コラムバックナンバー

EdTechXEurope 2018に参加するためロンドンに来ています。EdTechとはEducation Technologyの略で、教育とテクノロジーを融合させ新しいイノベーションを起こすビジネス領域です。詳しくは以前のコラムで触れておりますので、下記をご参照ください。
教育分野のイノベーション EdTechの注目キーワード

本イベントの内容については次回以降で触れられればと思いますが、私はとりわけ習熟度に応じた学習を提供するAdaptive Learningに注目しています。そのなかでも、欧米では広く使用されている項目反応理論について今日はご紹介したいと思います。

項目反応理論(Item Response Theory;略称IRT。項目応答理論とも呼ばれます) は、試験・テストについての計量モデルで、問題に対する正解・不正解のデータから、問題の特性や回答者の学力を推定するための理論です。

5択問題で100問、配点が1問につき10点、500点で合格出来るテストがあったとします。この場合、全く問題に対する知識がない者でも全ての選択肢を埋めれば200点は正解出来てしまいます。もしテスト問題の半分が偏ったジャンルであった場合は、その半分を完璧にすれば残りの半分はまぐれでも合格できることになります。こういった場合には、そのテストにおける正確な実力判定ができるとは言い難く、また、そのテストの平均点が低かった場合に、受験者の能力が低かったのか、それともテスト問題の難易度が適していなかったのかは評価できません。

項目応答理論ではこういった課題を排除し、受験者の実力を正確に測ろうとする理論で、以下のことが可能になるとされています。

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1. 複数のテスト間の結果の比較を容易にする
2. 測定精度をきめ細かく確認できる
3. 平均点をテスト実施前に制御できる
4. テスト得点の対応表が作成できる
5. 受験者毎に最適な問題を瞬時に選び、その場で出題できる

出典:豊田 秀樹 (著)「項目反応理論[入門編](第2版) 」

これを活用して出題を行う場合には、学習者の習熟度を過去に回答した問題の難易度と正解率から計算しておき、難易度に応じた問題を出題します。同難易度の問題何問かの正解率によって次に出題する問題を選択します。シンプルな例を挙げると、同難易度の問題の正解率が何%以上あれば、難易度を上げていく。正解率が何%以下であれば難易度を下げる、というものがあります(視力検査によく例えられます)。回答がない場合は予め難易度の設定が必要になりますが、 回答のデータが貯まれば、問題の難易度自体もデータが蓄積されるごとに更新し、難易度を学習させていくということも可能です。もちろん、回答者の習熟度も同時に再計算できます。

統計やデータ分析を教えている際に常々感じることですが、効率よく学ぶためには自分に合ったレベルで学習することが一番です。今後は、統計やデータ分析を独習する際にも、このような考えに基づき自分自身のレベルや理解度に適合した学習ができるような仕組みが増えてくることと思います。

コラム担当スタッフ

菅 由紀子

株式会社Rejoui
代表取締役

株式会社サイバーエージェント、株式会社ALBERTを経て、2016年に株式会社Rejouiを設立。DX推進支援、データ分析・利活用コンサルティング、データサイエンス教育事業などを展開。
統計ソフトRやPythonを活用した分析入門講座をはじめ、学生、企業、官公庁へ向けた統計・データサイエンス学習講座を提供。日本行動計量学会、WiDS TOKYO @ YCU、日本RNAi研究会等、数々の学会およびシンポジウムに登壇。自身がアンバサダーを務める人材育成の活動(WiDS HIROSHIMA)が評価を受け、2021年度日本統計学会統計教育賞受賞。

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