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株式会社ナンバーの渋谷です。今回は「データ分析の民主化」が進む中で、その土台となる「データ整備」の重要性について考えてみたいと思います。

結論

先に結論を2行で。
データ分析の民主化により、誰もがデータを扱えるようになる未来は明るい。 しかし、その実現には「データ整備」という地味だが重要な土台作りが不可欠である。

前提:「データ分析の民主化」とは

本稿における「データ分析の民主化」とは、AIの進化に伴い、より多くの人が自然言語で自らが必要としているデータを抽出および分析することができる状態になること、と定義します。
例えば、「先週の商品カテゴリ別売上を前年同期比で教えて」とAIに話しかければ、SQLを書けない人でもパッとデータを出せる世界です。

想像してみる:民主化で起こる良いこと

データ分析の民主化が進むとどんなことが起きるでしょうか。順を追って想像してみます。
まず、自らデータ抽出できる人が増えます。自然言語で可能になるわけですから、これまでデータエンジニアに依頼していた簡単な集計も、自分でサクッとできるようになります。
結果として、データエンジニアの負担が減ります。繰り返しの集計依頼から解放され、より高度で価値の高い業務に集中できるようになるでしょう。
また、データを元に会話する人が増え、社内にデータドリブンな文化が醸成されていきます。「なんとなく」ではなく「データによると」で議論が進むようになれば、意思決定の質も向上するはずです。
ここまでは明るい未来です。

想像してみる:一方で見えてくる課題

しかし、良いことばかりではありません。

▼レビュー業務の増加
誰もがデータを抽出できるようになると、出てきたデータが正しいかどうかをレビューする業務が増えます。「このデータ、本当に合ってる?」「集計条件、正しい?」といった確認作業です。

▼データ整備の重要性が浮き彫りに
そして、ここが最も重要なポイントですが、元データ整備の重要性が浮き彫りになります。
データの定義が曖昧、欠損値だらけ、といった状態では、AIが頑張っても意味のある分析結果は得られません。
しかし、データ整備は地味で時間のかかる作業です。経営層からは「すぐビジネスに貢献しない」と見られがちで、リソースが割かれにくい。結果、対応が急務であるにもかかわらず、手詰まりまたは遅々として進まないという状況に陥りがちです。

▼数値偏重の罠
もうひとつの課題として、データ偏重により、数値化できない大事な要素をおざなりにする傾向が強くなる懸念があります。
顧客の感情、チームの雰囲気、ブランドイメージといった定性的な要素は数値化が難しいですが、ビジネスにおいて極めて重要です。これらを軽視して数字だけで判断すると、結果的に評価や判断を誤ることになります。
データは強力なツールですが、万能ではありません。

AIエージェントの活用と今後の期待

今後、AIエージェントの活用も進んでいくでしょう。
ただし、使い手による活用格差が出ることは避けられません。AIエージェントを使いこなせる人とそうでない人の差は、想像以上に大きくなるかもしれません。
そして繰り返しになりますが、データ整備の質が問われます。優れたAIエージェントも、整備されていないデータからは価値を引き出せません。
希望的観測ですが、データ整備作業においてもAIエージェントが活躍してくれることを期待しています。表記ゆれの自動修正、データクレンジング、定義の統一など、AIが得意とする領域は多いはずです。

まとめ

データ分析の民主化は、間違いなく私たちのビジネスを前に進めてくれます。
しかし、その恩恵を最大限に受けるためには、地味だが重要な「データ整備」という土台作りが不可欠です。
データ整備は後回しにされがちですが、今こそ向き合うべき課題です。
そして、データを扱う私たちは、数字だけに囚われず、数値化できない大事な要素も大切にしながら、バランスの取れた判断をしていきたいものです。
データは手段であって目的ではない、ということで。

コラム担当スタッフ

渋谷 泰一郎

株式会社ナンバー
代表取締役

ウェブと紙媒体の制作会社を経て、ポータルサイトのニュースサービスを担当。その後、広告代理店にてウェブアナリストとしてクライアントのウェブサイト、広告、SNS、スマートフォンアプリの分析および解析を担当する。
2014年から個人事業として独立。株式会社ナンバーを設立。
大規模サイトから中小のウェブサイトまで、多数サイトのKPI設計からアクセス解析、改善案の提案までを手がける。

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