コラムバックナンバー

今月は趣向を変え、a2iメンバーがピックアップした記事の中からひとつのテーマに絞ってお届けします。「ウェブへのアクセスの過半数が、すでに人間ではなくなった」。いわゆる「ボット増えすぎ問題」を深掘りします。

2026年6月3日、Cloudflareのマシュー・プリンスCEOが、同社のネットワークを通過するウェブリクエストのうちボットが57.5%を占め、人間の42.5%を上回ったと明らかにしました。同氏が2026年3月時点で示していた予測は「交差は2027年末」でしたので、1年以上早く到来したことになります。

この数字は、もはや情報システム部やセキュリティ担当だけの問題ではありません。私たちが日々確認しているPVやセッション、CVR、さらには広告のクリック単価。デジタルマーケティングの指標は、ほぼすべて「画面の向こうに人間がいる」前提で組み立てられてきました。その前提が崩れつつある今、アナリストは何を測り直すべきでしょうか。今月はその点について考えます。

【1】【交差点の通過】ボットがウェブリクエストの57.5%を占めた

「インターネット上の活動の大半は人間のものではない」という、かつては陰謀論として扱われていた「dead internet theory」が、統計上の事実として確認されたという論考です。記事はそこから一歩踏み込み、この30年間ウェブを支えてきた収益モデルそのものが前提を失ったと指摘します。

◆詳細記事
The ‘dead internet theory’ is real. And it’s killing the web as we know it(Fast Company)

◆DEEPなチェックポイント
記事が投げかける問いは、「人間の注意(アテンション)を収益化できないのなら、何を収益化するのか」という点に集約されています。

コンテンツは無料で提供し、その対価をユーザーの注意と行動データから広告などで回収します。このモデルは1990年代半ばから今日まで、ウェブの標準的な広告経済圏を形づくってきました。しかしこのモデルは、広告インプレッションもコンバージョンファネルもページビュー基準の分析も、「訪問者は人間」という仮定の上に成り立っています。
ところが、サイト訪問者の過半数がエージェントであれば、このモデルの根底が崩れてしまいます。

注意したいのは、これが必ずしも「不正アクセス」ではないという点です。ユーザーに頼まれて商品を比較し、フォームを埋め、予約を取るエージェントは、悪意ある存在ではありません。
むしろユーザーの代理人という性格です。ただ、そのアクセスは、人間のアクセスを前提とした分析体系ではノイズに見えてしまいます。

【2】【AIトラフィックの解剖】学習クローラーから「行動するエージェント」へ

ボットとひとくくりにされるトラフィックの中身が、この1年で大きく入れ替わっています。HUMAN Securityが2025年の1000兆件を超えるインタラクションを分析したベンチマークレポートは、その内訳の変化を数字で示しています。

◆詳細記事
The 2026 State of AI Traffic & Cyberthreat Benchmark Report(HUMAN Security)

◆DEEPなチェックポイント
レポートの主要な数字を挙げます。AI由来のトラフィックは2025年1月から12月で187%増加し、自動化トラフィック全体の伸びは人間のトラフィックの8倍の速さでした。

内訳を見ると、学習用クローラーは依然としてAI由来トラフィックの67.5%を占める最大勢力ですが、その構成比は年間を通じて低下しています。代わりに伸びたのが、スクレイパー(597%増)と、ユーザーの代理として実際に行動するエージェント型です。
後者は年初には自動化トラフィックの1.7%にすぎませんでしたが、年末までにおよそ8,000%の増加を記録しました。活動はとくに小売・EC、ストリーミング/メディア、旅行・宿泊といった、取引が発生する領域に集中しています。

エージェント型の場合、単なるサーバー負荷や費用の問題にとどまらず売上に直結するため、robots.txtの制御といった技術的判断ではなく、販売チャネル設計としての判断が必要になります。

もうひとつの論点が、「正当な自動化と不正の境界が0.5ポイントにまで狭まった」という指摘です。顧客の代わりに買い物をするエージェントと、在庫を買い占める転売ボットは、ネットワークから見た振る舞いがほとんど変わりません。一律に遮断すれば正当な顧客の代理人を締め出し、一律に通せば不正を素通りさせることになります。

【3】【広告の実害】5,500件のCVのうち、実際の成果は20件でした

前の2本がマクロの構造変化だとすれば、こちらは日本の広告運用現場で起きた具体例です。Meta広告のアカウントで月5,500件のコンバージョンが計上されながら、実際の成果は20件ほどだったという事例が報告されています。

