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アナリティクスアソシエーションでは、不定期にインタビューを行っています。
第三回は、5月22日木曜日に行われた a2iのセミナー「生成AI活用、マーケ現場の実践と組織導入のリアル」にご登壇いただいたアナグラム株式会社の中島匠さんです。

▽セミナー「生成AI活用、マーケ現場の実践と組織導入のリアル」|2025/5/22(木)

中島さんは東京大学在学中のインターンを経て、運用型広告を中心としたマーケティング支援を行うアナグラムに入社し、現在では関係会社の経営支援や、アナグラム社での生成AI推進などを幅広く担当されています。
先日のa2iセミナーでは、生成AIの利用を浸透させる取り組みについてお話しいただきました。アンケートのコメントや、a2iスタッフからも、その取り組みを「もっと深く知りたい」という声が寄せられました。

―― 今回、アナグラムで生成AIの浸透に取り組んだお話を興味深く伺いました。プロジェクト開始のきっかけから教えてください。

中島:元々は運用型広告チームで広告の支援を行っていましたが、ここ3年ほどはグループ会社の経営支援などの業務を担当していました。その業務が一段落したところで、会長の阿部から、アナグラム社でも生成AIの浸透度を上げていきたいという相談を受けました。

当社の関係会社の一つに株式会社リワイアという企業がありまして、そこには生成AIの研究を進めているメンバーが在籍しています。そのメンバーと連携してプロジェクトを進めていくことになりました。私は元々グループ横断的な仕事をすることが多かったため、声がかかったのかなと思います。

―― 最初は、どんなイメージを持ってはじめたのですか? 目標や成功イメージのようなものはあったのでしょうか?

中島:アナグラムという会社の中で、生成AIは何に貢献するべきなのか、というイメージは最初から持っていました。アナグラムは、一人のコンサルタントが、営業から広告運用まで、一気通貫でお客様を支援する体制を敷いています。コンサルタント一人ひとりが、クライアントのビジネスをしっかり理解してご支援することを目指し、この体制を創業から続けています。

一方で、仕事の範囲が広がると、求められるスキルやレベルも自然と高くなります。これは悪いことではありませんが、そうした人材は他社からも引く手あまたです。そのため、自社で働き続けてもらうには、それに見合う報酬を用意する必要があります。その報酬を支えるには、「一人あたりがどれだけ利益を生み出せるか」が重要になります。

つまり、広い業務領域をカバーできる優秀な人には、それ相応の給与が必要であり、そのために個人単位で高い生産性(=粗利)を出せる仕組みが不可欠ということです。

これを踏まえて、広告運用者やデザイナーが「自分(あるいは少人数のチーム)でできること」を、生成AIを通じてどのように拡張できるか?という観点から思考を始めました。

―― わかりやすいイメージですね。次に中島さんの役割と、求められるスキルについて伺います。生成AIを広める役割なら、ある程度の技術力も必要でしょうか?

中島:生成AIを、何らかの形にカスタマイズして導入していく場合には、プログラミングのスキルは必要になります。ただ、私自身にプログラミングのスキルはさほどありません。
そのため、今回は技術者と一緒に取り組みました。実際に口コミ分析のツールは、社内のテック人材の力を借りて作成しています。

―― では、生成AIを社内でできるだけ使ってもらうために、具体的にどんな進め方をしたのでしょうか?

