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もう8年前になりますが、以前の会社で採用をはじめた際、上司に「あなたはRRKを重視しすぎる」と釘を刺されてハッとしたことがあります。RRKとは Role Related Knowledgeの略で、要は採用するポジションの業務知識や経験のことです。その時は、Google アナリティクスの技術担当者の採用だったので、データ分析、JavaScriptやCookieについての知識ということになります。
例えば「1st Party Cookieと3rd Party Cookieの違いが説明できない人は雇わない」といった、狭いエリアの知識で成否を決めるのは意味がない、ということです。

「優秀なGeneral Athleteを雇う」
それが上司と合意した採用方針です。その後、私自身は採用にあたって、「成長伸び代のあるGeneral Athlete」と自分なりに定義しなおしました。スポーツに例えれば、野球だけ詳しい人ではなく、どんな競技でもこなせる運動神経の良い人です。

もちろんRRKを無視するわけではありませんが、自分が経験していないこと、知識のない世界でも、自分で答えが組み立てられる人を採用しよう、ということです。デジマの世界はどんどん変化しますので、「他人より知っている」ことは、それほど重要ではないわけです。

ではGeneral Athleteをどうやって見つけるか?
そのためには採用時の質問が鍵になります。
昔読んだ本の中で、天文学の大学院で有名な教授と面接をしたら、「空がどうして青いか説明して」といきなり言われて、パニックになったという下りが印象に残っていました。細かな知識を問うのではなく、考えを組み立てるような質問です。
かと言って一時期話題になった「東京都にピアノの調律師は何人いる?」といった質問はしません。
もうちょっと関連するエリア、私の場合はネットやデジタルマーケティングの技術によせた質問をしていました。例えば「YouTubeで自動的にスパム動画を排除する仕組みを作るとしたら、どんなデータを活用する?」といった質問です。

先日、a2iで「ひたすらGoogle タグマネージャー」というセミナーを開催しました。
質疑の時間が十分にあれば回答したかった質問の一つが未回答になってしまいました(回答できずすいません)。

「Google タグマネージャーの担当者を採用したいのですが、どんな人を雇ったら良いですか? 社内で育てることはできますか?」

セミナー後に、後片付けをしながら講師の畑岡さん、西村さんと、その質問が話題になりました。
最初の回答は「JavaScriptが書けるけど、あまりプログラミングそのものには執着がない人」みたいな、「そんな人いる?」といった回答になりました。でも、さらに話していくと「まあ、JavaScriptを書いた経験がなくてもなんとかなりますね。エクセルのマクロしか書いてない人でも大丈夫ですしね。それより大事なのは……」と話題が進みました。

Google タグマネージャーで設定するタグの目的は多岐にわたります。Google アナリティクスのタグだけではなく、広告の計測タグやA/Bテストのタグ、Cookieにデータをセットするタグもあるでしょう。ビジネスも多岐にわたり、eコマース、B2Bのフォーム、CRMの連携などなど。そしてお客様の目的を理解して、複数のツールとIDを理解してデータ連携を実現するタグを設置し、データの食い違いがあれば問題判別をして修正していきます。
そのためには、実は「タグ」の知識よりも、新しく学んで適応していく世界が広く深く、さらに細かく、大体はいつも未経験の世界が待ち構えているのです。
そして、それを面倒と思わず、あるいは面倒と思っても、楽しめる適性が必要なのです。

なので、その質問に対する私の回答は、物事を構造化して考える力がある人で、問題判別を楽しめる人で、部分的な情報から全体を組み立てられる人、ということになります。
プログラムを書けるかどうか、文系か理系かはあまり関係がありません。文系で歴史好きでも、年号を暗記する努力より、明治維新とフランス革命の詳細な比較表、あるいは幕末同時代の中国や朝鮮と日本の違いの表を、エクセルで作れる方が大事な気がします。もちろん、幕末の問題を採用で聞くというわけではありませんが。

採用にあたって「即戦力」を重視する傾向が強くなっています。でもその採用基準に、RRKを過度に重視しているなら、考え直すべきです。「成長伸び代のあるGeneral Athlete」を見つけることが大事です。

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Google。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスのマネージャなどを歴任。その他、SEO会社起業や日本の事業会社のデジタルマーケティングに従事してきた。
2019年からはJellyfishにVP Analyticsとして参画。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてウエブ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
また、仕事の傍ら、幕末 徳川慶喜についての小説も執筆出版している。
『ケイキ君と一緒!: 幕末 最後の将軍 徳川慶喜「もしも」の物語』
幕末沼 徳川慶喜よくある質問

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