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衆議院選挙が終わりました。選挙のたびに開票の時刻と同時に当選確実が出る「出口調査」の予測が話題になります。
今回、開票と同時に出した主要メディアの議席数の予測は下記のとおりでした。

最終結果 与党 215 (自民 191 公明 24)
—— 以下 与党議席数の多い順 ——
【 N H K 】 自民 153-219 公明 21-35 ※当日は与党過半数確保は微妙と報道
【テレビ東京】与党 211 (自民 184 公明 27)
【朝日新聞】 与党 210程度 (自民 185 公明 26)
【読売新聞】 与党 209 (自民 182 公明 27)
【フジテレビ】与党 209 (自民 184 公明 25)
【 T B S 】  与党 208 (自民 181 公明 27)
【日本テレビ】与党 198 (自民 174 公明 24)

各社が早々と与党過半数割れ確実と報道する中、NHKは与党過半数割れについて慎重に報道しました。NHKが与党過半数割れのテロップを出したのは、0時を回り投票日翌日でした。多くの人はテレビを消して、布団に入っていたと思われます。

実はNHK、前回の衆議院選挙で、立憲民主党が伸びると予測し、大きくはずしていたのです。これは手痛い失敗でした。
【2021年 NHK予測】自民 212-253 → 結果 261 立憲 99-141 → 結果 96

前回の失敗の経験から、NHKが慎重に来るに違いないと、私は注目していました。
思ったとおり、予測の幅も前回より多めに取り、与党過半数割れもなかなか報道せず、各選挙区の当確打ちも相当慎重に見ていたようです。その成果もあってか、数値の上では、無事予測の範囲におさまっていたようです。データ分析担当者は、ひとまずほっとしていることでしょう。お疲れ様でした。

しかし一方で、各社が与党過半数割れをいち早く報じていた中、NHKだけが「微妙」と報じ続けました。今回は拮抗する選挙区も多く、難しい予測だったと思いつつ、慎重になりすぎて、肝心な決断が遅れた、と厳しく見ることもできます。

選挙における定量調査の予測の手法は、大きな選挙ごとに、その手法が見直されてきました。
アメリカでも、大統領選挙のたびに、調査するパネルの抽出方法などが、たびたび見直されてきた歴史があります。
とりわけ有名なのは、1948年のハリー・トルーマンが大統領になったときです。各社がいずれもトルーマンの敗北を事前に予測しましたが、大外しをしました。この反省から、固定電話による無作為抽出の手法が取られるようになったとも言われています。

最近の大統領選挙では、事前の定量的な調査に対して、別の事前調査の数値を加味し、調整を細かくする「複合的な予測」を行っているようです。
トランプがヒラリー・クリントンを破ったとき、バイデンがトランプに勝利したとき、それぞれに事前調査の予測が外れています。
事前の調査予測が外れる原因は何か?
固定電話からスマフォへの移行、メディア不信などもあり、定量調査そのものが思うようにできない、あるいは偏りが生じやすい傾向が指摘されています。それを補正するため、確立された統計手法だけでなく、微妙な調整も行なれているようです。

もう一つの無視できない影響は期日前投票の増加です。
期日前投票は年々増えていて、「全有権者の20.11%」と発表されていました。投票数の割合で見れば、期日前投票の割合が、かなり高くなっています。一方で日本の選挙では、投票率そのものが低下傾向にあります。両方を加味すれば、当日の投票の絶対数は、減る傾向にあると言えます。

期日前投票の増加については、すでに各社対策を取っています。今回の選挙でも、期日前投票の投票所で、出口調査が行われています。
しかし、この期日前投票、投票当日とは投票所も違い、時系列での傾向が入ってきます。長期間にわたるので、十分な人員を配置できない課題もあります。単純に期日前投票の数値を合算すればすむ、という話ではありません。

投票日当日のように、一時点で、まとまった数を集計して予測する場合、すでに確立された統計手法が適用できます。しかし、投票日のまとまった集計と、徐々に変化する期日前投票は、一緒に集計することはできません。
NHKが前回予測を大きくはずした原因のひとつが、期日前投票の調査データの扱い方にあったようです。
期日前投票が進むにつれ、投票の傾向が明らかに変わっていたため、それをどう考慮するか、その調整の難しさから、前回は予測を外してしまったと言われています。

こうした経験を重ね、日本の選挙予測も、やはり複数の調査を加味した「複合的な予測分析」が行われているようです。
事前の世論調査による情勢分析、期日前投票の出口調査、当日の出口調査、そして、驚いたことに、投票所で投票用紙を箱から出したときの、離れたところからの目視まで、複数の集計結果を加味した上で予測が行われているようです。

投票という一見わかりやすく思える集計も、その調査予測はかなり難しく、高度になっていると改めて感じました。それ以上に、データから、報道の言葉に落とす決断の難しさは想像を超えています。
ほんの数時間後には忘れられてしまうデータ予測と、その裏側でヒリヒリとした思いで決断を下す人々。
表には見えないデータ分析の醍醐味に、しばし思いを馳せつつ、次の大統領選挙予測も楽しみにしたいと思います。

コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表  
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。

主な講演

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