コラムバックナンバー

新型コロナウィルスについて、日々状況が悪化する中で、コラムを書くのはとても難しいことなのですが、私なりにトライしてみます。

過去、これほどデータが取り上げられた災害や事件はないでしょう。
Twitterはじめネットには、様々なデータと分析が、対数グラフを中心に世界的な規模で出ています。見えない相手に、世界がデータと分析で戦っています。
しかし、この「データ」も、日本は海外と比較できない、異常な状況に置かれています。私なりに整理してみます。

[ ゴールの設定 ]
まずは目指すべきゴールです。4月5日のNHK日曜討論で、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長の尾身茂氏は、おおよそ以下のような趣旨の発言をしています。
「全ての年齢層、国、都道府県、一般市民、マスコミが心を一つにすれば、世界一低い死亡率を達成することも可能だし、そこを目指す」
非常に明確なゴール指標がリーダーから提示されています。私自身、常にここに立ち戻りたいと思います。

日本で比較的信頼できるローデータは死亡者数です。この数字を見る限り、日本は各国と比較して驚くほど良い状況です。
100万人あたりの死者数では、日本が0.7人、ヨーロッパで致死率が低いと注目されたドイツでも19名と、日本のよい意味での異常さが際立っています。

しかし、この死者数や重症者のデータは、かなり遅れる数値です。潜伏期間も加味すれば、感染から1-2ヶ月以上あるでしょうか。
目指すべきゴールとして、最終評価の指標になるのですが、現状把握や次の行動を決めるデータにはなり得ません。
初期段階は良い結果を示していますが、未来は何も約束されていません。

[ キーとなる指標の選択 ]
ゴールから遡って、指標を集めて分析を始めようと誰しもが思います。
しかし、核となる先行指標「感染者数」のデータが日本では使い物になりません。
3月18日の柳井さんのコラム「新型コロナウイルス騒動に見るデータの見方」というコラムにもありますが、「感染者数の誤謬」が生じています。

これは日本が無闇に検査しないという方針をとったためですが、この是非はここでは問いません。
ヨーロッパで検査しなさすぎと批判されているスウェーデンでさえも、人口100万人あたりの検査数で、日本の12倍です。
それに加えて、検査数について、厚労省や東京都が公開している数値は、必ずしも自治体と国のすべての情報が集計しきれてはいないようです。データのクレンジングも不十分です。

ニュースでは連日取り上げられていますが、この二つの公開データは分析の上ではゴミデータです。間違っても現在の検査数、感染者数、それを母数とする致死率などで状況を把握しようとしてはいけないことになります。

[ 補助的な指標 ]
感染者数という最重要データが分析に適さない状況で、補助的に使えるとしたら、問い合わせ件数だったでしょう。検査の問い合わせを受けた際に、地域、年齢、問い合わせのチャネル(医者からかそうでないか)、簡単な状況(症状、渡航歴)などと集計する仕組みがあれば、現状とトレンドの把握として、もっとも役立つ補助データになっていたはずです。

ここに来て厚労省は、LINEを使った数千万規模のアンケート調査を開始しています。これを頻度高く実施してデータを集められれば、状況や変化は読み取れると期待されます。
しかし、アンケートはサンプルバイアスの影響を受けやすい手法です。
どのデータが本当に有効で、何を読み取るかは、相当のスキルと経験が必要とされるはずです。

[ モデルケースと個データ分析 ]
限られた状況で、より深い実態を把握するには、先行モデルで個データの分析をすることも一つの手段になります。個別のデータを人間が目視することで、見えない実態に近づきます。
感染症対策専門家チームでは、感染が先行する北海道で緻密な分析が行われました。
これはかなり興味深い分析です。
検査が不十分な中、飛び飛びの感染データと詳細な聞き取り情報から、経験とスキルを駆使して感染の連鎖をあぶり出します。クラスターの状況とその対策が導き出され、北海道の緊急事態宣言の施策は成功を収め、感染は一旦収まり、宣言は3月19日に解除されています。

しかし、同じモデルが、規模が格段に違う東京都市圏に適用できるかは疑問があります。きめ細かく丁寧に感染クラスターをつぶしていく手法は、スケーラブルではありませんので、分析と対策の取り組みは舵を切る必要があります。

[ 統計での推計 ]
データが増加すれば、分析と対策の手法も変える必要があります。
北海道のデータや、先行した海外のデータなどを、東京の現状に当てはめて、規模の大きな場合のモデルを推計します。
クラスター対策班で分析に当たる西浦博・北海道大教授からは、こうした解析結果が提示されています。
いつどんな対策を打てば、指標が変化するのかをここから見極めることができます。同時に医療崩壊を起こさないために、病床数などのキャパデータも加味して、打つべき手を打っていきます。

[ あらゆる周知方法 ]
三密を避けるなど、取るべき対策について、日本のクラスター分析が進んだために、かなり早い段階で周知がなされています。これは非常にポジティブな面です。
しかし、ここで対策を連呼しても、行動変容が周知しきれない、ことがわかります。
従来の伝達媒体では、伝わらない、リーチできない層がいるのです。
ソーシャルやYouTubeなどあらゆるメディアとコンテンツを駆使して、周知が試されていきます。
日本のデジタルマーケティングの英知を結集して、YahooやLINEなどがデータで協力していけば、これまでにない規模の行動変容施策の取り組みになるはずです。

[ 組織を動かす ]
最大の課題として、これらのデータ分析から日本の政治家、官僚、自治体、会社がどれだけ迅速に対応できるか、がありますが、これはとても書ききれません。
一言だけ触れれば、私個人は、まず短期的に感染を減らすために集中して取り組み、経済の補償や政治のバックアップは、そこで生じる歪みをどうカバーするか、で考えるべきだと思います。

—–
拙い私なりのまとめですが、自分なりに書いてみても、大きな転換点に立っていることがわかります。
私自身は、初期段階では非常にポジティブな面も見い出しつつ、楽観も過度な悲観もしていません。
ゴールから逆算すれば、医療崩壊を起こさずに、短期にどうやって感染を減らすのか。それには人同士の接触を極端に減らすことに尽きると思います。
メディアが連日伝える「感染者数」という不確かなデータにいたずらに悲観的にならず、自分なりにデータと分析の質を見極め、冷静に状況を把握できればと考えています。このコラムがその一助になればと思い、書いてみました。

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表  
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。

主な講演

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