コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2021年3月10日号より
雛祭りの日、GoogleはChromeについて、脱3rd Party Cookie=脱個人IDを改めて宣言しました。これまでのおさらいで、目新しいことはありませんが、ソーシャルやニュースでの反響は大きいようです。
コラムでは前半でその仕組みを掘り下げ、後半は分析への影響をお話しします。
Cookie IDにかわる代替手段はFLoCとFLEDGEです。フロックとフレッジ、アメリカの刑事ドラマのコンビのようですが、新人で腕は確かでも、現場で使い物になるかは、まだじっくり見守りたいレベルです。FLoCは興味関心のターゲティングを、FLEDGEはオーディエンスの作成(FLEDGE)を実現する仕組みです。
FLoCは、協調して(Federated)学習して(Learning)作成したセグメント群(of Cohorts)です。サーバーにデータを送らずに、デバイス側だけで機械学習を走らせて、匿名のセグメント群を選び、最適な広告を出す仕組みです。
でも「サーバーにデータを送らずにデバイスだけでターゲティング」って、いったいどうやるのでしょう?
デバイスのChromeブラウザ内で、機械学習を走らせますが、その成績評価と改善はたくさんのデバイスの結果が使われます。ユーザーのデータはサーバーに送りませんが、モデルの改良はGoogleで行われます。そうやって機械学習モデルをどんどん改善していく仕組みです。
セグメント群を選び出す時も、ウェブのコンテンツはハッシュ化され、その値だけを比較して「似ている」と判定するSimHashという仕組みが使われる予定です。(このSimHashはSEOの重複コンテンツ判定にGoogleが使用しています)
大事な点は、GoogleはユーザーにIDをつけず、その行動やコンテンツには一切触れません。でもターゲティングの精度はどんどん高まります。
自動運転に例えれば、ドライバーやドライビングコースなど個人がわかる情報はサーバーに送らず、安全にスムーズに運転できた、といった情報だけを集めます。自動車の中でAIが動いて、ドライバーのナビに対してお知らせを掲載しますが、どのドライバーに広告があたったか、どこを運転している時にあたったかはわかりません。バッテリーを無闇に消費しないよう、本当に必要な時だけ動く工夫も入っています。
なかなかすごい技術です。でも自動運転に例えたら、ちょっと事故が起きないか心配になりました。本当にそんな車に乗って大丈夫なんでしょうか?
Googleだからすごい。心配していたネット広告もこれで大丈夫、と思うのは早計です。
まずこの話にAppleは参加していません。多分、iPhoneでのターゲティングは壊滅的です。すべてのブラウザ(WebKit)もアプリ(IDFAの制限)もダメです。日本の場合、影響が大きいままですね。
また、今回使う技術は、コホート、つまり個人を特定できない規模の「グループ」でターゲティングをするので、ターゲティング対象が広めになってきます。個のIDでターゲティングしていた時の成果に比べて、効果を出すには、広告予算規模が大きくなると推定されます。
「うーん、信じるしかないけど、お金投じて大丈夫かな?」という印象になりますから、より安全な投資先、Amazon上の広告やYouTubeの広告がより人気が出そうです(持ち主が管理するドメイン内の広告は影響を受けませんので)。あるいはニッチでも、場所とコンテンツが明確なところに広告を出すほうがよい、となりそうです。「ユーザー」をパーソナライズする世界から、場所が大事な世界にちょっと後退しそうです。
Google アナリティクスはどうなるでしょう?
今、広告のオーディエンス作りは、Google アナリティクスのユーザー行動データのCookieで集めたセグメントを広告に受け渡してターゲティングする仕組みですが、このオーディエンスリストの仕組みが機能しなくなります(すでにITPにより機能しなくなっています)。
おそらく次のステップは、新しいブラックボックスとつなげて効果を見せるような仕組みになるのだと推測されます。「このグループにターティングしなさい。悪いことは言いません」というご託宣を受け取る感じでしょうか?
もちろん、Google アナリティクスは、サイト改善としてはある程度機能するでしょう。ただ、Googleがエンジニアリソースをそこに投じてくれるかは疑問符です。GA4のUIを見ていても、サイト改善がうまくできる気がしません。私はGA4はサイト改善ツールとしては、ちょっと望み薄だと見ています。
私たちの進む方向は変わりません。広告投資を減らす必要はなく、投資場所について自分の目で確認しながら見直していきます。そして、自社に興味を持ってくれたユーザーとは、1st Partyデータを中心に、アプリ、パーソナライズ、接客を通じてしっかりと向き合っていきます。GA4はデータ元としての活用に割り切り、お客様データをGA以外の様々な手段で取得し、しっかりと顧客と向きあう仕組みを作り上げていきましょう。
ゲームチェンジへの対応は、Googleに頼らず進むこと。今からでも遅くありません。
アナリティクスアソシエーション代表
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Google。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスのマネージャなどを歴任。その他、SEO会社起業や日本の事業会社のデジタルマーケティングに従事してきた。
2019年からはJellyfishにVP Analyticsとして参画。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてウエブ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
また、仕事の傍ら、幕末 徳川慶喜についての小説も執筆出版している。
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