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あるツイートに目が留まりました。つぶやいた主は、企業に向けたコンテンツ作成をビジネスにしている人のようです。
「品質の高いコンテンツを時間をかけて作り、お客様にも評価されているが、すぐにパクられてしまう」
パクった相手に取り下げてくれ、と抗議をしていますが、無力感があるという趣旨でした。

この話だけを見ると「けしからん」「ひどい話だ」と思いますが、一方で今はコンテンツをAIが生成する時代です。AIがパクったコンテンツが今後増えたら、いったいどうなるの? という疑問が浮かびます。

画像、動画を中心に、Stable Diffusionなど、生成AIと呼ばれるAIサービスが次々に登場し、話題になっています。
最近話題のChatGPTでも、コンテンツ制作に使っているとうたうサービス企業が、雨後の筍のごとく出はじめています。

生成AIの問題として、直近の事例もあります。
コスプレ画像を自動生成するAIコスプレイヤー(Stable Diffusionなど生成AIの組み合わせ)が、元ネタとの類似を指摘されていました。
AIは「学習」をします。この学習の段階で元ネタを利用します。学びの語源は「まね(び)」とも言われていますから、生成AIの世界では、学習とパクリの境界はどんどん曖昧になっていきます。

では、この問題を防ぐ有効な対抗策はあるでしょうか?
まず著作権法ですが、現在の著作権は、AIが学習データとして用いるとき、「著作権者の許諾を得る必要はない」と書かれています。AIで生成しようが、あくまで問われるのはアウトプットである作品の類似性だけです。

ではAI生成コンテンツに対して、Googleのガイドラインはどうでしょう?
こちらも結論は、AIによるものかどうか生成方法は問わない、というものです。
「AIや自動化は、適切に使用している限りはGoogleのガイドラインの違反になりません」と言い切っています。

生成AIのコンテンツを判定するツールも出ていますが、あまり効果は期待できないようです。
必ず学習ソースを明示するルールにしよう(膨大で記載できない)、あるいは自分のコンテンツをAIの学習対象から除外できるようにしよう (AI側が守る必要はある?)、なども検討されているようですが、いずれもその効果には疑問符がついてます。

生成AIの前から「コンテンツのパクリ」はあったので、「何を今さら」という意見もあるようです。
ただ、生成AIの登場は、これまでと次元が違う話に見えます。

今までは「人」がパクっていましたので、法人個人含め「人」を犯人として責めればよかったわけです。でも、今はAIがより巧妙かつ、無責任にパクっていく世界になります。
むしろ、利用者の罪悪感はなく、怒りをぶつけるべき対象が見えなくなります。クリエイターにとって、より無力感が強まる世界になっていきそうです。

これまでのAIの活用は、生産性の低い単調な仕事を、疲れないソフトウェアが代替してくれる、という物語でした。
しかし、生成AIは違います。その進化スピードを見るにつけ、AIには当面困難と思えた、「創造性」「専門性」「個性」さえ、アウトプットとして揃えることができそうです。
人がコンテンツを生み出すために、投下した創造力と努力が、いともカンタンに学習され、無力化されていくでしょう。

もちろん、買う側は、生成AIだからといって、そのサービスを選ぶわけではありません。
当面は人が書いた(あるいは人がパクった)文章の方が、品質は高いでしょう。完全自動運転はまだ先で、生成AIの役割は、情報収集や基本説明を補う形で活用されるレベルでしょう。
まだまだ、人が多くの手を加える必要があります。
また、コンテンツの「設計(ユーザー行動からの設計)」に関しては、人間が取り組むスキルエリアとして、しばらく残るでしょう。

もともとコンテンツ業界は「パクリ」が横行してきた面があります。水は低い方向に流れつづけていきます。
結局、人間のパクリが効率的か、学習というAIのパクリで十分なのか、という効率性で判断されていきます。
当面は人間のパクリの方が効率がよいでしょうが、ただ、生成AIを使いこなし、自動生成の文章でも十分高い品質となってくれば、一気に割合は増えていくと思います。

パクリと学習の境界は曖昧になり、長期的にはコンテンツ作成の人間の熱量を無力化する方向に、ゆっくりと、気がつくとあっという間に、流れていくことでしょう。

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Google。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスのマネージャなどを歴任。その他、SEO会社起業や日本の事業会社のデジタルマーケティングに従事してきた。
2019年からはJellyfishにVP Analyticsとして参画。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてウエブ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
また、仕事の傍ら、幕末 徳川慶喜についての小説も執筆出版している。
『ケイキ君と一緒!: 幕末 最後の将軍 徳川慶喜「もしも」の物語』
幕末沼 徳川慶喜よくある質問

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