中島:運用型広告の仕事を大まかに「ターゲティング」「入札」「クリエイティブ制作」「リサーチ」「レポーティング」に分けました。そのうち「ターゲティング」「入札」は各広告媒体の自動化が高度に発展している領域なので、広告代理店側で用意すべき点は「クリエイティブ制作」「リサーチ」「レポーティング」の3つだと考えました。特に、「クリエイティブ制作」と「リサーチ」については、ツールの導入や機能追加を積極的に進めてきました。

しかしながら、機能やツールを持ち込んでも、すぐに社員が価値を感じて使ってもらえるわけではありません。浸透を促すための取り組みとして、ツールと相性の良さそうな案件を担当していたり、新しいものに対して前向きな社員に個別にアプローチして、役立った体験を社内知見としてSlackに共有してもらいました。その循環を広げることで、浸透を図りました。

このようなボトムアップ的な進め方をせざるを得なかったのは、弊社の組織の形に起因します。先に述べた通り弊社は「一気通貫型」を採用していますが、これによって実際にクライアントの支援を行うメンバーに大きな裁量が与えられています。そのため、経営陣や、当時の私のような横串的な役割が生成AIの活用を呼び掛けても、それを採用するか否かの裁量は現場に残るのです。

―― やはり一人ひとりにアプローチして、課題を解決していくのがよいのでしょうか?

中島:率直に言えば、効率は悪かったと感じています。
一気通貫型の仕事の場合、生成AIを活用したいポイントや、任せても良いと考える作業は人によって違います。
ボトムアップで地道な活動だと、こちらから声をかけた人以外にはなかなか広がりません。浸透が遅くなり、私の役割も孤軍奮闘という感じで、先が見えなくなります。

一気通貫型の、弊社のような組織では「リーダー」「メンター」といった中間管理職のポジションの仕事を見て、社員が育っていきます。この情報の流れ方に注目して、もう少しリーダーやメンター層に働きかけるように進めた方が良かったと考えています。

自社に合っているのは、先述の”ボトムアップ”のアプローチではなく、一方でもちろん「生成AIで○○の部署を削減」といった”トップダウン”も組織の構造上やりにくいです。現場に近い中間管理職の役割が重要になる”ミドルアップダウン”の考え方をもっと意識すべきだったかもしれません。

―― その他にも、生成AIを浸透させるうえで、気を付けるべき点はありますか?

中島:必ずしも現場の声に引っ張られてはいけない、ということですかね。「○○だから使えない」という声が挙がったとしても、それが本当の理由ではないこともあります。

例えば、かなり初期の段階で、生成AIの活用ガイドラインを作りました。「クリエイティブ領域で生成AIをあまり活用していない理由」を聞いた際に挙がった「ガイドラインが無いから、どんな形ならAIを活用して良いのかわからない」という声に応えて、各種文献や専門家の監修を基に用意したものになります。

ガイドライン作りは、どんな組織でも必須になるので、行うべき施策に違いないと思いますが、しかしながら「ガイドラインが用意されたら、その人たちはAIを使うようになったか」というとそうではありません。

―― 中間管理職の層への働きかけという話がありましたが、具体的にどんなことをされましたか?

中島:こちらは鋭意取り組んでいる途中です。この6月から私自身がひとつの部署を見るマネージャーの立場に変わったので、これからはよりリーダー層に提案しやすくなるかなと考えています。

―― 生成AIの社内浸透というプロジェクトを通じて、大きな気づきを得たとすれば、それは何ですか?

中島:ひとつ挙げるとすれば、全社横断的な施策を進めるうえでは、その組織の”キャラクター”を掴むことが重要であるということですね。

例えば弊社では「一気通貫」という組織の形が、生成AIの浸透に大きな影響を及ぼしていました。ただ、それは生成AI以外の様々な経営課題でも同様であるはずで、生成AIという誰もが注目するテーマだから目につきやすくなっているにすぎないのではないかとも思います。

生成AIに限らずとも、「自社の特徴とは何か」ということを把握することが、何かを組織に広めていくうえでの重要な第一歩になるのだというのが、大きな学びでしたね。

―― 本日はありがとうございました。また、ぜひこの続きをお聞かせください。

▼有料個人会員、有料法人会員は、中島さんが登壇されたセミナー「生成AI活用、マーケ現場の実践と組織導入のリアル」(5/22開催)のアーカイブ動画を視聴できます。(2026年5月25日まで)
 

今回お話をうかがった方

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表  
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。

主な講演

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