahooショッピングなど広範囲なレビューを、商品の強み、懸念事項、どんな人に最適か、などに分けてわかりやすく解説してくれます。
たとえばどんな人に最適かは、こんな感じです。
「花粉症やアレルギーに悩む方、乾燥対策を重視する方、コンパクトで静音な空気清浄機を求める方に最適です。特に寝室や小中規模の部屋での使用に向いています」
もちろん、追加で気になる点をAIに質問することもできます。
少なくとも、今回は比較的短い時間で、2つの商品に絞るところまではいけました。
感覚としては、家電量販店の詳しい店員さんが、ブラウザやアプリの中にいる感じです。
もちろん冷静に考えれば、どこまでいっても生成AIは、空気清浄機を買って使うなんて芸当はできません。だから、生成AIに買い物を選んでもらうなんて考えられないかもしれません。
でも、別の見方をすれば、家電量販店の店員さんだって、空気清浄機を全部使っているわけではないんですよね。
頼りになる店員さんは、商品知識を記憶しているのはもちろんですが、それに加えてお客様が質問するポイントをよく知っている人でもあります。
質問を想定して答えをまとめる役割なら、生成AIは難なくこなせるようになるでしょう。
繰り返しますが、今はまだ買い物を生成AIで決める人は少ないかもしれません。
けれども、信頼できないレビューに疲れた人々が、生成AIの答えに頼る未来は、そう遠くはないでしょう。
生成AIの提供側にとっても、電気代やサーバー代をまかなうためのビジネスモデルは重要です。いつまでも、巨額の投資資金という薪(たきぎ)を燃やし続けるわけにはいきません。
コンシューマー向けの生成AIにとって、ショッピングは次の主戦場になるでしょう。ショッピングエージェントなるものが、登場するのも時間の問題でしょう。
そのために、お店の側、ECストアの側ができることはなんでしょうか?
自分のサイトのトラフィックを、熱心に分析しても答えは見つからないでしょう。なぜなら、生成AIで商品を絞り込んだお客様のトラフィックは、指名検索がほとんどになっていくからです。
今のうちにできることは、お客様の聞きたいことをよく理解し、その答えを用意しておくことでしょう。生成AIエージェントという店員さんが、お客様の質問に答えられるように助けるイメージです。
商品や店舗についての詳しいコンテンツを用意するのは、今まで通りです。同時にお客様の問いを細部までよく知り、そしてその答えを、あらゆるタッチポイントに向けて出していく。それを積み重ねていくことでしょう。
そうですね、これってまったく新しいことではありません。
結論は前回のコラムと同じです。
生成AIの時代、必要なのは基本のマーケティングの取り組みです。その価値が、より明確になる。そんな時代がきたということです。
生成AI時代を絶好の機会と捉え、改めてブランド戦略と戦術を再定義する時です。
アナリティクスアソシエーション代表
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
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