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「生成AIでデータ分析は、どこまで簡単でおいしくなるのだろうか?」
今年最後のコラムです。来年に向けてそんなテーマを考えてみたいと思います。

さて、今年見たドラマの影響ですが、はじめて「筑前煮」という料理を作ってみました。これが思いのほか、妻や娘に好評で、うれしさの余り脳内に電流が走りました。といっても私の場合は、シャープのホットクックという自動調理器で作ったわけです。
「なーんだ、自動調理器か」という話ですが、それでも私にとっては革命的な出来事でした。そもそも私は料理が大の不得意です。「筑前煮」など、遥か地平線のかなたにある料理でした。

話変わってデータ分析です。
GA4にもいよいよ生成AIが搭載され、来年はデータ分析も生成AI時代が本格的にはじまりそうです。
面倒な画面操作をせずに、「昨日の売上が上がってるけど原因を調べて」などと聞けば、AIがスラスラっと答えを返してくれそうです。

生成AIは自然言語で質問ができる一方、質問の文脈に合わせた返事を返します。プロンプトでふわっと聞くと、本質から外れた浅い回答が返ってきます。
そうなんです、AIは飼い主を選ぶのです。

JADEの郡山亮さん、HAPPY ANALYTICSの小川卓さんが、GA4のMCPに聞くプロンプトを公開していますが、やはりできる人のプロンプトは違うのです。
私がGA4の Analytics Advisorに「〇〇日のアクセスが増えているけどなんで?」と聞いても、「原因はダイレクトチャネルからのユーザー数が大幅に増加したことです」なんて回答しか返ってきません。これで「使えないじゃん」と諦めてしまってはもったいありません。

【プロンプト付】GA4とClarityのMCPサーバー活用例 JADE 郡山 亮
【生成AIとの全チャット公開】「ウェブサイトの改善」は生成AIで、どこまで可能か?(2025年)

生成AIに聞くとしても、やはり立派な飼い主になる基礎は必要です。概ね以下の3つの点が重要だと考えています。
1) そのツールのことをよく知っている
2) 対象のビジネスとプロセスを深く理解している
3) 統計やデータサイエンスなど分析手法をよく知っている
その上で、「今、解決すべき課題は何か?」という点を突き詰め、生成AIとつきあっていくのが、「当面は」よいでしょう。

さて、上記で上げた3つは、より長期的な視点でみれば、その必要性が変わってくるでしょう。「データ分析がホットクックのようになるとしたら」という仮定でちょっと比べてみましょう。
1) ホットクックという機械の仕組みを知っている → ほぼ必要ない
2) 料理を出す妻や娘の食べたいものを理解している → 喜びに直結
3) どんな料理があるのか知っていて、魚のおろし方や下ごしらえの仕方を熟知している → 必要だしかっこいい

無理やり伏線を回収しましたが、多分、数年で 1)のツールに関する知識の必要性は薄まり、2)と3) のスキルを向上させた人が残っていくように思います。
究極的に生成AIを使いこなす人は、何よりも対象のビジネスと課題をよく理解し、何を解決すればビジネスにとってよいかを考え抜ける 2) のスキルを持った人だと思います。
その上で、3) データの料理方法や下ごしらえの仕方(統計やデータサイエンス)を知っていれば、質の高い響く提案ができるでしょう。

では、これから生成AIと一緒にデータ分析に取り組む人にとってどんな取り組みが良いのでしょうか?
もちろん、スキルや環境、立場でそれぞれに合った取り組みがありますが、私の経験から、ひとつ取り組みを紹介します。

GA4、Clarity、Excel、BigQuery、様々なツールに生成AIが搭載されていきますが、今からはじめたいと思うなら、私はGoogle Sheetと生成AI(ChatGPTかGemini)を組み合わせて使っていくのがよいと思います。
その上で、時機を見てBigQeuryと SQL、PythonやRを扱えるステージにステップアップしていきます。

Google SheetやExcelなどの表計算の大きな利点は、ツール知識が最小限で、どんなデータも集計できる汎用性にあります。
行と列やPivotの考え方は、さらに上のSQL DBを扱う上でも有効です。データ量には限界があるとはいえ、数年分の日別のデータなら十分扱えます。
たとえデータ基盤が整備されていない環境でも、なんとか複数ツールのデータをCSVでまとめれば分析ができる柔軟性もあります。
一部のデータだけで試行錯誤ができる点も、スキルアップには最適です。BigQueryと違ってクエリ費用なども気になりません。
(※データガバナンスは徹底して注意する前提です)

そして、表形式のデータであれば、どんな生成AIでも対応できる点も利点です。
最近のGemini 3やChatGPT 5.2の進化は目覚ましく、データ分析においても、かなりのレベルになっています。
GeminiもChatGPTも互いに競争しながら、どんどん進化していくので、GA4など特定のツールの特定の生成AIで分析するだけでは、なんとももったいない気がします。

GeminiにしてもChat GPTにしても、分析したい課題とその背景、今ある環境を伝えて、提案を依頼すれば、どんな料理の仕方が良いかも提案してくれます。
「季節性やハズレ値を考慮した分析をしたいけどどんな方法がある?」と質問すれば、いくつかの提案と長所短所を教えてくれます。そこで出された中には、統計手法があり、データサイエンスの手法があります。GeminiもChatGPTも、詳細な表の作り方、セルに入れる関数まで、手取り足取り説明してくれます。

これなら、生成AIに沿って試行錯誤するだけで、眠くならずに実践的な「データの料理手法」を学んでいけます。
過去に統計の資格を取ったけど、役に立たずそのままになっている人も、「あ、この分析手法って、こんなときに使うのか!」と新たな学びがあるでしょう。

何よりも、料理のプロセスを逐一把握して、課題→分析→提案→検証のサイクルが進められる点は、あとあと複利になって効いてくると思います。
まだまだAIをブラックボックス化してはいけません。生成AIの結果を検証したり、さらに改善するスキル=批判思考(クリティカルシンキング)を身に着けていくことは、立派な飼い主になるためにもとても重要な訓練です。
気がつけばあなたは、生アジのエラや鱗を、上手にさばけるようになっているはずです。提案にも自信が持てますし、成長を実感出来るでしょう。

特に事業会社で、このGoogle Sheetと生成AIの組み合わせが有効だと思います。
自社のビジネスは理解していますし、自社の売上や成長に貢献できるなら、誰よりも真剣になれるはずです。そんな人たちが、各部署から集まって切磋琢磨していけば、立派なデータドリブンな会社として成長していくことでしょう。

来年2026年、皆様にとって生成AIによるデータ分析が、とても楽しみな一年になることを願っています。

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表  
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。

主な講演

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