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「アンケートの設計」という、論理思考とデータに関する深い理解を問われるスキルがあります。学生であれビジネスパーソンであれ「アンケートを取得してみよう」という場面は非常に多くあると思います。しかし、これまで学校ではデータサイエンス、統計を学ばなかったのと同様でアンケートの作り方をしっかりと学ぶ機会は学生生活ではありません。社会人になってからも、マーケティング・リサーチにしっかりと携わる職務でない限りは、専門的に学ぶ機会は皆無でしょう。しかし、社会生活のあらゆる場面でアンケートを取る立場になることは意外にも多く存在しますが、少しあたりを見渡してみると、下記のようなアンケートは山のようにあふれています。

– 回答者を誘導しているもの
– 選択肢がMECEでないもの
– 回答者にとって「選択肢がない」設問
– 定量化を目的としているアンケートなのに定性的な聞き方をしている
– 自由記述が極端に多いもの(自由記述はマーケッターの怠慢とも言われます)
– バイアスのかかる方法で取得されたもの
– 必要と思われる属性情報などの「観点」が欠落しているもの

他にもまだまだ例はありますが、目的が不明確であることや仮説がしっかりと立てられていないことが共通の原因として挙げられます。そして何より取得された後のデータ処理工程が意識されていないものに、こういったものは多発しているように感じます。

最もアンケートが多く活用されているのはマーケティングの領域ではないかと思います。ビッグデータの活用が当たり前の時代になっても、実態把握のためには行動履歴データだけでは不十分で、行動に表れない心理的な情報をアンケートを取得して読み解いていくことが多く行われています。それらを専門的に手掛けるのがマーケティング・リサーチャーですが、マーケティング・リサーチャーの世界ではかつて「集計3年、分析5年、設計8年」とさえ言われていました。日々、答えづらいアンケート、必要な項目が欠けているアンケートを目にしていると、良い道具が出てきましたので集計や分析は少しキャリアとして短縮されたかもしれませんが、なおそれでも「設計8年」は変わらないのではないかと思います。それほどまでにアンケートの設計は難易度の高いものだと私は思います。

かつてマーケティング・リサーチの世界では、データを収集するためのアンケート画面の作成とデータの収集、単純集計・クロス集計をするところからスキルの習得を始め、次第に複雑な集計を担えるようになったら仮説検証、レポーティング、機械学習・多変量解析へとスキルアップするキャリアパスを描く方は確かに多かったように思います。

アンケート画面を作成する職務にあると、多くのアンケート原稿を見ることになります。選択肢が適切に設定されているか、矛盾する分岐はないかなど多くのチェックポイントも各所にあり、自身が設計を行う際にどのような点に気を配らなければならないかがイメージできるようになります。また、集計を多く行うことによって、データの異常な点や分布の偏り、結果に対する思考力が鍛えられます。そしてアンケートの設計は、それらを踏まえたうえで、調査目的に対して明確に答えの出せる設問と選択肢を挙げるスキルが求められます。多変量解析や機械学習のモデルを踏まえたうえでとなると分布の想定もしておく必要があります。
また、何よりもそういった技術的なところだけではなく世の中の変化やビジネスドメインなどについても幅広く、深い知識が必要とされます。

マーケティング・リサーチには論理思考のスキルが問われます。アンケートを作成するスキル、これはデータを取得するための素晴らしいスキルです。選択肢がMECEか?アンケートを実行すると取得データはどのようになるか? 適切なデータを取得するためには、実は「印刷してチェックしてみる」「回答画面をデバイスを変更してチェックする」が非常に有効です。ぜひ職務でアンケートを実施される方はお試しいただければと思います。

コラム担当スタッフ

菅 由紀子

株式会社Rejoui
代表取締役

株式会社サイバーエージェント、株式会社ALBERTを経て、2016年に株式会社Rejouiを設立。DX推進支援、データ分析・利活用コンサルティング、データサイエンス教育事業などを展開。
統計ソフトRやPythonを活用した分析入門講座をはじめ、学生、企業、官公庁へ向けた統計・データサイエンス学習講座を提供。日本行動計量学会、WiDS TOKYO @ YCU、日本RNAi研究会等、数々の学会およびシンポジウムに登壇。自身がアンバサダーを務める人材育成の活動(WiDS HIROSHIMA)が評価を受け、2021年度日本統計学会統計教育賞受賞。

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