コラムバックナンバー
株式会社真摯 いちしま 泰樹
発信元:メールマガジン2020年11月4日号より
11月1日、大阪市を廃止して4つの特別区に再編する「大阪都構想」の賛否を問う住民投票が行われました。私も、以前住んでいた大阪市鶴見区に本籍を残したままでもあり、少しだけ気にして見守っていました。結果はご存じのとおり、5年前の住民投票と同じく、僅差で「反対」が「賛成」を上回って否決されています。
24区別では、大阪湾側と南側の区を中心に「反対」多数となりました。これは前回の住民投票の結果とほぼ同じです。
「大阪都」1万7167票差で否決 データで見る住民投票
NHKの出口調査によれば、年齢別の60代と70歳以上で「反対」が多かったようです。
NHK選挙WEB
個人的には、大阪都構想のメリットを反対派は文面通りに受け入れるのが難しかったように見えました。実感しにくく、また少し遠い将来に起こる話で、多少の不満はあれど概ね悪くない現状を変える必要はないという方が支持されたのでしょう。いわゆる「現状維持バイアス」が作用したともいえます(政治的な要素もあり、すべてそういうわけではありません)。
どうなるかわからない提示に対して、現状得られている利益よりも変化による見込み損失の方が大きいと判断する心理作用が「現状維持バイアス」です。似たような議論でもある「道州制」の、将来あるかもしれない住民投票(国民投票?)の予行演習を見ているようでもありました。
大阪都構想も道州制も、より大きな区分の地方自治体として権限や予算配分をコントロールし、よりダイナミックな戦略を描くという側面は似ています。もしそのようなプロジェクトが実際に動き始めるとき、効果や影響が出始めるのは少し先の未来になるでしょう。始まってすぐはネガティブな影響の方が出やすいかもしれません。となるとそれを支持するか否かは、自分の生活よりも、本来は子どもたちや未来の住民の将来を見据えて判断すべき内容になってきます。
かつて国の体制や政治、あるいは世界情勢で大きな変化があった際に、交通網やインフラをはじめ非常に大きなプロジェクトが動きました。それは現状が不安定で理想にはまだまだ及ばないという認識の上で、「国を、街を、安定した将来を作るぞ」という「未来づくり」のような意味合いがあったというのが理由の一つだと推測します。
過去に築かれた情勢やインフラの上で安定した日常を過ごしているいま、そこそこの満足を感じながら大きなうねりのあるプロジェクトを動かす際、現状維持バイアスがかかって「変化」を「損失」と受け止めてしまうのはやや仕方がないかもしれません。
例えば「50年後を見据えて判断しろ」と言われても、私も含めて多くの人はなかなかイメージがわきません。しかし今回のような議題は、誰かがしかるべきタイミングでその方向性をまとめなければいけません(進めるのか止めるのかを含めて)。
何を動機に未来を築くか。未来に対する議論としては、ローカルニュースにするには大きい内容だと思いながら見ていました。あなたはどうですか?
外食チェーンストア、百貨店、Web制作会社(株式会社TAM、デジパ株式会社)、インターネット広告代理店(株式会社アイレップ)を経て独立。2010年にCinciを設立し、のち株式会社真摯として法人化。
マーケティング視点と分析データの根拠を元に、クライアントのデジタル領域のビジネス改善を支援している。a2iセミナー編成委員会。
著書に『Google アナリティクス 実践Webサイト分析入門』(インプレス)。
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