コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2025年4月9日号より
アナリティクスアソシエーションでは、不定期に話題になったこと、人についてインタビューを行っていきます。第二回は、SEOの第一人者 Faber Companyの辻正浩さんです。
孤高のSEOマスターの辻正浩さんが、2025年1月16日、Faber Companyグループに自身の会社 株式会社so.la ごと参画すると発表になりました。さらに弟子を養成するというお話が X(Twitter)で広がりました。
▽ 辻正浩がFaber Companyにグループイン SEOの未来を創るこれから
―― 辻さんが Faber Company に入り、弟子を採用するという件が話題です。その後の状況はいかがですか?
辻:発表時のFaber Company のインタビューに答えた内容は、嘘偽りのないお話です。やはりひとりでこのまま続け、後に引き継がずに引退していくわけにはいかないという思いです。
ずっとSEOに取り組んできましたが、やはり本当に難しいSEOもあります。私が取り組んでいる中には、億単位のコンテンツ量を、それも多くの国向けのコンテンツをできるだけ早くインデックスしたいという依頼などがあります。
扱っているコンテンツもビジネスだけでなく、コロナのような疫病の対策情報や、災害情報など、そのコンテンツが届かなければ人々の人生に影響が出るような社会的意義の高いものも多く含まれています。
―― SEOの社会的な意義が想像を超えて増している?
辻:国家間の認知戦などとも言われていますが、間違った情報が先に蔓延してしまって、適切な情報が国民に行き渡らないと、大変な危機が来るかもしれません。
災害など不安なときに、人々は危機感で検索します。その時正しい情報が表示されているか? SEOはそんな場面でも大事になってきます。
結局、検索で表示される悪質な情報に対抗するには、検索しかない。SEOは単なるビジネスのための仕事ではありません。
政府がきちんと情報発信できていればよいのですが、SEOを考慮したり、速報性を重視したりはなかなかできません。メディアや民間に頼っていくこともあるでしょう。
しかも、情報をただ出せばよいという話ではなく、見出し、タイミング、情報の質、さらに技術面まで十分に配慮しなければいけません。SEOは本当に大切なものなのです。
こうした社会的にも重要なSEOに、自分はかなり関わるようになっています。このまま一人だけで続けて、10年後に引退するわけにはいかないのです。
―― 辻さんの危機感は尋常ではありませんね?
辻:ただ、私は本当にこのSEOという仕事が好きなんです。この仕事に打ち込めるのは、何よりもSEOが楽しいからで、情熱をもって取り組むことができるからです。
とんでもなく広い知識が必要ですし、経験も大事ですが、それ以上にやる気以上の使命感を持って取り組める仕事です。
―― 弟子を育てる意義はわかりました。ただ辻さんの要求するレベルに答えられる人が本当にいるのか心配になります。
辻:実はこれまでもずっとそうした弟子というか、一緒に働ける仲間を探してきました。実際のところ、人材の見極めはとても難しいです。
結局は、本当に質のよい素材を見極めて、育てていくしかないというのが結論です。
おっしゃるとおり、それは果てしなく難しいです。でも、私は悲観的には捉えていなくて、決して不可能な挑戦ではないとも思っています。
そうした人に出会うためには、大量の志のある人たちに会って面接をしないといけません。「ひとり会社」の私が、採用活動をしても何年かかるかわかりません。
不可能を可能にするためには、理解者と一緒に取り組むしかない。そこでFaber Companyさんといっしょに進んでいく道を選びました。
―― 何名ぐらい採用する予定なのでしょうか? 採用にあたって重視している点はなんでしょうか?
辻:既に一緒にやっていける仲間が見つかりはじめています。やはり不可能ではないのだという手応えを得ています。当面は2-3人を採用するところから進めて行きたいと考えています。
複雑なサイトのSEOは決まった方法論が確立されているわけではありませんので、育成といってもマニュアルを読んだら対処できるというものではありません。
採用で重視しているのは、その人の本気度です。
もちろん、技術理解力といった点はとても大切なので、その点も確認しています。ただ、過去のSEO経験は求めていません。これまでのSEOスキルが役立つとは思っていませんし、かえって「SEOはこうするべき」といった固定観念に縛られると成長は望めません。
私自身、SEOがたまらなく楽しいので、困難な状況でも乗り切ることができました。その積み重ねが糧になっています。SEOという仕事は、積み上げた過去の経験量で、未経験をねじ伏せていくしかありません。それが楽しいと思えるので、たいていのことは何とかなります。
―― SEOにおけるFaber Companyさんとの協力関係は?
