コラムバックナンバー

お問い合わせの要件は概要だけで「とりあえず詳細は会ってから」でも、私は比較的喜んでお伺いする方です。課題はメール本文ではなく現場にあることが多いですし、会って聞かないとわからないことも多いです。

課題に対して提案する側は好きなことを言えます(もちろん根拠を元に)。しかしその背景や文脈を見聞きして推測すればするほど、その背景の重さに果たしてこの提案は妥当なのかを噛み締めることになります。そしてそのような文脈を知る機会は、何度か会わないとわからないものです。

さて、本を読むスピードが遅くてなかなか多くの本を読めないのですが、今年の印象深かった本の一つは『ファクトフルネス』でした(まだ読み終えていません)。思い込みやバイアスがいかに自分の常識をゆがめているかに気付かされる本です。

2013年にアフリカ連合が主催した会議「アフリカの再生と2063年の目標」にて『ファクトフルネス』の著者が講演した際の、アフリカ連合委員長との会話の場面がありました。少し長いですが、書籍から引用します。

アフリカ連合委員会のノーサザーナ・ドラミニ・ズマ委員長が、わたしの目の前にでんと座ってじっくりと講演を聞いていた。講演の後でズマ委員長がわたしのところに来て礼を言ったので、感想を聞いてみた。その返事に、わたしはショックを受けた。
「そうね、図とか表はよくできてましたし、話もお上手だったけど、ビジョンがないわね」。穏やかな口調でそう言うので、なおさら辛辣に聞こえた。
「ええ?! ビジョンがない?」ショックでムッとしてしまった。「でも、20年もせずにアフリカから極度の貧困がなくなるって言ったじゃありませんか」
ズマ委員長は低い声で感情もジェスチャーも交えずにあっさりと答えた。「ああ、そうね。極度の貧困がなくなるって話ね。そこが始まりなのに、先生の話はそこで終わってましたね。極度の貧困がなくなればアフリカ人は満足だって思ってらっしゃる? 普通に貧しいくらいがちょうどいいとでも?」彼女はわたしの腕にしっかりと手を置いて、わたしを見つめた。怒りはなく、かといって笑みもない表情で。わたしに足りないものをわからせようという強い意志が、その顔に表れていた。「講演の結びで、先生はご自身のお孫さんがアフリカに観光に来て、これから建設予定の新幹線に乗る日を夢見てるっておっしゃいましたよね。そんなのがビジョンだなんて言えます? 古くさいヨーロッパ人の考えそうなことですよ」。彼女はわたしの目をまっすぐに見た。
「じゃあ、わたしの夢を言ってさし上げましょうか? それは、わたしの孫がヨーロッパに観光に行って、そちらの新幹線に乗ることですよ。スウェーデンの北に氷のホテルがあるって言うじゃありませんか。うちの孫がそこに泊まるようになるんですよ。だいぶ先のことですけど、きっとそうなります。もちろん、賢い判断も大きな投資も必要ですよ。でも50年もすればアフリカの人たちは観光客としてヨーロッパに歓迎される存在になります。難民として嫌がられるんじゃなくてね。それがビジョンというものよ」。

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分析し可視化することも大事です。そこから得られる根拠からの示唆の提示も必要ですし重要です。一方で、提示した示唆はこちら側からの視点であるという自覚も必要です。相手の文脈ではまた違ったニュアンスで受け止められます。仮に根拠が同じでも、まったく別の方向を向いて走ってしまうこともあります。

研究者として現地での滞在も多い『ファクトフルネス』の著者でも、現地の人から優しくたしなめられてしまうのです。自分は相手の立場ではないのですから、相手の視点を100%理解はできません。相手の文脈からはどう見えるのかを精一杯考え、相手の意見を尊重し、自分の意見との差を理解しなければいけません。

ツールは優秀になり、分析や可視化にかかる工数は飛躍的に軽くなりました。生まれた時間を使って別の分析や可視化をするのも一つの方法ですが、文脈をより理解する方にも時間をかけて良いはずです。

部屋を出よう。耳を傾けに行こう。

12月4日の大内さんのコラムと同じ話かも知れません。
データ分析者こそ人と食事しよう

コラム担当スタッフ

いちしま 泰樹

株式会社真摯
代表取締役
真摯のブログ
makitani.com

外食チェーンストア、百貨店、Web制作会社(株式会社TAM、デジパ株式会社)、インターネット広告代理店(株式会社アイレップ)を経て独立。2010年にCinciを設立し、のち株式会社真摯として法人化。

マーケティング視点と分析データの根拠を元に、クライアントのデジタル領域のビジネス改善を支援している。a2iセミナー編成委員会。

著書に『Google アナリティクス 実践Webサイト分析入門』(インプレス)。

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