コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2026年4月8日号より
「生成AIがすごすぎて私の仕事がなくなるか不安です」
支援会社やコンサルティングのそんな声を、よく耳にするようになりました。半分冗談まじりとはいえ、速すぎる進化は人を不安にする面もあるでしょう。ただ、私はその度に「いや、むしろ楽しく、忙しくなりますよ」と答えています。
前回のコラムでは、生成AIによって専門的な作業が民主化され、主導権が事業主側へ戻っていくというお話をしました。
– 「専門知識」「面倒な作業」はAIが代替してくれる
– 事業主と支援者の情報格差が小さくなる
– 意思決定までのプロセスと主導権が事業主側に戻る
【コラム】「生成AIで人員を減らせる」は本当?─デジタルマーケティング組織はむしろ強化すべき
これまで「専門家に頼まなければできなかったこと」が、プロンプトひとつで出てくる時代になっています。「わからない、できない」というストレスが圧倒的に減り、「やりたかったけど、今まであきらめていた」ことができるようになっています。
現場が積極的に生成AIを活用しはじめれば、今までできなかったことをはじめようとして、かえって仕事は増えていく可能性が高いでしょう。生産性や効率よりも、「自分でもできる」というポジティブな感覚は、現場のモチベーションを大きく高めるはずです。
事業会社側が自分でできることが増えれば、支援会社は「お役御免」になるのでしょうか?
結論から言えば、「仕事がなくなる」のではなく、「支援の中身が変わり、むしろ楽しく忙しくなる」と私は考えています。
私の予想は当てになりませんし、今まで通りの仕事も続くでしょう。ひとつの見方として書いてみたいと思います。
デジタルマーケティング業界では、これまで事業会社の課題は、ツールを選んだり、SEOなど手法とコンサルを選ぶことで解決してきた面があります。
データ分析ならGA4やMicrosoft Clarity、そしてそれらのツールに習熟したコンサルティングといった具合です。
そのため課題解決前に、新しいツールの導入やカスタマイズから改善施策の提案まで、意思決定までのプロセスの多くが専門コンサルタントに頼る形でした。
しかし、生成AIの登場により、この関係性は逆転しつつあります。
ツールを前提にそれに合わせるのではなく、AIを自社のプロセスや独自の文脈に適応させられるようになったのです。
とくにClaudeが流れを大きく変えました。ChatGPTもGeminiも追いかけるでしょう。自社のやり方をスキルや指示書として学習させれば、自社専用のAIが手に入ります。マーケティングの方針やガイドライン、過去効果のあった施策を読み込ませれば、AIは「自社専用の優秀なビジネス改善エージェント」に変貌します。
ある大手企業のマーケティング管理職が「SaaSを導入するのではなく、自分でつくる発想に変わった」と語った記事を見かけました。そういった変化がまさに事業会社の現場で起こりはじめています。
これまで、コンサルティング費用や支援会社の報酬は、「専門ツールを扱う技術」と「専門家の時間」に対するプレミアムとして成立していました。
「Googleアナリティクスの複雑な設定ができる」「広告管理画面の細かいチューニングができる」「大量のデータをExcelで集計して見やすいグラフにできる」といったスキルが、そのまま価値に直結していたのです。
その「プレミアム」は、もはや機能しにくくなっています。それらの「作業」の多くは、生成AIが得意とする領域だからです。
支援側も生成AIを日常的に使うようになり、コンサルの現場では以前とは違う「戸惑い」に似たやりとりが生まれはじめています。
「このレポートって生成AI使ってるのかな?」と気にしたり、支援側も「ChatGPTを使ったことを言うべきか」と思い悩んだりといった具合です。
こうなると「専門家の時間=プレミアムな報酬」とする時間単価の見積もりは成り立ちにくいでしょう。AIで自分たちでもできると感じる作業に、高いお金を払うことを躊躇するはずです。
では、支援会社は不要になるのでしょうか。事業会社の内製(インハウス)が増えて、コンサルタントは職を失うのでしょうか。従来のやり方を続ければ、失うビジネスもあるでしょう。しかし、多くの事業会社にとって、外部支援が完全に不要になるとは言えないでしょう。
むしろ、これから信頼できる外部パートナーの重要性は増していくと考えています。多くの事業会社には、AIを使いこなす以前に乗り越えなければならない壁がいくつもあるからです。
そもそも事業会社の担当者は、従来の業務で忙しく、生成AIに集中できる時間が限られるという問題があります。新たなチームを作る動きも起こるでしょうが、現場から距離のある企画部が機能しない現実もありますし、そこまで余裕がない会社も多いでしょう。
最初にぶつかるのはデータ基盤の問題です。
GA4を見ても、そもそも必要なイベントが取得できていません。BigQueryに蓄積しても、CRMや他のデータは別の場所にありひもづきません。広告データは代理店が管理していて、自社では把握できていません。こうした「データのサイロ化」は、多くの企業で依然として解消されていません。
生成AIに分析を任せようにも、肝心のデータが散在していては、まともな回答は得られません。
次に、KPIと改善施策の整理です。「コンバージョン率を上げたい」という目標はあっても、そこまでのプロセスをどの指標で測るべきか、体系化されていないケースは珍しくありません。過去の施策も属人的で、記録しているケースは稀でしょう。
AIに「改善案を出して」と聞いても、前提となる指標辞書や施策の選択肢が整理されていなければ、ろくな回答は返ってきません。
ある程度データが揃っても、自社に合わせたAIがすぐ目の前に現れるわけではありません。継続的に泥臭くチューニングする必要があり、エージェント実装の大部分は地道な調整作業になるはずです。
生成AIはそれっぽいベストプラクティスを次々に出しますが、おそらく使えないものばかりでしょう。他社事例をマネして失敗した経験は誰しもあるはずです。生成AIの出す施策は、そんな他社事例の寄せ集めの側面があります。
現場が活用するには自社の方針、業務フロー、試行錯誤の実績に合わせていく必要があるのです。
マーケティング全体を俯瞰できる人材が不足しています。
ツールや手法に依存しないと言えば響きはいいですが、広い知見が求められるということを意味します。SEO、広告運用、アクセス解析、CRM、コンテンツ──デジタルマーケティングは年々複雑化しています。事業会社の担当者が、すべての領域に精通することは現実的ではありません。AIが個別の作業を肩代わりしてくれても、「全体として何を優先し、どこにリソースを集中させるべきか」という判断には、幅広い経験と専門知識が求められます。
事業会社が生成AIを自由自在に使いこなすためには、先述した「前提の整理」をはじめとするさまざまな壁を乗り越える必要があり、そこには信頼できる相談相手が必要です。
こうした事業会社の現実を踏まえると、支援会社の役割は、従来の「専門知識の提供」や「作業代行」という看板とは違っても、それらのスキルの活かし方が変わるだけで、価値はむしろ高まります
結局、どう変わるのでしょうか?
