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今年1月のことですが、日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)から「非公正な「No.1 調査」への抗議状」が発表され、マーケティング・リサーチに携わる人々の間で大きく話題になりました。これは、No.1を謳うために“結果ありき”のアンケート調査を行う企業やその担い手であるマーケティング・リサーチ企業に、強く抗議したものでした。

「売上No.1」「顧客満足度No.1」という訴求は、視認性が高く、商品やサービスの認知を高める有効な“バッジ”ではありますが、これを真に効果的に活用するには「客観的な調査に基づいたデータ」で実証する必要があります。しかし、これを故意に(完全なる意図で)見せかけた訴求が目に余る状況が続き、業界団体が大きな声を上げたというものです。
たとえば、ある商品の顧客満足度について

– 競合商品を調査対象の選択肢から除外
– 特定商品の利用者のみに調査
– 〇〇が人気ですがご存知ですか?などといった誘導

などを行うことで、集めたデータからいわば「都合の良い」データを作り出すということがよく行われており、それに惑わされた消費者に大きな不利益をもたらすものとして、この数年大きな問題となっています。その理由の一つにはインターネット調査によるアンケートデータ取得の容易さ(低価格化)も影響していると思います。また、これは「No.1マーケティングを行いたい企業」と「No.1を恣意的に作り出すマーケティング・リサーチ事業者」という2つの立場の利益が一致していることが背景としてあり、特に後者は「データを悪用するスキル」に長けている要注意な存在であると私は捉えています。

JMRAから発信された上記の抗議文は、マーケティングに携わる立場の方々の間で高く話題となり、NHKの「クローズアップ現代」でその手法などがかなり深く取り上げられました。

あの商品、本当にNo.1? 氾濫する“No.1広告”のカラクリ

私も視聴しましたが”恣意的なNo.1”の手法だけではなく、法規制や行政処分の例などの紹介もあり、たいへん丁寧な取材に基づいた素晴らしい番組でした。また、こういった企業からの「No.1」訴求としてよく用いられるプレスリリースサービスの企業からも調査リリース基準改定と最上級表現の基準を開設したという発表が先日ありました。

プレスリリース会社のPR TIMESは、2022年6月16日に調査リリース基準改定と最上級表現の基準を開設すると発表しました。「調査期間」の記載の他に、「調査機関」「調査対象」「有効回答数(サンプル数)」「調査方法」についても記載を必須とするという対応で、これは非常に大きな変化であると感じています。

2022/6/16施行 調査リリース基準改定と最上級表現の基準開設

PR TIMESの姿勢は倫理を持ち、客観性・中立性を保つ社会を作らねば、という意気込みと企業のポリシーを感じさせる発表であったと思います。私もデータを扱う者の端くれとして、常に気を引き締めておきたいと思います。

コラム担当スタッフ

菅 由紀子

株式会社Rejoui
代表取締役

株式会社サイバーエージェント、株式会社ALBERTを経て、2016年に株式会社Rejouiを設立。DX推進支援、データ分析・利活用コンサルティング、データサイエンス教育事業などを展開。
統計ソフトRやPythonを活用した分析入門講座をはじめ、学生、企業、官公庁へ向けた統計・データサイエンス学習講座を提供。日本行動計量学会、WiDS TOKYO @ YCU、日本RNAi研究会等、数々の学会およびシンポジウムに登壇。自身がアンバサダーを務める人材育成の活動(WiDS HIROSHIMA)が評価を受け、2021年度日本統計学会統計教育賞受賞。

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