コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2020年7月15日号より
Googleアナリティクスの新バージョンがリリースされ、新しい機能の開発がどんどん進んでいます。
a2iでも7月28日に、その新バージョンについてのオンラインセミナーを開催します。
▼「GAの新バージョン アプリ + ウェブプロパティってどうよ?」
今回のコラムではそのセミナーでは触れないデータのインフラについて書いてみたいと思います。
もちろん、機密情報は一切なし。公開情報をもとにした個人の推測に基づくものである点はお断りしておきます。
そもそもGoogleをどういう会社と考えるかは人それぞれでしょうが、巨大なデータセンターの運用ノウハウが、核となっている企業だという面があると思います。創業時に、ラリーとサーゲイが、ベンチャーキャピタルから出資を受け入れたのも、ぶっちゃけ検索エンジンを稼働させるサーバー費用が、賄いきれなくなったからだと言われています。Google黎明期からの強みでもあり、永遠の課題でもありますが、効率的で安価なインフラの飽くなき追求、それこそGoogleの根幹だと言えます。
Googleが検索エンジンとしてトップになった理由を、その優れたアルゴリズムだと考えるのが順当なのでしょうが、私自身は違った見方をしています。
ベンチャーの新規事業のアイディアは、同時に千人の人が思いついている、とよく言われます。Googleの創業時、外部からの参照リンクをランキングにする「PageRank」と似た発想を持つ企業は他にも存在していました。もともと論文の評価に、引用数が使われていたので、実はそんなに新規性はなかったのです。
Googleと他の検索エンジンを分けた決定的な理由は、むしろ「効率良いインフラを構築した」点にあったと私は見ています。Google以前にも、いくつも検索サービスベンチャーはありましたが、Google以外のほぼ全ての企業が、IBMなど高価なサーバーに投資して、資金ショートを起こして消えていきました。
そんなGoogleの管理するデータで、もちろん検索エンジンとYouTubeが世界的に見ても超巨大なデータです。でも密かにGoogleアナリティクスも、それに準ずる巨大データだというのは想像できるでしょうか?
だって、ネット広告を実施している企業よりも、とりあえずタグを貼っている企業の方がはるかに多いでしょう?それに、なにしろ無料サービスですから、データはみんな送り放題、しかも皆さん、同じサイトに何個もタグをはってるし、ビュー(プロファイル)を安易にコピーしているでしょう?
多分、Googleさんは「やめてくれー」と悲鳴を上げていますし、「なんとかせねば」と悩んでいると思います。世界中の企業サイト、個人サイトが送ってくる大量データとその処理を、プライベートな企業1社が受け止めてくれているのです。ちょっと気が遠くなりませんか?
いかにGoogleのサーバーインフラが安価だといっても、常に効率よく削減に取り組んでいかないと破綻してしまいます。ソフトを自前で開発しているGoogleなら、データインフラの費用は大きく分けて、ハードウェア、電気代、保守人員が占めるだろうと考えられます。大事な点は、保持するデータそのものを大きく複雑にしないことです。シンプルで管理しやすいデータにして、処理速度と効率を常に上げていくことで、サーバー費用も電気代も、保守の人たちの人件費も、多くの問題が解決していきます。
今回のGoogleアナリティクスの新バージョンであるアプリ + ウェブ プロパティの隠れた目的は、データをシンプルにして、管理コストを大幅に削減することにもあると考えています。
データ設計の根本から再構築されていますから、アプリ + ウェブ プロパティは、今までのGoogleアナリティクスとはまったく違うツールです。
シンプルさという点でも、アプリ用のサービスとして開発されたFirebaseアナリティクスそのままです。ページビューもeコマースも、「イベント」だけでできています。従来のビュー(プロファイル)のように安易にデータの複製を膨らませてしまう機能も削られています。
インフラの効率化という隠れた目的に注目すると、三つの点が導き出されます。
一つ目、Googleは、新バージョンへの移行をできるだけ早く進めたいと考えているだろう、という点です。移行してくれれば、それだけGoogleは楽になりますから。
二つ目、保守費用に注目すれば、現在のバージョンへの人員投下は最小限になり、新バージョンに集中するだろう、という点です。
そして三つ目は、まったく違うデータインフラの上に構築されていますので、今まで使っていたツールとは違いも大きくなるだろう、という点です。
そう考えると、二つの成り立ちの違うサービスの間に生まれるギャップを、補完するための周辺のサービスやビジネスが必要になってくると思います。
私たちa2iは、この二つのギャップから生じる混乱をできるだけ少なくするため、セミナーなどでせっせと埋めていきたいと思います。これは皆さんにとっても知恵をしぼるべき時、ビジネスチャンスなのかもしれません。
アナリティクスアソシエーション代表
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Google。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスのマネージャなどを歴任。その他、SEO会社起業や日本の事業会社のデジタルマーケティングに従事してきた。
2019年からはJellyfishにVP Analyticsとして参画。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてウエブ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
また、仕事の傍ら、幕末 徳川慶喜についての小説も執筆出版している。
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