コラムバックナンバー
株式会社Rejoui 菅 由紀子
発信元:メールマガジン2019年9月4日号より
リクルートキャリアが契約企業に対し内定辞退率の予測値を販売していたことが大きな問題となり、日々様々な報道がされています。
法的な問題に関しては下記が非常に詳しく解説されています。
リクナビ「内定辞退率」データ提供の法的論点まとめと、プロファイリングの法的問題について
HR Tech、People Analytics と呼ばれる領域のアナリティクス案件を多く行っている立場として、そしてデータサイエンティスト協会スキル定義委員としてスキル定義の見直しを行っている立場として、そして自分自身がデータをいち消費者として提供する立場でもあることから、今回の問題に関しては大きな関心を寄せています。今回は、いよいよ本格的なAI時代である現在、データを取り扱い、それを活用してビジネス課題に解決策を提示するプロフェッショナルたちが備えておかなければならないポイント、倫理、スキルについて考えてみたいと思います。
■法整備の世界的な現状を把握しておく
日本では「改正個人情報保護法」が2017年5月30日より全面施行となりました。EUでは、個人情報保護・人権保護を目的とした「EU 一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)」が、2016年5月24日に発効、2018年5月25日から適用が開始されています。特にGDPRではCookieなどこれまで個人情報とみなされていなかったデータも個人情報とみなされるようになったことから、特に広告業界においての影響は多大です。米国ではCONSENT法という法案があり、いずれも一定の情報を利用する企業に人々の同意を得ることを義務付けています。世界中のWebサイトにアクセスし、様々なことが行える昨今、自身のビジネスや分析対象のデータが世界中のどこからどのように集められたのか、取得された地域の個人情報保護の法令はどのようなものなのか、どのような点に気をつけるべきなのか概要を把握していくことは極めて重要です。特にGDPRはインターネットが不可欠な現在の世界においては過剰なほどにセンシティブに考えて差し支えないと私は考えます。
■ムービング・ターゲットであるため法令や倫理が置き去りにされがちであることを常に意識する
IoTデバイスの進化、5Gの開始で今後収集できるデータはますます膨大なものになることは明らかです。そして、データ取得の技術、匿名化の技術も併せて進化していきます。自身が取得できるデータが多様化してきた際には、このことを踏まえた上で、データを取り扱う倫理を持っておかなければなりません。新たな技術やデータを活用したサービスが出てきた際にこそ注意が必要です。どのようなデータソースを用いて作られたAIなのか、サービスなのか、はそのメリットを享受する利用者としても意識しておきたいポイントです。
■データを扱う倫理に関するスキルを把握しておく
データサイエンティスト協会で定めているスキル定義では、スキルレベルに応じてデータを取り扱う際の倫理について下記の3つのスキルを定めています。
(スキルレベル:★…見習いレベル、★★…独り立ちレベル、★★★…棟梁レベル)
・データを取り扱う人間として相応しい倫理を身に着けている(データのねつ造、改ざん、盗用を行わないなど)(★)
・チーム全員がデータを取り扱う人間として相応しい倫理を持てるよう、適切にチームを管理できる(★★)
・データの取り扱いに関する、会社や組織全体の倫理を維持、向上させるために、必要な制度や仕組みを策定し、その運営を主導することができる(★★)
また、法令に関するスキルとしては下記の4つを挙げています。
・個人情報に関する法令の概要を理解し、守るべきポイントを説明できる(★)
・担当するビジネスや業界に関係する法令を理解しており、データの保持期間や運用ルールに活かすことができる(★)
・個人情報の扱いに関する法令、その他のプライバシーの問題、依頼元との契約約款に基づき、匿名化すべきデータを選別できる(名寄せにより個人を特定できるもの、依頼元がデータ処理の結果をどのように保持し利用するのかなども考慮して)(★★)
・匿名加工情報について理解しており、適切な方法で匿名加工情報を扱うことができる(★★)
今回のリクルートキャリアの件は、まさにこれらが考慮されないが故に起きたことです。データは目的に即して適切に加工されていれば大きな価値を私たちにもたらします。一方で守られなければならない個人のプライバシーが常に存在することは忘れてはなりません。
ちょうど今年はデータサイエンティスト協会ではスキル定義の見直しを行っております。データを取り扱う倫理や匿名化の技術、知財などの法令への理解などを改めて強く意識したものでありたいと思います。
株式会社サイバーエージェント、株式会社ALBERTを経て、2016年に株式会社Rejouiを設立。DX推進支援、データ分析・利活用コンサルティング、データサイエンス教育事業などを展開。
統計ソフトRやPythonを活用した分析入門講座をはじめ、学生、企業、官公庁へ向けた統計・データサイエンス学習講座を提供。日本行動計量学会、WiDS TOKYO @ YCU、日本RNAi研究会等、数々の学会およびシンポジウムに登壇。自身がアンバサダーを務める人材育成の活動(WiDS HIROSHIMA)が評価を受け、2021年度日本統計学会統計教育賞受賞。
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