コラムバックナンバー

令和4年度より高等学校の学習指導要領に「情報II」が新設され、データサイエンス・機械学習などの統計教育が新たな必修として加わります。このことを受け、2020年10月から私の会社では総務省統計研究研修所からの委託を受け高校の先生方に指導に使っていただける教材の作成を進めています。ほぼ時は同じく、高等学校でデータサイエンス領域の教育指導を行っておられる方たちとの交流が増え、未来を担う高校生たちとのやりとりも多くなりました。そのようなこの半年間に特によく受けた質問、そしてそこから感じていることに今回のコラムでは触れてみたいと思います。

数学はデータサイエンスに(必須で)必要ですか?

9月に統計・データ活用を学んでいる高校生向けにAIとデータサイエンスについて講演した際に、高校生から受けた質問です。数学を学んで将来役に立ちますか?という質問でした。また、先日も機械学習の実行方法(プログラミング)をレクチャーしていたときに、受講生の方からも同様に尋ねられました。数学そのもの「だけ」を見ると、何を行っているのかわからなくなってしまうかもしれません。計算を問われたり、関数を用いた問題の解法だけを学んでいると「何に使うのか」がわからなくなり、記号や数式ばかりの学びに嫌悪感があるのではないかと感じました。
数学はデータサイエンスに必要ですし、大人になってこそ、その素晴らしさが分かるものだと私は思っています。データ解析に用いることのできる便利な道具は日に日に増えてきていますが、その根幹で行われていることが何であるのかを理解するには数学の力は必須で必要です。中でも、機能的な科学が多いなかにあって数学だけは演繹的な学問であることは忘れてはなりません。とはいえ、レベル感としては「インプット」から「アウトプット」が導かれるプロセスを押さえ、その中で行われている処理工程が少量のデータであればイメージできる(数式が苦手だという方には特に)と良いと私は思います。大量データとなると人間による手計算では現実的な処理ではありませんが、次に述べるプログラミングを行うことで、それがイメージできるようになると考えています。

プログラミングは(必須で)必要ですか?

数学に関する質問とほぼ同じ頻度で訊かれる質問がプログラミングスキルについてです。また、Rが良いのかPythonが良いのかということも、この5年ほど尋ねられる機会が増えました。コンピュータ・プログラミングも、もはや長い歴史があると思いますが、CUIが好きではないという方は未だに多いのかなと感じています。コンピュータに信号を送り実行命令を出しているに過ぎない数文字の記号で構成される「プログラミング」。例えば数式を実行するには、その数式を目に見える形で記述するのみです。数行の手計算なら自分で実行できるかもしれません。しかし、反復を多く行わねばならないとなったときにプログラミングの力は必須で求められます。そろばんから電卓になったように、電卓がコンピュータになったように、その進化は続きます。記述はより平易になってきており、ノーコードの技術も進化してきていますので、ノーコードですべて行える時代も近いとは思いますが、これも「処理工程を理解する」ために必須のものであると考えています。

課題発見・設定の力が見逃されがち?

データサイエンティスト協会で定めているデータサイエンティストにとってのスキルセットでは、データサイエンティストに必要なのはビジネス力×データサイエンス力×エンジニアリング力のバランスであると位置づけています。

上記2つの質問が多いのに対して、実は出てこないのが、ビジネス力についての質問です。これは、データやエビデンスに基づくことの重要性を理解し、意思決定できる力や、課題や仮説をきちんと言語化することの重要性について定められたスキルです。数学や数理統計、機械学習・データ処理などの<データサイエンス力>、データ処理やシステム、分析基盤の構築などを行う<データエンジニアリング力>、これらについては書籍等の教材である程度理解できるものもありますが、文章で見ると曖昧であり、学ぶと言っても実践の場でなければ体感できないことの繰り返しであるため、質問が出にくいのではないかなと感じています。

データ解析、データサイエンスはこのバランスです。チームで臨むケースも多くあります。こういったことを体感しつつ学べる仕組みをアダプティブに行うには、どのようにするのが良いのか思案の毎日です。

コラム担当スタッフ

菅 由紀子

株式会社Rejoui
代表取締役

株式会社サイバーエージェント、株式会社ALBERTを経て、2016年に株式会社Rejouiを設立。DX推進支援、データ分析・利活用コンサルティング、データサイエンス教育事業などを展開。
統計ソフトRやPythonを活用した分析入門講座をはじめ、学生、企業、官公庁へ向けた統計・データサイエンス学習講座を提供。日本行動計量学会、WiDS TOKYO @ YCU、日本RNAi研究会等、数々の学会およびシンポジウムに登壇。自身がアンバサダーを務める人材育成の活動(WiDS HIROSHIMA)が評価を受け、2021年度日本統計学会統計教育賞受賞。

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