◆詳細記事
Meta広告のアドフラウド ── リンククリック最適化がBotクリックを増やしたケース(株式会社オーリーズ)

◆DEEPなチェックポイント
管理画面上のCVは月5,500件、しかし実際のLINE友だち追加は20件、率にして0.4%でした。CTR26%、CPC3円、iPhone比率2%、平均エンゲージメント時間2秒という数字が並び、クリックの9割がAudience Networkに集中していました。

Audience Networkを配信面から停止したところ、約1か月後に見かけのCVは250件へと約98%減少し、実際のLINE友だち追加は69件へと3倍以上に増えています。

この事例で読み取りたいのは、媒体のアルゴリズムが誤作動したわけではないという点です。機械学習は与えられた目的関数を忠実に最大化しただけで、「リンククリック」というボットでも達成できる浅い指標を目的に据えたために、最適化はボットの多い配信面へ素直に予算を寄せていきました。指標の設計ミスが、そのまま予算の流出経路になった形です。

【4】【自社計測の汚染】GA4の「既知ボット除外」では届かない5~10%

広告の話に続いて、自社の計測データそのものの話です。
GA4にはボットを除外する機能がありますが、その対象が何であるかは、意外と知られていません。実測データとともに、その限界と向き合い方を整理した記事です。

◆詳細記事
Googleアナリティクスの計測に「非人間」が増えてきた(株式会社真摯)

◆DEEPなチェックポイント
まず押さえるべき事実は、GA4のボット除外が対象とするのは「既知のボット」に限られるという点です。業界共通のリストに載っているクローラーは除外されますが、WebDriverやSeleniumなどで動く自動化ブラウザー由来のアクセスは、そもそもこの枠組みで捕捉できません。本物のブラウザーとして動作するため、標準の除外フィルターをそのまま通過してしまいます。

記事では、GTMのJavaScriptシグナルを使って自動化ブラウザー環境を検出した実測値が示されています。あるサイトではユーザーの約5%・ページビューの3%、別のサイトではユーザーの10%・ページビューの8%が自動化と判定されました。
これらのアクセスは、極端に低いエンゲージメント率、リファラーの欠如、存在しないURLへのリクエストといった偏った特性を持ちます。そのため全体に薄く広がるのではなく、特定のページや指標に集中して歪みを生みます。コンテンツの優先順位づけを誤らせるには十分な量です。

対応方針として興味深いのは、「除外」ではなく「識別して分離」という選択です。除外してしまえばデータそのものが失われ、後から検証できません。フラグを立てて通常のレポートからは外し、自動化トラフィックの推移は別途モニタリングします。この設計であれば、ボットの増減自体をひとつの観測対象として扱えます。

そして記事は、AIエージェントが普及した先を見据えて、「人間か機械か」という二分法そのものが成立しなくなると指摘します。「どの主体が」「どんな意図で」「どの手段でアクセスしたか」という3つの軸で捉え直す考え方です。

【5】【対策】PVはもう信用できないのか? この問題にどう向き合うべきか?

7月に公開されたものではありませんが、「ボット増えすぎ問題」を継続的に取り上げ、実務者の視点から対策まで語られた、運営堂・森野誠之さんのYouTube動画をご紹介します。ゲストは攻城団合同会社の河野武さんです。

【攻城団合同会社:河野武~後編】PVはもう信用できない/GA4とBigQueryでボットを弾く/コホート分析とリテンションでメディアを測る/Netflixに学ぶKPI再設計(森野誠之の毎日堂・マーケティングラジオ)

現時点でまとまった情報源として参考になりますので、ぜひ前編・後編をあわせてご覧ください。

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今月は「ボット増えすぎ問題」に焦点を当てました。ボットが過半数になったこと。その中身が学習クローラーからエージェント型へ移ったこと。それが広告予算の実損として現れていること。自社の計測データもすでに汚染されていること。そして、その識別が非常に難しいこと。この5点です。

「データの向こうにいる人間の行動を分析する」ことが私たちウェブアナリストの仕事です。しかし、その定義は静かに書き換わりつつあります。
私たちが向き合うべきは、人間と、人間に頼まれたAIと、誰にも頼まれていない学習用クローラーが混在するデータです。

2026年、a2iは「生成AIを使ったデータ分析」に焦点を当ててプログラムを組んでいます。ただ、それだけでは済まない現実が迫ってきているように感じられます。一朝一夕で解決できる特効薬はありませんが、このテーマについてもa2iで積極的に取り上げていきます。

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