コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2022年8月31日号より
政府が発表している統計データについて週末に考えました。重い話ではありませんし、特定の政治的な主張や批判を意図したものではありません。
ベストセラー「ファクトフルネス」の著者、ハンス・ロスリング氏が亡くなったあと、共著者である奥様のアンナ・ロスリング氏が来日したことがありました。うろ覚えですが、ハンスたちに、政府や政党から協議の打診が何度かあったという話をしていました。データに基づく正しい社会理解がファクトフルネスの役割だとすれば、政治との関係も自然に思えます。ただ、どの協議も、うまく行かず前に進むことはなかったとのことでした。
これは私の推測ですが、政府や政党はどうしても政策ありきになってしまい、都合のよいデータを求めます。そんな姿勢が見え隠れして、協議がうまく行かなかったのではないかと想像しています。
バイアスや決めつけなしにデータを分析して、そこから政策を推進するのであればよいのですが、順番が逆だったのでしょう。
日本では、政府や官庁の統計データについての不正やミス、不透明さ、意図的なミスリードなどが何度か問題になってきました。
代表的なものとして、以下のようなことがありました。実は私も忘れていたのですが……
1) 厚生労働省 賃金や労働時間の調査「毎月勤労統計調査」が誤った手法で行われ、さらに賃金を高く見せるための意図的なかさ上げが行われた
2) 国土交通省 建設工事受注動態統計のデータを改竄(かいざん)していた。受注額は多く出され長年隠蔽されてきた。
3) 内閣府 GDPの基準変更や「その他」分類のデータの不透明さ。
不正ではありませんが、政策への誘導を感じさせるデータもあります。
典型的な例は、世界的に低水準の「食料自給率」です。その「食料自給率」の主な問題点は以下です。
1) カロリーベースで総合的な集計をするという世界的にも特殊な手法を長年採用している。カロリーですべての食品をひとつのバスケットに集計してしまうと、野菜など高い自給率だがカロリーが低い食品が、見えにくい。
2) 家畜の飼料(エサ)が輸入の場合、国産の肉や乳牛でも、国内産に計上されない手法。畜産はカロリーが高い分野のため、影響が大きく自給率が低くなる。
3) 廃棄食品のカロリー分も分母に含めている。日本人の必要とする摂取カロリーより多い値が分母に使われ、これも自給率を下げている。
そんな「総合的」な食料自給率を、政策の根拠として使用している国はありません。まして食の安全保障とリンクして恐怖を煽っている国などないのです。
安全保障という「もしも」の対策と、日常的な需要の総計である自給率を、同じ土俵で議論すべきでない、と明言している国(英国など)さえあります。「総合的」な自給率データを安全保障解決の指標にするのは非現実的で、かえって食料政策、経済政策が大きく歪められてしまうからです。
アンナ・ロスリングの別のインタビューでは、多くの政治討論が、「自分が持っているデータによるとあなたは大間違いだ」と主張することが多いと指摘しています。政治家とそれに反対する勢力によく見られる傾向です。
同時に人々には「焦り本能」、今すぐ手を打たないと大変なことになる、と勘違いする性質があるとも指摘しています。
政治もメディアも、データを使った手法で、この性質につけこみ、政策を誘導する意図が見えます。食料自給率と安全保障をリンクされるやり方も典型です。
こうした点は政治とその反対勢力の治らない病に思えます。私は改善される望みは薄いだろう、と考えています。
一方で、私たちの側も「だから政府のデータは信用できない」と主張するのは短絡的です。
多くの政府統計は非常に有用ですし、むしろそれらを活用すれば、いかに日本がよくなっているか、あるいはきちんと改善すればもっとよくなる、という「ファクトフルネス」も、あらためて発見できるはずです。
食料自給率も、批判的に見ることからはじめて、他の手法で見たり(重量や生産額を分野別に分析)、深掘りすれば(大豆の食用部分だけに注目する)、日本はある程度安心できる食糧事情だということも理解できます。また、今後の改善点も食料自給率という奇妙な指標を改善(家畜の安いエサを全部国産にする?)することよりも、たとえば個人経営の農業構造を、輸出まで目指す体制体質に整えていく方が大事だと考えることもできます。
政府の統計データを健全に批判する精神を持つには、私たち自身がデータに興味を持ち、詳しくなることが唯一の解決策だと考えます。
メディア経由で伝えられる切り取られた政府データをうのみにせず、正しいデータを見つけ出す能力を身につけるのです。まずは、政府統計のデータを、じっくり見たり、活用することからはじめるのがよいと考えます。
「Stay humble and curious! (謙虚であれ。そして好奇心を持て)」と、アンナさんが言っていた言葉を胸に刻みたいと思います。
アナリティクスアソシエーション代表
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Google。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスのマネージャなどを歴任。その他、SEO会社起業や日本の事業会社のデジタルマーケティングに従事してきた。
2019年からはJellyfishにVP Analyticsとして参画。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてウエブ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
また、仕事の傍ら、幕末 徳川慶喜についての小説も執筆出版している。
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