コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2024年3月6日号より
今回のテーマは、「【コラム】ポストCookie時代、AI時代? その前に、2024年は顧客理解の再定義を」の続きです。顧客理解を深めることで、「広告予算」の再考を進められないか、というお話です。
まず課題から。私は広告運用が専門ではありません。ただ、デジマのデータを分析する立場で、広告の状況も見てきました。その中で、「刈り取りに偏り、ファネルが描けない」という問題を痛感してきました。
答えのない課題なのですが、一歩でも先に進められないか、と今回のコラムで考えてみました。
ファネルは何種類かあるでしょうが、簡単な例として、以下のものを挙げておきます。
「認知(潜在顧客)」→「比較検討(顕在顧客)」→「刈り取り(今すぐ顧客)」
→「再訪(指名顧客)」
果たして、今進めている広告はこのファネルのどこを見ているでしょうか?
まだネットのない「不適切にもほどがある」時代を思い起こすと、真っ先に思い出すのはテレビコマーシャルを代表とする商品認知、ブランド認知だと思います。そして、雑誌記事などで比較検討に乗せ、店頭の陳列で目立たせて刈り取る、という流れが浮かんできます。ある程度ファネルに沿って戦術がありました。
しかし、令和の広告現場は、かなり「刈り取り」側に寄っていませんか?
なんとか認知側に広告ファネルを広げようと、実験的な予算を割り振っても、数値(CPAやROAS)が取れない、と頓挫してしまいます。
昭和の方が見たら「もっとうまく割り振れよ」とカツを入れる気がします。
ネット広告は、効果を数値で測れるという幻想のもと、費用対効果重視で進められてきました。
しかし、プライバシー保護の高まりなどを受け、徐々に困難さが増しています。
ビュースルーコンバージョンやオーディエンスターゲティングなど、アシストの紐付けが難しくなり、自動入札のシグナルもその分減少しています。
つまりファネルの刈り取り以外のところ、コンバージョンからより遠いフェーズが、大きな影響を受けています。アトリビューション分析も限界を迎えています。
それでも、ファネルを意識した広告展開をするにはどう進めればよいでしょうか?
残念ながら、ここに明快な回答はありません。
ひとつはプラットフォーム側の解決策に頼る方法です。
AIのモデリングを駆使した解決策が出てきていますので、そちらに頼るのがひとつの方法です。
ファーストパーティーデータを連携させ、データの欠損を少なくし、できるだけモデリングの精度を高めていきます。これを言うと怒られそうですが、AIのどんぶり勘定に頼る手法ともいえます。
人間主導で進める場合、明確なデータ根拠が見いだせない以上、ある程度「えいや」でスタートするしかないように思えます。文字通りどんぶり勘定です。
もちろん根拠なしに「どんぶり勘定」を進めるのは簡単ではありません。現実的には、ある程度上位レイヤーで、決断していかないと進まないでしょう。
どちらの方法を取るにしても、実践フェーズでは、チームの経験と勘を養って進化させていきたいところです。
この実践フェーズで、顧客理解を深めていくことが大きな助けになる、と考えています。
ひとつは、部分最適化と俯瞰です。
インプレッション、クリック、滞在時間や再生関連指標などのエンゲージメントデータ、対象となるメディアの範囲で得られる反響データで部分最適化を進めていきます。
その上で、節目節目で、売上などの目標数値全体への反響を俯瞰します。間接的に目標値を上向かせる反響が得られているか、それを議論していきます。
もうひとつは定性的な取り組みで、対象の媒体とオーディエンス理解を深めていくことです。
もし、オーガニックのソーシャルや動画の運用経験を持っているなら、そのチームとコミュニケーションを深めていくとより質を高められるのではないかと思います。
オーガニックのチームで反響をつくった経験を持ち寄れば、オーディエンスに合ったクリエイティブ、コンテンツ、タイミングを追求していくことができるでしょう。
SEOのデータと広告のデータを比較検討していくのもひとつの鍵になると思います。
リスティングの自動化を進めると、ブランドワードなど確実に数値が取れるデータに寄ってしまい、ファネルの上流のキーワードへの投資が減っていきます。比較検討ファネルでの出会いを失っていく状況が生まれます。
SEO側で、反響が得られているキーワードを見ながら、上流ファネルのキーワード群への追加の投資を勧めていくことも助けになるでしょう。
繰り返しますが、これは明確な解決策、妙案のない課題です。
ファネルを意識した広告の展開は、どんぶり勘定ではじめつつ、メディアとオーディエンスの理解、顧客理解を深めていくことで、精度を高める。そんな取り組みが今後大事になっていくのではないでしょうか。
やや生煮えと認識しつつ提言として書いてみました。
アナリティクスアソシエーション代表
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Google。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスのマネージャなどを歴任。その他、SEO会社起業や日本の事業会社のデジタルマーケティングに従事してきた。
2019年からはJellyfishにVP Analyticsとして参画。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてウエブ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
また、仕事の傍ら、幕末 徳川慶喜についての小説も執筆出版している。
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