辻:so.laとしてのSEOサービスには大きな変化はありませんが、採用や労務面などで支援いただいています。
特に、効果的な募集をかけ、大量の応募書類を精査し、事前面接をして、最終面接までもっていく、そうしたオペレーションの多くを協力していただいています。
また、グループに加わった以上は、グループ全体に利益を出すための業務にも並行して取り組んでいます。
―― 変化が激しい時代です。それでもSEOという仕事がなくならないという確信がないと人は雇えないと思います。検索エンジンの長期的な展望はどう見ていらっしゃいますか?
辻:「検索」という人々の活動は決してなくなりません。SEOは、そうしたプラットフォームやデータベースに適切な情報を反映することです。そう考えれば、検索もSEOも、百年続くと思っています。
一方で、中途半端な今のSEOは無くなっていくでしょう。特に 質を軽視したコンテンツマーケティングはもう無くなります。
―― AIが進化して広がっても、SEOはむしろ重要になっていくというお考えですか?
辻:本当に人々が求めている大切な情報や、不測の事態の速報は、AIでも簡単には置き換わりません。むしろAIが苦手なところだとさえ思っています。
私がSEOに影響する事として注目しているのは国レベルの発信や規制の話もあります。それこそアメリカは国家レベルで、情報発信に力を入れていて、SEOにも取り組んでいます。元Googleのマット・カッツも政府に入って話題になりましたね。
日本はまだまだですが、大切な情報を届けるためには、政府や民間側にSEOの取り組みが求められます。
▽シリコンバレーの技術屋が政府で働くとどうなるか? マット・カッツ| TED2019
―― 短期的には AI Overview がゼロクリックを増やしサイトの流入を減らすのではないかと話題です。
辻:基本的に心配する必要はありません。ゼロクリックは増えても、結果的に検索流入に与える影響は軽微です。表層的な知識を求めるクエリは減るでしょうが、本当に必要な情報への流入は減りません。
実はかつてGoogleが「強調スニペット」を導入したころ、私は似た危機感で声を上げた苦い経験があります。結局、検索トラフィックは増え続け、流入はまったくといっていいほど影響を受けませんでした。今回も大きな影響はないでしょうし、現段階のデータを元にしたきちんとした調査ではそのような結果が出ています。
ただ、新たな取り組みの「AIモード」の導入は別です。検索の一部のAI Overviewとは違う、もっとAIとの対話に寄ったインターフェースで、AIと対話するイメージですから、検索という行動そのものを置き換えるかもしれません。Androidなどからここへの動線がどこまで置かれるか、その点は注視しています。ただ、本当に広がるのか、検索とは別に広がるのか、その点はまだわかりません。
▽ Expanding AI Overviews and introducing AI Mode by Google
―― 辻さんはGoogleが好きだったと思いますが、今のGoogleをどう見ていますか?
辻:今でも好きな会社ではありますが、最近は正直不安しかありません。今までのGoogleなら、絶対にこんなことはしなかったというポリシーの変更が進んでいます。
検索結果の途中に広告を出したり、ギャンブルや性的なコンテンツ広告なども容認する方向です。常に成長が要求される中で、株価やビジネスの論理が優先されているように見えます。
Googleの中では、きっとこうした動きに抵抗している方が多くいると思います。その方々の心情を思うと、胸が張り裂ける思いです。
―― 検索とSEOが続いて、果たしてGoogleはトッププレイヤーでい続けるでしょうか?
辻:私はもう長期の予測はしません。本当に予測が難しくて、数年後に何が起きているかさえわかりません。検索エンジンとSEOに長年関わってきて、今の時代ほど、予測不能な変数が多い時代は経験していません。
生成AIはまだまだ分かりやすい変数です。それ以上に、米国や欧州など国家の変化、それによって国がGoogleにプレッシャーをかけている件が動きが見えない部分です。
EUはGoogleの独占状態に厳しい規制をかけ、既にEUの検索結果からGoogle Flights(航空券予約検索)は消えてしまっていますし、もっと激しい変化が起きると見られています。
日本もEUに呼応するように、プラットフォームに規制をかけはじめています。スマホソフトウェア競争促進法が実際に影響を及ぼしだすと、国内での影響は広がっていくでしょう。
ただ、実はやることは変わりません。ぶれが大きければ、細かなことを考えても意味がありません。本当に大事なことに集中して、徹底的に追求して取り組んでいきます。
▽ 2025年12月19日までに全面施行される予定のスマホソフトウェア競争促進法
―― 本質的で大切なSEOに取り組むチームを作っていくしかないですね。
辻:こういう時だからこそ、SEOへの使命感は高まっています。
かつてSEO業界が悪い方向に進んだ暗黒の時代がありました。Yahooなどの検索結果が、外部リンク施策に占拠された時代です。そういった混乱の中で、思うようにSEO人材を育てられなかったという苦い思いがあります。
そんな思いはもうしたくありません。大切なことに突き進んでいくしかないのです。
アナリティクスアソシエーション代表
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
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