コラムバックナンバー

ワールドカップはアルゼンチンの優勝で幕を閉じました。
ドイツ、スペインという強豪国を逆転で破った日本の活躍も含め、本当にエキサイティングな大会となりました。
2022年最後のコラムですが、サッカーのことを書きます。テーマは森保監督に学ぶこれからのチーム作り。もちろん、私が周辺情報から推測で積み上げて書きましたので、その点ご容赦ください。
 
はじめに、前提として日本代表の構造的問題から考えてみます。
サッカー日本代表の監督を、日本人監督にした場合、解決できない問題が生じます。それは、選手と監督の経験値のギャップです。
若手の選手の多くは、ドイツやスペインなど海外リーグの最先端の戦術を体感しています。一方、トップである日本人監督の経験値は、あくまで国内に限られます。監督が一番レベルが低いというのが、日本代表の実態なのです。これは致命的でした。
 
W杯前、サッカージャーナリストの多くは森保監督に批判的でした。
「チームに戦術的な決まりごとがない。森保監督は最新の戦術を落とし込むことが期待できない」という論点が主でした。選手からも一部、その不満を示唆する発言が出ていました。
 
対するドイツ代表監督は、「準備の王様」と呼ばれるほど理詰めで緻密な監督だったのです。レベルが低い代表監督では、とてもかなう相手ではなかったはずでした。
それがどうでしょう。皆さんが目撃したように、大会がはじまると、奇策に近い戦術変化で、ドイツだけでなく、スペインも面白いように混乱させました。
私も、思わず目をゴシゴシとこすって、自分の頬を叩いてもらって、夢じゃないことを確かめるような展開でした。
 
この成功の要因は、幸運を除外して考えた時、森保監督のチーム作りにあったと言えます。監督と選手の経験値のギャップという致命的な問題を、むしろ強みに変えて見せました。
 
ここからは私の推測です。転機はW杯の少し前に訪れたと考えています。
久保、鎌田、遠藤など最新の戦術の中で欧州リーグを戦っていて、かつ言語化能力の高い選手たちが、直接間接に監督に思いを伝える機会ができたのだろうと、想像しています。
キャプテンの吉田麻也が動き、さらにW杯直前に日本チームに帯同した長谷部も、監督と選手のギャップを仲立ちしたキーマンだったのではないかと、邪推しています。
 
3つの成功要因が挙げられると思います。
1つ目は多様性です。といっても人種や性別ではなく、日本代表は10カ国近くの別々のリーグ経験を持つ、特異なチームでした(逆にイングランドはほぼ自国リーグの選手たちです)。
多様な戦術を共有できる潜在力、そうした基盤をもった集団だったのです。
 
その多様性を活かせたのが2つ目のポイントで、チームに心理的安全性ができたことだと見ています。
たとえば、スペイン戦直前の練習では、いったん1日目は監督のプランで練習が行われました。それがうまくいかず、練習後に選手たちの意見が吸い上げられて、2日目はより長い練習時間をかけて、新たな戦術を組み上げていったようです。
監督にも進言ができて、フランクに意見交換ができる「選手が部分的に監督にもなれるチーム」ができあがっていたのです。
 
選手が監督ともいえる日本独自のチームができた3つ目の要因は、森保監督のキャラ、「聞いて、吸い上げて、決断に活かしていく」その姿勢にありました。森保監督のこの姿勢が、チームの自律性を作りあげました。これが一番大事なポイントです。
自律性を象徴するシーンがありました。スペイン戦の前半終了前、中盤の守田が、ディフェンスの板倉などに声をかけ、ポジション配置を崩して自律的に修正していく場面があったのです。あの瞬間、選手たちは部分的に監督になっていました。
 
ドーハの悲劇という年代ものの失敗体験を持ちながら、森保監督は決してえらぶらず、選手たちの聞き役になって、一対一の対話も積極的に行ったのです。
その対話は単なるガス抜きではありません。むしろ彼らの考えを積極的に取り入れ、自身の決断に活かしていきました。
この森保監督の姿勢は、「自分もチーム作りに関われる」というポジティブな雰囲気を生み、さらにW杯期間中には「自分たちで作ったチーム」という高い地点にまで辿り着きました。
「新しい景色を見せることができなかったが、今までで一番短く、一番楽しかった」と、満足気に語った吉田麻也の言葉がそれを象徴していたと思います。
 
これは私たちのチーム作りに活かせます。
大学で統計やデータサイエンスを積極的に学び、デジタルネイティブな若手がどんどん入社してきます。IT変革やデータドリブンな決断に不得手な上司と、高い知見を持った若手、その逆転と歪みが、日本中の会社にあふれています。
この状況を強みに変えるため、リーダーは聞く姿勢を持ち、若手でもフランクに意見が言いやすい環境を整え、多様な意見を取り入れて決断していく、森保キャラこそが求められています。
 
最後に4年後の日本代表を考えてみたいと思います。
4年後は、吉田麻也や長友といった世代がいなくなります。ドイツ、スペインに勝てるという成功体験を持った選手たちだけが中心になります。
彼らは、世界と対等という距離感を持っていますので、本格的な欧州リーグを経験した監督を求めても不思議ではありません。
森保監督で続投するとしても、その経験値や目指す高さのズレは、さらに大きくなる恐れがあります。
 
監督が海外に積極的に学ぶ場をもうけること、コーチ陣に欧州戦術に詳しい人材を置くなど、さらなる変革が必要になるでしょう。
森保監督だけでなく、彼を支えるサッカー協会やJリーグも、もう一段成長しなければ新しい景色を見ることはできません。
 
そして、私自身も、今回の日本代表からの学びをチーム作りに活かしていきたいと思います。
日本代表の、そして私たちのこれからが、新しい景色を見るための素晴らしい4年間になることを心から願っています。

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Google。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスのマネージャなどを歴任。その他、SEO会社起業や日本の事業会社のデジタルマーケティングに従事してきた。
2019年からはJellyfishにVP Analyticsとして参画。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてウエブ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
また、仕事の傍ら、幕末 徳川慶喜についての小説も執筆出版している。
『ケイキ君と一緒!: 幕末 最後の将軍 徳川慶喜「もしも」の物語』
幕末沼 徳川慶喜よくある質問

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