コラムバックナンバー

昨今の新型コロナウイルス問題、断片的な情報から不安が増大して騒動になっている感が否めません。こういう時に正しく数字を見ることの重要性を改めて思い知らされます。

■医学はデータと確率の世界

世の中の事象のすべては確率的なものであり、だからデータが重要になると私は思っているのですが、医学も例外ではありません。

代表的なのが薬効など治療法の有効性の検証。治験を行ってデータを取って判断するということで、ABテストと手法は同じです。ABテストを実施した結果、結局は確率的な判断に基づいて施策Aのほうが有効だと導くわけで、医薬品の効果もそのように導き出されているものなのです(テスト設計が重要だということも共通です)。違うのはたまたま対象が人体にかかわるものかどうか、そこだけです。

同様に診断なども確率的なものになります。結局は症例、データに基づいて確率の高い結論を導いているのです。画像診断などは顕著で、データがすべてデジタル化可能であり、それに基づいて学習したAIが診断をするのです。一人の人間の知識と記憶の量を遥かに超えたデータに基づいた学習済みモデルがあるわけで、画像診断でAIが強いというのは当然なのです。

そして忘れてならないのは、データに導かれるアウトプットは確率的だということです。ちょうど100%ということはない。あくまで100%に近いというものでしかありません。

命にかかわるものだから特別ではないかと誤解する人たちは多いのですが、医学も結局はデータと確率に基づいている。それを忘れてはなりません。興味のある方は「疫学」で調べてみるといいと思います。新型コロナウイルスのような感染症はまさに疫学発祥の分野なのです。

■感染者数の誤謬

新型コロナウイルスの話題の一つとして、感染者数の推移や地域別比較がよく取り上げられます。

これは本当にまずい傾向だと思います。検査数を抑えているポリシーがある以上、感染者数に着目する意味はないのです。国ごとの比較をする際も、検査に積極的か消極的かのポリシーが国によって違えば本当にどちらの国の感染者が多いかわかりません。専門家からは「今後検査数が増えると死亡率が下がる」という言葉も聞きますが、そんな死亡率の数値に意味はないのは明らかですよね。

統計学の用語でいうとサンプルバイアスになります。無作為抽出の場合は小さいサンプルでも正しい結論を導けますが、サンプルに偏りがある場合のアウトプットは統計学的には意味がありません。

一方で死者数に着目するのは意味があります。死者が出ると隠しにくいもので、より実態に近い数値となるのです。そして同時に見るべきはその国の人口です。人口が多ければ当然感染者、死者の数も多くなります。人口に対する死者数で見る。感染の度合いとなると人口密度、つまり人口密度を考慮するといいかもしれません。

普段われわれががKPI設計をするときにも重要な発想で、実態をよく反映した指標は何か。適切な指標に基づいて議論をすることが必要です。

■確率と判断

騒動の中でよく自粛が騒がれますが、

「仮に0.0001%でも死ぬ可能性があるのなら自粛したほうがいい」

と主張する人を見かけます。これも実は危険な考え方で、冒頭で述べた通り医学そのものが確率の話なのです。正しい数値は知りませんが、インフルエンザの薬を飲んで副作用で死ぬ確率はそれより高いかもしれません。激レアな副作用が怖いから薬を飲まないと言っているのと同じです。

確率の問題は別にして、どんな判断にもメリットがあれば同時にデメリットはあります。ここでは

「自粛をすると経済に悪影響を与える」

というデメリットです。そしてそのデメリットを確率とともに評価するのが正しい考え方です。

「自粛をすると一方で10%の確率で会社が業績不振になり、減給になる」
「自粛をすると一方で0.1%の確率で会社が倒産して自分が路頭に迷う」

ということが同時について回ります。これをトータルで評価するわけです。

麻雀やポーカーなど、確率ゲームに長けている人はこのあたりの判断力が優れています。先のように騒いでいる人たちを見ると麻雀の勝ち組と負け組を見ているような気がするのです。

コラム担当スタッフ

柳井 隆道

Option合同会社
代表社員
マーケティングテクノロジスト
marketechlabo

東京大学を卒業後、webマーケティングやサービス企画、システム開発などに従事。
デジタルマーケティングの世界に落ち着き、事業会社、広告代理店を経て2014年に独立。
現在は大小さまざまの事業会社、広告代理店などに対して、テクノロジー観点からデジタルマーケティングの支援を行っている。データ計測の設計、実装から分析、マーケティングオートメーションや広告運用などの施策との連携まで扱う。
さまざまな規模の経験から、企業の身の丈にあったデジタルマーケティングの企画に強い。フリーランスで活動していたが、2017年から法人化。

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