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広告の計測まわりでふつふつと音を立てるマグマ溜まり

「最近の広告レポート、本当にこの数字に頼っていいのかが疑問なんです」
最近、こんな問いかけを耳にする機会が増えました。

CPAなど従来のKPIを基準に、刈取り系広告の予算を増やしてきましたが、その結果、指名検索にどんどん偏ってしまったようにも見えます。
ならばと、思い切って認知を高める広告にチャンレジしても、上を説得する効果が得られません。インプレッション主体の広告効果、経営陣にそれらの広告効果を報告しつつも、次の一歩が踏み出せない。そんな場面が多くあるようです。

不思議なことに、P-MAXなど広告のAIによる自動化が進み、日々の広告運用は楽になるはずなのですが、一方でなぜか広告の計測周りは、どんどん不安定で面倒になってきています。
投資をする媒体数も種類も増えてきて、媒体チャネルを横断した分析も、いよいよその必要性が増しています。なんとかしなければ、と思いながら、決定的な答えがないように思えます。

けれども、その「なんとかしなければ」という現場のジレンマは、次の変化を求める「マグマ溜まり」にも見えます。ふつふつと、新しい方向性を求めているようにも思えるのです。

私自身まだ明確な答えはないものの、不謹慎な私はこの状況を密かに楽しみはじめています。
きっとこれは広告の計測と意思決定のあり方が、大きく変わる節目に立っている。おそらくその計測の主導権は、広告主の方に動きはじめている。あるいはそうならざるをえないと、そんなことを考えています。

混沌を整理する:計測の3つの階層

複雑に見えるこの状況ですが、次なる打ち手を、私なりに3つに整理してみます。

その1:CV計測基盤の変更(サーバーサイドの計測基盤へ)

Cookie規制に対応し、持続可能な計測を実現するには、ブラウザとJSタグによる計測から脱却する必要があります。
サーバーサイドGTMや、最近リリースされたGoogle タグ ゲートウェイといったサーバーサイドの計測手法は、より正確なデータ収集を可能にします。
その他、Webサーバーに計測用ソフトを入れる方式など、サーバー側のソリューションが出はじめ注目されています。
ただし、どの方法も技術的なハードルは決して低くありません。サーバー運用のコスト、エンジニアリングリソース、そして何より「なぜこれが必要なのか」を社内で説明する力が求められます。

その2:効果測定の方法論の変更(MMM、そしてGA4など)

ビューやクリックからコンバージョンまですべてのユーザー行動が計測できる、という幻想が終わった今、「本当にこの広告が効果を生んだのか?」を証明するには、新しい計測手法が必要です。
マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)は、統計的手法でオンライン・オフライン問わず、すべての施策効果を統合的に評価します。昔からある手法ですが、線形のモデルから、より高度な統計モデルに進化し、複雑な相互作用を分析できるようになってきています。
Cookieに依存せず、中長期的な効果を測定できる一方で、やや専門的な統計知識と相応のデータ量を必要とします。

媒体チャネルが増え、チャネル横断で計測分析できる道具も必要になってきています。
その道具のひとつとして、Google Analyticsの進化に注目しています。実は今でも、アフィリエイトやソーシャルの広告効果をGA4で見る広告主は増えています。それぞれの媒体の出す「効果」に頼っていては、意思決定が難しいのでしょう。
GA4は、今年から来年にかけて、意欲的にGoogle以外の広告データ(インプレッションや費用)を連携しています。Google は一方で、MeridianというMMMをオープンソースで出してきていますが、この辺がどう連携されていくのか注目しています。

その3:ファーストパーティデータの活用

広告媒体に渡すリストとして、顧客のメールアドレスや電話番号、あるいは計測タグでは測れない売上その他の自社で収集したデータは、確実に広告精度を高める鍵になります。ターゲティング精度の向上、顧客理解の深化、そして効果検証の基盤となります。
ただし、データ収集には顧客の同意が不可欠です。同意管理プラットフォームの導入など、技術的な対応も必要となる一方で、実際にプロジェクトが止まってしまうのは、プライバシー保護の法的な対応のところです。

鍵を握るのは「越境チーム」

これらの施策は、確かに理屈の上では試してみたい施策ではあります。
「どれも必要そうなのは分かった。でも、一度には無理です」
私たちは、どこから手を付けるべきなのでしょうか?重要なのは、自社の現状に合わせて、最も効果的なスタート地点を見極めることです。

しかし、その前に重要な課題は、「いったい誰がこのプロジェクトを進められるのか?」です。どの施策も実際に意思決定に活かすまでには、相当のスキルと経験が必要です。
サーバーサイド計測にはエンジニアリングの知識が必要です。MMMには統計学の素養が求められます。ファーストパーティデータ活用には、ビジネス戦略とプライバシー法規への理解が不可欠です。
すべてを一人で、または一つの部署で抱えることは、もはや現実的ではありません。

そんな状況で、今、価値を生むのは従来の広告運用という業務の枠を超えた、「越境スキル」の人材を集めたチーム作りではないでしょうか?

技術者の言葉をビジネスの言葉に翻訳できる人。データ分析の結果を、経営判断につなげられる人。広告運用、エンジニアリング、データ分析という縦割りの壁を越えて、専門家同士を繋ぐことができる人。
そして、そうした人々が学び、繋がり、失敗から経験を共有する「場」が、必要とされているタイミングに思えるのです。

この変化をキャリアの転換点に

Cookie規制も、AI化も、計測の複雑化も ――すべては「変化」です。
そして変化の時代は、常に新しい価値を生む人材を必要とします。従来の「広告運用者」や「ウェブアナリスト」、あるいは「タグをいじれる人」「クラウドに詳しい人」……枠組みを超えて、技術と分析とビジネスを繋いでいく。それができるチーム作りこそが、これからの広告マーケティングの世界で、最も価値を発揮できるはずです。

アナリティクスアソシエーション(a2i)は、そのための「場」でありたいと考えはじめています。
最新の技術トレンドを学び、実務の課題を共有し、そして同じ志を持つ仲間と出会う――。

私たちa2iは、11月18日火曜日、「a2i秋の広告祭」と題したセミナーと交流会のイベントを開催します。まさに広告の計測とテクノロジーなど、面倒くさいエリアに焦点を当てたセミナー・イベントです。
この混沌にチャレンジしている11人のスペシャリストたちが集まります(サッカーチームが組めますね)。
混沌の時代だからこそ、面白い。越境できる人材だからこそ、価値がある。
そう信じられる仲間と、ぜひお会いしましょう。

皆様のご参加をお待ちしています。

【大型イベント開催】a2i秋の広告祭 デジタル広告の役割を再設計しよう|2025/11/18(火)

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表  
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。

主な講演

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