あくまでひとつの見方ですが、「今後は超伴走型」になると私は考えています。それは「事業をよく理解している経験者による、小さな専門家チームの超伴走の支援」です。
この役割は、クライアントである事業会社の現場に定期的に入り、データ整理からAIのチューニング、施策の意思決定まで相手の状況に合わせて一緒に走っていきます。人数は少なくても、深く長く関わる、そんな「密着型の専門家チーム」が、これからの支援のかたちだと考えています。
クライアントは、支援会社に対して自社の事業や現場をより深く理解することを求めるようになるでしょう。
単なるツールの知識や作業の代行先ではなく、「事業をよく理解する経験者」の価値がより一層高まります。
AIをどうビジネスの成果に結びつけるかを共に考える「高度な壁打ち相手」が求められているのです。
気になる、そして重要な課題がひとつ残されています。それは報酬設定の問題です。
米国ではPalantirやOpenAIが、FDE(Forward Deployed Engineer)といった職種を採用しています。FDEは私がイメージする超伴走型の支援のより高度なバージョンでしょう。事業会社の現場に入りこんで、その会社にあったAIを短期間にカスタマイズしていく仕事です。
その報酬体系は一部で「成功報酬型」になると言われています。
先述したように、専門家の「時間単価」という従来の価値がはまらなくなったので、AIによって得られたビジネス価値に応じて報酬を決めた方がより合理的だというわけです。
私はこの形は日本になじまないと考えています。
雇用を柔軟に調整できる米国は、「AIで減った人的コスト」が利益になるので、成功報酬がはまりやすいのでしょう。
しかし、日本では人を安易に辞めさせることはできません。「AI(だけ)で得られた利益」の算定は困難です。
どうなるべきかは、まだ見えていない部分も多いです。支援がなかったと仮定して、追加で採用すべき人員コストが目安になるかもしれませんが、それも難しそうです。結局は、モヤモヤとしたまま、従来の時間単価を目安に設定されるような気もします。
いずれにしろ「自分たちでもできるのでは?」という疑念が払拭できないと、従来の高いコンサルティング報酬は、事業会社内で評価しにくいと思います。その意味でも、日本では小さな専門家チームの支援が、より機能していくと思います。
a2iに参加している支援側の人には、小規模な支援会社やスキルの高いフリーランスの方も多くいます。そういった方々の価値は、むしろ上がっていくと考えています。少なくとも3年ぐらいは「忙しく楽しい仕事」を作り出していけるでしょう。
これまでの「作業代行型」の支援業務は徐々に減っていくでしょう。しかし、それは支援会社の仕事がなくなることを意味しません。むしろ、事業に寄り添う意思決定の伴走者という、より高い関わり方へと進化していくでしょう。そして、そこに新たな価値と同時に多くの課題が生まれるはずです。
皆さんの周りでは、どんな変化が起きていますか?
a2iでは2026年、生成AIを活用したデジタルマーケティングのセミナーを中心に開催していく予定です。
それと同時に、参加者同士がリアルで集い、本音を語り合える場も設けていきたいと考えています。
次回は運営堂の森野誠之さんが企画する生成AIを活用したウェブサイト改善のセミナーです。
「生成AIで分析」と聞いて身構えるみなさんへというテーマで、森野さんらしい素敵なセミナーになると思います。
[次回のセミナー詳細はこちら]
オンラインセミナー「「AIで分析」と聞いて身構えるみなさんへ。コード不要で進める時短ウェブサイト改善」|2026/4/22(水)
アナリティクスアソシエーション代表
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
2026/04/22(水)
オンラインセミナー「「AIで分析」と聞いて身構えるみなさんへ。コード不要で進める時短ウェブサイト改善」|2026/4/22(水)
「AIで分析」と聞いた瞬間、急にハードルが跳ね上がる感覚はありませんか? プログラミングが必要そう。なんとなく自分には無理そう。MCPとかC …
2026/03/18(水)
オンラインセミナー「GA4×生成AIで改善提案の精度を高める ― AIから「使える施策」を引き出す実践アプローチ ―」|2026/3/18(水)
GA4によるサイト改善は、生成AIと組み合わせることで新しい段階に入りつつあります。 しかし一方で、「AIに分析させても表面的なコメントしか …
2026/02/19(木)
オンラインセミナー「GA4×ヒートマップで成果を出すCVR改善入門」|2026/2/19(木)
本セミナーは、Google アナリティクス 4(GA4)とヒートマップを活用してCVR改善の施策設計と効果検証を再現性高く行うための実践的な …
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