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電通が今年2月末に恒例の「2024年 日本の広告費」を発表しました。皆さんにとっては、予想した驚きのないレポートかもしれません。
ただ、私は今回はレポートを見ながら、なんか大きな動きがありそうだな、という感覚を持ちました。まだ生煮えの考えですが、a2iのコラムで共有してみたいと思います。
▼2024年 日本の広告費
▼2024年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析

電通の「2024年 日本の広告費」によると、インターネットの広告費は3兆6,517億円で前年比109.6%でした。総広告費に占めるネット広告の割合も47.6%とほぼ半数に迫っています。広告予算のデジタルシフトは、着実に進んでいます。まあ、そうですよね。

認知型広告のデジタルシフト

中でも成長が著しいのは、ソーシャルと動画広告です。
ソーシャル広告は前年比113.1%の1兆1,008億円と、推定開始以降はじめて1兆円を突破しています。インターネット広告媒体費に占める構成比も37.2%となっています。
次に動画広告です。こちらの伸びはさらに勢いがあります。
前年比123.0%の8,439億円で、広告種別の構成比でディスプレイ広告を上回りました。
YouTube動画だけでなく、SNSの縦型動画、TVerなどスマフォでも視聴できるテレビ動画、そしてコネクテッドTV(CTV)もここ2年で2倍の伸びで拡大しています。

これも予想通りなのかもしれませんが、認知型広告のデジタル化というトレンドが、いよいよ本格化しはじめたのかなと、私はこの点に注目しました。

従来、テレビCMに投資してきた企業が、デジタルの動画広告へ予算をシフトしていく。TVerの広告を見ていると、その流れはもうかなり進んでいるようです。これまでテレビが担ってきた「認知」や「ブランディング」の役割を、デジタル動画と分け合う形になっていくのでしょう。

並行して、従来刈り取り型中心で取り組んできた企業も、この流れに乗ると思います。
検索広告とディスプレイ広告中心にネット広告を活用してきた企業が、アッパーファネルからミドルファネルの動画広告へ、投資をシフトしていく流れが顕著になっていくのではないでしょうか。
ネット広告の「刈り取り」から、「認知」「興味・関心」への移行、その流れがさまざまな業種・規模の企業に広がっていくことが予想されます。

デジタル動画広告の効果計測には課題が多い

さて、そんな成長著しいデジタル動画広告ですが、効果測定となると課題が山積みなのではないでしょうか。

まず、プライバシー規制への対応が挙げられます。Cookie規制や個人情報保護法の強化によって、以前のようにウェブサイトを訪れた後の行動を追いかける「ビュースルー」といった効果測定が難しくなってきました。

また、ユーザーが複数のデバイスを使い分けていることも、効果測定を複雑にしています。スマートフォン、PC、そしてテレビ。それぞれのデバイスで広告に接触したとしても、それが同一のユーザーなのかどうかを正確に識別するのは、ほぼ不可能です。

さらに、広告を配信するプラットフォームごとに計測方法が異なるという点も、頭を悩ませる問題です。ソーシャル、YouTube、コネクテッドTV、それぞれ独自の指標で効果を測定しているため、横断的にデータを比較したり、統合したりするのが難しい状況にあります。

もちろん、ブランドリフト調査や広告想起調査といった手法もありますが、これらは時間もコストもかかるため、手軽に実施できるとは言えません。

認知獲得には、地上波のTVコマーシャルを出せばいいという単純な世界から、とんでもなく複雑な世界が、データ分析を置いてきぼりにして進んでいるのだと思います。

効果計測と分析のプレイヤーの変化

こうした計測の課題を解決するために、新しい動きも出てきています。
具体的には、AIを搭載したマーケティングミックスモデリング(MMM)です。
MMM自体はこれまでもありましたが、大企業が大手代理店のツールを活用する、かなり限定したサービスだったように思います。

このMMMが、統計とAIを活用したモデリングで、今後の広告効果計測のメインストリームになっていくかもしれません。
MMMは、各広告チャネルがブランド認知や購買行動にどのような影響を与えているかを可視化するプラットフォームです。複雑なユーザーの行動パターンの中から、それぞれの広告がどれだけ貢献したかを明らかにし、最適な広告予算の配分に役立てることを目指しています。

今後は、このようなAI技術を活用した統合型の計測プラットフォームが、ある程度手軽に利用できる環境ができてくれば、より顧客側が主導権を握るようになる可能性もあるのではないでしょうか。

Googleなど広告プラットフォームが提供する管理画面のデータ、大手代理店のMMMが可視化するデータ、どちらも主導権は顧客側というよりは、プラットフォーム企業と大手代理店にあったと思います。
MMMのような統合的な効果計測ツールを、顧客自身が、もっと気軽に活用できる世界、この世界がすぐ先の未来に広がっているのではないかと、私はそんなイメージを持っています。

明日の広告担当者に求められるスキル

もし、このような変化が進むなら、広告支援の会社や広告担当者には、これまでとは違ったスキルが求められるようになるでしょう。

まず、統計的な概念やAIが広告の効果測定においてどのような役割を果たすのか、その基礎的な理解は必須となるでしょう。

さらに、広告の効果測定に必要なタグの知識、異なるプラットフォームやツールを連携させるためのAPIの知識、そしてサーバー側でのデータ管理の知識といった、より技術的な知識も重要になってくるでしょう。

こうした広告支援のプレイヤーが、従来通り大手代理店中心に展開されるのか、新興企業が出てくるのか、あるいは個人プレイヤーが活躍する世界になるのか?
おそらくどれかひとつではなく、どんどん広がっていくように思います。

2024年の広告費のデータは、アッパーファネルとミドルファネルのデジタルシフトが、数字になって見えてきたように思います。
そこには効果測定の大きな課題はありますが、統計とAIの進化によって、その課題も克服されていくはずです。
これからの広告業界で活躍するためには、新しい技術や知識を積極的に学び、変化に対応していく柔軟性が求められます。動画広告の未来は、私たちデジタルマーケターにとって、大きなチャンスに満ちているでしょう。

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表  
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。

主な講演

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