コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2021年6月9日号より
9月に「アップルがブラウザを支配しつつある面倒な世界」というコラムを書きました。
プライバシー保護は賛成だけど、でも導入されたITPの仕様が難しすぎます。
iOSのバージョン14がリリースされました。
今度はアプリの広告効果計測に新しいプライバシー保護の仕組みが導入されました。
もともとアプリの効果計測の世界はとっつきにくいのですが、そこに複雑な仕様の制限が加わったことで、わかりにくくて、お手上げに近い状態です。
アップルのせいではないのですが、まずユーザー識別のIDの用語から混乱しています。
アプリのユーザー識別のIDの用語が、インスタンスID、広告ID、デバイスID、ベンダーIDなど複数あって、明確に理解できません。
ここではFirebaseアナリティクスで整理してみます。
Firebaseアナリティクスの計測は、「インスタンスID」でユーザーを識別します。このインスタンスIDは、ウェブのファーストパーティCookieに設定されたユーザー識別のID(Client ID) に似た仕組みです。
インスタンスIDにセットされる値は、「広告ID」が有効なデバイスなら、この広告IDからインスタンスIDを自動で生成します。この広告IDはiOSの場合、「IDFA (ID for Ads)」 と呼ばれます。デバイスごとにユニークでアプリが違っても端末が同じなら同じIDになります。
このIDFAは「デバイスID」と呼ばれるときもあります。デバイスIDは広い意味ではデバイス固有のIDですが、広告IDがデバイスごとに振られるため、多くの場合、広告IDと同じ意味で使われます。
広告の識別子なので、IDFAが使えれば、広告で収集できるデータが扱えます。
GA4のアプリ側の性別、年齢、興味関心のカテゴリなどは、IDFAから集めたデータをインスタンスIDに紐つけてレポートしています。IDFAが取得できなければ、ユーザー属性の情報が欠落し、ターゲティングの範囲がぐっと狭くなります。
ただ、Firebaseアナリティクス自身は、IDFAがなくてもユーザーの識別はできます。
広告ID(iOSではIDFA)がなければ、アプリの識別子である「ベンダーID(IDFV Identifier for Vendor)」を使います。このIDはアプリごと、デバイスごとに異なる番号が振られます。
でも当然ですが広告からアプリインストールなどのコンバージョン効果計測なんかは、IDFAがなければ難しくなります。
アップルはIDFAを取得する際に、あらかじめユーザーの許可を確認しなさい、とiOS14でお触れを出しました。この許可の仕組みがATT(App Tracking Transparency)と呼ばれるものです。
このATTがリリースされると、計測を許可したユーザー以外はIDFAが発行されません。
iOS14がリリースされたばかりですが、この許可の割合ってどのくらいだと思いますか?
アプリ計測のAppsFlyerが更新しているダッシュボードによると、ポップアップで「Appにトラッキングを許可する」と答えるユーザーは、だいたい30%から40%程度です。
ざっと広告効果が計測できるユーザーが半分以下になる計算です。もはや広告のターゲティングと効果計測への影響は甚大です。
ここでアップルは、IDFAがなくてもインストールとその後のコンバージョンが計測できる、新しい仕組みを出してきました(実際には昔からあった仕組み)。
これを「SKAdNetwork」と言っていて、読み方は、スキャッドネットワークあるいはスキャッドなどと呼んでいるようです。
で、このスキャッド君の仕組みが、もうわけがわかりません。
と書いたところで、さすがに長くなってきました。続きは今週末の柳井さんのセッションで触れるか、次回のコラムで書きたいと思います。
かなりはしょって特徴を言うと、スキャッドは個人が特定できないよう徹底するため、対象範囲が狭くなり、計測結果がわかるのが遅くなり、短い広告効果しか見てくれません。
お金払ったけど、本当に買えたのかわからなくて、商品がいつ届くかわからない癖にチェックしてないと、さっさと持ち帰っちゃうネットショップ、そんな状態です。
アップルのアプリ計測の状況は、ウェブ以上に頭が痛い状況です。
アナリティクスアソシエーション代表
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
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