コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
メールマガジン2017年11月1日号より a2i代表 大内 範行
本日のコラムはサッカーのデータ分析の指標についてです。
サッカーはゴールの瞬間がクライマックスですが、同時に 0対0 の引き分けで得点がない試合もあります。私自身はいつからか、この得点が入らない 0対0 の試合に面白みを感じるようになってしまいました。
ゴールにならないシーンにもサッカーの魅力はたくさんあります。選手たちはいつゴールが入るかわからずに、常にゴールを意識しながら、ギリギリの攻防を繰り広げています。ハイライトのゴールシーンを見るよりも、 0対0 の試合をじっくり見るほうが、そういった選手たちの気持ちに近づける気がします。
さて、最近ではサッカーでもデータ分析が語られるようになってきましたが、そんな 0対0 の試合のよしあしを評価できる指標はあるでしょうか?
最近「ゴール期待値(ExpG)」という指標をちょくちょく見かけるようになりました。その試合でどれだけゴールに近づいたかを表す指標です。
これは一つのシュートに対し0から1の期待値が割り振られます。必ず決まりそうなPK(ペナルティキック)のゴール期待値は、過去のデータ集計から 0.76となるようです。そしてゲームごとに発生したシュートのゴール期待値を足していくと、そのチームのゲームごとのゴール期待値が出てきます。
この期待値は、シュートの数や枠内などの判断だけでなく、例えばシュートの位置や角度、種類(ヘディングかキックか)、チャンスの生まれ方(パスかクロスか、カウンターアタックか)など過去のデータを処理して指標のモデルを構築します。
Googleアナリティクスの新しい指標「セッションの品質」が近いイメージですね。
先日、10月14日に行われたマンチェスター・ユナイテッド対リバプールという強豪同士の対決は、 0対0 ながら見ごたえの多い試合でした。この試合のゴール期待値は、マンチェスター・ユナイテッドが0.2で、リバプールは、1.8となっていました。リバプールは偶然の神様の機嫌がもうちょっとよければ、2点とれていたと評価でき、逆にマンチェスター・ユナイテッドの方は、同じ試合を5試合やっても1点入るかどうかという評価です。
この期待値は、 0対0 を愛する私にとっても、実感に近い数値になっていました。
このゴール期待値の面白い点はその誕生の経緯がオープンソース的なところです。
イギリスではサッカーと賭け事が密接に結びついていますが、ゴール期待値は、賭け事に活かすために自然発生的に出てきました。実際、同じゴール期待値でも、分析者により様々なモデルが存在しています。
データが一般に公開されると、それを分析する人が出てきます。様々な世界の人が、いろいろなアイディアを出し、独自のモデルを出していきます。さらにその期待値が実態に近いのか、別の人が検証を行います。
このゴール期待値を、実際にどう活かすのか? あるサッカー評論家は、直近の試合の評価に使うでしょうし、別の人はここ3試合勝てないチームの監督を評価するために使うかもしれません(レスターの監督を解任するのは早すぎるのではと思いました)。監督はゴール期待値を次回の対策の参考にするかもしれません。失点はしなかったものの、ゴール期待値が低ければ、ゲーム後半のカウンター攻撃の確度を上げる練習に力を入れることもできるでしょう(マンチェスター・ユナイテッドはそうすべきと思いました)。
データが中心になるということは、そのデータや指標、統計モデルなどがどんどんオープンになっていく流れでもあります。ツールのUIで与えられた指標を鵜呑みにするだけではなく、どんどんデータを抽出して自分なりの改善のためのモデルを構築して、それをまた公開していく。そういった仕事の発想の仕方もあるでしょう。この世界はどんどんおもしろくなってきたと思います。
アナリティクスアソシエーション代表
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Google。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスのマネージャなどを歴任。その他、SEO会社起業や日本の事業会社のデジタルマーケティングに従事してきた。
2019年からはJellyfishにVP Analyticsとして参画。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてウエブ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
また、仕事の傍ら、幕末 徳川慶喜についての小説も執筆出版している。
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