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今回はKPI設定に続いて、その改善の進め方について書いてみます。
ポイントは題名の通り「KPIの改善は、KPIを見ているだけでは思いつかない」ということにあります。

KPIを昨年や前の時期と比較したり、流入から目標(KGI)までのファネルで分析すれば、そのギャップを確認できます。
ならば、そのギャップを改善すればよいのでは?
そう考えますが、いざ改善に着手しても、そのアプローチでは思ったような成果が得られないかもしれません。

KPIは、合計値や平均値です。その中にはさまざまな背景や興味を持った人が多くいます。集合を意識している限り、仮説を捻り出しても、外してしまう場合が多いのです。
デジタルマーケティングはユーザー行動が計測できる、その点で便利なのですが、集計値の分析をして辿り着けるのは「どこを改善すべき」その場所までと、私は考えています。

その先、仮説立案の段階は、行動の背景にあるユーザー心理に迫る必要があります。
経験上、もっとも有効なのは、ひとりひとりのユーザー行動に寄り添って、その課題を見つけて対応していくことです。

ここがマーケティングの面白いところです。
人の集合をまとめて分析、モニターしてるのに、いざ改善の段階になると「ひとり」を見るべきだ、というのはいささか矛盾しているようにも思えます。
うまい説明は思いつきませんが、デジタルマーケティングの肝は、ユーザー中心であることです。ひとりのユーザー心理に寄り添うことで、ユーザー中心のアプローチができる。その結果として、改善精度が上がる、そういうことではないでしょうか?

KPIの話ではありませんが、西口一希氏の名著「実践 顧客起点マーケティング」でも、「1000人より1人の顧客を知ればいい」とうたっています。n=1に迫ることが、事業成長の肝なんだと力説しています。
本気で改善に取り組んだ人の多くは、このアプローチにたどり着くようです。
a2iのセミナーでも、n=1の個票分析事例を、何度も取り上げてきました。

「個票分析」とは、ひとりひとりのユーザー行動の軌跡を見ることです。
過去に私がトライしたものとして、ユーザーテストを録画するポップインサイトのサービスなど、ユーザーテストが有効でした。
GAならユーザー エクスプローラの機能が個票を分析できます。また、ビービットの提供するユーザグラムなどは、さらにわかりやすく確認することができます。

これに対しては反論もあるでしょう。
たとえば、KPIのひとつである流入数を増やすなら、広告費用を増額すればよい、と考えるでしょう。しかし、流入数を単純に増やすと、コンバージョン率などの次の行動への転換率は下がる傾向にあります。
推測した仮説をもとに、A/Bテストをする方法も有効に思えます。ただ、その場合仮説の精度が落ちて、A/Bテストで思った結果が出せない場合が多いのです。

これらの方法を否定するものではありませんが、経験上、ひとりひとりのユーザー行動に寄り添い、広告のクリエイティブやランディングページの改善を行っていく方が、よい成果を得られます。

KPIの定義とその分析は大事であることは前提です。一方で改善で成果を上げるためには、n=1に迫っていくことが不可欠です。

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表  
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。

主な講演

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