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これまで何度か「顧客からデータ解析、データ抽出の依頼が止まらない、もう仮説検証については結果を報告したのに、あれやこれや提出してほしいと言われてしまう」「プロジェクトの実施期間は3ヶ月であったのに残タスクに未だに追われて2週間が経つ」という相談を受けたことがあります。まさに今日も若手のデータサイエンティストとそのような話になり、私も経験上「あるある」であるなと感じましたが、その問題に潜むものが何であるかを改めて考えてみました。

請負契約なのか準委任契約なのか

データ解析やモデリングをパートナー企業に委託する場合、その契約がどちらの契約なのかはデータを扱う業務において実は非常に重要な位置づけです。改めて説明する必要は無いかもしれませんが、駆け出しのデータサイエンティストやアナリストにとっては職務の遂行上非常に重要なものですので、簡単にご説明したいと思います。

請負契約でのデータ関連業務遂行

請負契約では、データサイエンティストや解析者がプロジェクトに結論を出し成果物を完成することが求められ、この成果物に対して注文者が報酬を支払うことで契約が成立します。予測の分析モデルを作るとか、そのモデルに至るまでの解析のプロセスの報告書など、成果物は多岐に渡ります。分析の要件がある程度決まっていたり、成果物の定義が明確な際などは請負契約で行うケースがほとんどでしょう。

準委任契約でのデータ関連業務遂行

一方、準委任契約は一定の職務を行うことを提供する契約です。1人月いくらという単価で、3ヶ月間解析者としてチームの一員として働き、依頼主の様々なリクエストに対し都度都度アウトプットをしていくというケースでは準委任契約で行われることが多いと思います。

この契約の確認を怠ったり、定義をしっかりと互いが認識していなかったり、捉え間違えると、成果物をしっかりと定めてプロジェクト進行しているにも関わらず依頼主は準委任契約のように様々な要求を行ったり、反対に準委任契約でありながら期間が終了しても成果物を求め続けられるということが発生してしまいます。「あるある」ですが、これは社会人として、そしてデータに関連する業務に携わるケースであればしっかりと押さえておかなければならない契約の違いです。データサイエンティストのスキルチェックリストでも、ビジネス力のスキル項目として「二者間で交わされる一般的な契約の概念を理解している(請負契約と準委任契約の役務や成果物の違いなど)」と定めています。

アプローチを提示することの重要性

もうひとつ「依頼主からの依頼が止まらない」理由として、分析のアプローチ方法の提示が有るかないかということも考えられます。使用するデータセットや期間、処理手順、モデリングの方針、評価方法など分析のプロセスを明らかにした「アプローチ設計書」を私の会社では顧客によく提示していますが、これが有ることによってプロジェクトのステークホルダーの認識をしっかり合わせることもできますし「追加要望が多すぎる」ということを防ぐこともできます。また、アプローチ設計書はアプローチの方法に変更が生じた際にも手戻りが少なく済むため、近年データサイエンティストやアナリストを育成する場面においてはこのドキュメントの作成方法を指導することも増えました。

次回はこの手順書のポイントをご説明したいと思います。

コラム担当スタッフ

菅 由紀子

株式会社Rejoui
代表取締役

株式会社サイバーエージェント、株式会社ALBERTを経て、2016年に株式会社Rejouiを設立。DX推進支援、データ分析・利活用コンサルティング、データサイエンス教育事業などを展開。
統計ソフトRやPythonを活用した分析入門講座をはじめ、学生、企業、官公庁へ向けた統計・データサイエンス学習講座を提供。日本行動計量学会、WiDS TOKYO @ YCU、日本RNAi研究会等、数々の学会およびシンポジウムに登壇。自身がアンバサダーを務める人材育成の活動(WiDS HIROSHIMA)が評価を受け、2021年度日本統計学会統計教育賞受賞。

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