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AIによる自動化で、将来多くの仕事が奪われる。ここしばらく「AI=大量失業」という負のイメージが広がりましたが、その議論も少し落ち着きを見せているように感じます。最近、この手の議論でよく引用されているのが、ボストン大学のジェームズ・ベッセンという人がまとめた論文です。この論文は、過去起こったコンピューターによる自動化というファクトを分析し、自動化が雇用や賃金にどんな影響を与えたかを研究しています。
こうしたファクトによる分析がひとつ共有されることで、感情的な議論が落ち着いて、よい方向に向かうように思えます。

“HOW COMPUTER AUTOMATION AFFECTS OCCUPATIONS: TECHNOLOGY, JOBS, AND SKILLS”
James Bessen November 13,2015

この論文では、銀行におけるATMの導入事例を取り上げています。
ATMが導入され、現金の入出金業務が自動化されました。身近でわかりやすい例ですね。多くの人は、ATMの利用が進んだので、銀行の店員の仕事も、その人数も減っただろう、と考えます。

しかし、事実は違いました。データを見るとむしろ店員は増えているのです。それも、2000年以降のデータで年間2%という、雇用全体の増加率よりも早いスピードで増加していました。
確かにATMにより店員の負担は減りましたが、その分、他の金融商品の営業販売などの業務が増えています。また、一つの支店をこれまで平均21人で運営していたのが、平均13人でよくなったため、銀行は支店の数を増やし、全体として店員増加につながっています。

この論文では、ATMに限らず、コンピューターを積極的に導入した業務ほど、人数も賃金も増えた(年間1.7%で増加)という結果が導き出されています。
つまり需要がある限り(ここが大事なポイントなのですが)、部分的な業務の自動化は、仕事を減らすどころか、増やす結果になった、と述べています。

このATMのデータは引用されやすいストーリーですが、彼の研究結果を読み込むと続きがあります。
ATMのように一部の仕事だけが効率化された職種がある一方で、仕事の完全な置き換えが発生した職種もあります。例えば新聞制作の現場では、植字工の仕事が、DTPのエディターやデザイナーに置き換わっています。

こうした「職種の置き換え」が起こった場合、失業と新規雇用がほぼ同じ時期に起こります。そして、この場合でも年間0.45%と小さい伸びながら、全体で見ると仕事は減っていません。

過去のデータを分析すると、コンピューターによる自動化が、仕事を減らした、という事実はない。こうしたファクトが見えてくると、議論はより発展的になっていきます。

雇用の置き換えが発生するエリアでは、賃金にどんな変化が起きているのか?
雇用の支援などの制度でうまくいった事例は何か?そんな議論に発展していきます。

また別の人が、ATMの導入のインパクトをより深く掘り下げて見始めます。
銀行の店員は今後も増えていくのか? どうもそうではなく,モバイルバンキングの広がりで、支店数が減りはじめるという兆候が出ています。この兆候をどう見るのか? 新たな議論がはじまります。

この一連の議論を追いかけていくと、
(1) 扇情的な警告→ (2) 情緒的な拡散と反発→ (3) ファクトによる分析→ (4) 発展的な議論
という流れがあるように思います。

私たちデータに触れるものとしては、どんな場面でも情緒的な議論の渦が巻き起こった時、(3)のファクト分析を行ったり、その分析の一次ソースにあたり (4) の発展的な議論を促す、という姿勢でいたいと思います。

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コラム担当スタッフ

大内 範行

アナリティクスアソシエーション
代表
オオウチコム

アナリティクスアソシエーション代表  
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。

主な講演

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