コラムバックナンバー

この3年ほどは地方行政におけるデータ利活用やデジタルスキル人材育成のタスクに従事する機会が増えて来ました。また、私の会社ではデータサイエンス関連の人材育成をビジネスとしていることもあり、下記のどちらが組織のデータリテラシーを上げるのに効率が良いのか?と訊かれることが多くあります。

– 業務知識のある人が統計・機械学習を身につける
– 統計・機械学習のスキルがある人が業務知識を身につける

どちらも行ってください、というのが本音です。データサイエンスの場合は「ビジネスにおける課題解決」が目的であるため、ビジネスドメインの知識も数理科学のスキルも必須であることが理由です。学びやすさでいうと業務知識のある人が身につけてくれるのに越したことはありませんが、かかる時間の長さでいうと後者のほうが効率は良いように感じます。ところが「行政」においては少し異なる向きがあるな、と感じたのが今回のコラムのテーマを思い立った背景にあります。

「行政の担当者が統計を学ぶ意義を教えて下さい」

これは、某所で地方自治体の統計担当の方から受けた質問でした。すべての人にデータサイエンスのスキル、統計のスキルを身につけてほしいとは思いますが、行政の方に関しては詳しい人がビジネスドメイン(地方行政の場合は地方特有の課題、地理特性、歴史など)をベースに統計・データサイエンススキルを身につけていただくのが効率が良さそうです。その理由は主に下記の3点です。

課題背景に対する理解が深い

お勤め先であることはもちろん、大抵の場合はその行政区の中にお住まいになり、日々の業務の中で自治体内を行き来されている方がほとんどです。地域特有の課題や地理特性に詳しいことは間違いないでしょう。生まれ育った方であれば、時間とともに経過することにもきっと気づきやすい背景があるはずです。

多様な組織で臨める

地方自治体の組織はかねてより女性も働きやすく、男性の育休義務化や少数派になりがちな住民の方々のサポートなどを行っておられることなどから、多様なメンバー、多様な価値観をお持ち方が多く存在しています。データから示唆を得る際には多様な組織で様々な価値観から眺めることで、より多くの気づきを得ることができます。その点において、地方行政の組織は大きなメリットがあると感じます。

自ら集めたデータ・統計で臨める

行政担当者の職務の一つに「統計情報を集める」というものがあります。○○統計とか、○○に関する意識調査、というのは行政区の課題、実態を捉えるために多く行われています。その担当者が「集めたデータ」に詳しくないはずはなく、データ収集方法・時期について考慮しなければならないことや、偏りに対する考慮など、これも理解が深くないはずがありません。

近年、いくつかの地方自治体の方々と取り組んだことにより、地方自治体の方々には少しのデータ解析スキルを身につけていただくだけで「データを元にした本当の課題解決」が行っていただけるという確信が私には生まれました。行政や社会課題に限っては「その課題に最も詳しい人がデータスキルを身につける」が近道で、そのスキルもベーシック、シンプルなもので良いというのが私の見解です。

そのために行えることを実行し、嘆きの多いこの日本社会の改善につなげていきたいと思う次第です。

コラム担当スタッフ

菅 由紀子

株式会社Rejoui
代表取締役

株式会社サイバーエージェント、株式会社ALBERTを経て、2016年に株式会社Rejouiを設立。DX推進支援、データ分析・利活用コンサルティング、データサイエンス教育事業などを展開。
統計ソフトRやPythonを活用した分析入門講座をはじめ、学生、企業、官公庁へ向けた統計・データサイエンス学習講座を提供。日本行動計量学会、WiDS TOKYO @ YCU、日本RNAi研究会等、数々の学会およびシンポジウムに登壇。自身がアンバサダーを務める人材育成の活動(WiDS HIROSHIMA)が評価を受け、2021年度日本統計学会統計教育賞受賞。

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