コラムバックナンバー
株式会社真摯 いちしま 泰樹
発信元:メールマガジン2018年7月11日号より
週末、テレビの西日本豪雨のニュースで、日本地図の上に3D表現の棒グラフが載った24時間の降水量を示す表現が目に留まりました。
普段でも降水量を示す表現として使われていますが、緊急を要する災害時ということもあって、引っかかるところがありました。
・一瞥で情報が伝わるか
・正確性はどうか
・アクションを誘発するか
そのときの私の心に余裕がなかったのでしょう、ちょっとカッとなって「この表現って適切ではないのでは?」と思ったのですが、その後しばらくして我に返ります。
「じゃあおまえはこれより適切な表現で人を動かせられるのか」と。
テレビのニュースで使用された表現からは、全体的に雨はすごいことはわかるけれども、正確性は損なわれているように感じました。では、自分ならどんな表現を提示するだろう。少し考えてみました。
これは、テレビのニュースで使用されていた表現を、エクセルの「3Dマップ」機能を使って再現したグラフです(データはイメージです)。ここでは青一色の3D棒グラフですが、実際には降水量の多さがわかるように、青色から黄色、赤色と、色で強弱を表現していました。また、都道府県単位ではなく、メッシュはもう少し細かな単位でした。
テレビで見た印象と同じく、西日本を中心に雨はすごいというのは伝わりますが、降水量の詳細や都道府県ごとの状況がわかりません。3D表現が「すごさ」のイメージを伝えるものの、正確さを伝える邪魔をしています。例えば、皆さんはここから「岡山県」「広島県」の降水量はわかりますでしょうか?
3D棒グラフをやめて、都道府県単位の降水量で色に変化を付けてヒートマップで表現したものが、上のグラフです。エクセルの「3Dマップ」機能では色に変化を付けられないこともあり、雨のすごさがいまひとつ伝わりません。しかし、都道府県ごとの状況は見えるようになりました。
Tableauで、同様のヒートマップ表現で色に変化を付けたのが上のグラフです。色に変化が付くことで、都道府県ごとの降水量の違いはわかるようになりました。西日本から岐阜にかけて、東日本と比べて降水量が非常に多いことが伝わります。
では、このグラフ表現を見て、あなたはアクションを誘発されるでしょうか。今回の場合であれば、避難行動をとるでしょうか。
むずかしいです。この表現からアクションに移す人は少ないだろうと感じます。色分けされていても、仮に各都道府県に降水量の数値が添えられていても、アナウンサーの表現を伴わない限り、この表現だけからは行動に移す人は少ないでしょう。
さて、ここでシンプルな棒グラフです。降水量ごとに色分けもしています(Tableauです)。これまでのマップに表現されたグラフよりは、もう少し「通常ではない降水量」「異常事態」は伝わるでしょうか。首都圏の20倍から40倍近くの雨が西日本を中心に襲っている、というのは直感としても理解しやすく、マップ表現のグラフよりはアクションを誘発しやすそうです。
難点は、自分の住む都道府県を探してもらわなければいけないという点です。マップ表現では、多くの人はすぐに自分の住むところを判別できますが、47本の棒グラフの一覧であれば探してもらわなければいけません。テレビ画面で展開するのであれば、一枚絵の表現ではむずかしいでしょう。
棒グラフは比較的万能です。シンプルにボリュームを伝えるには、非常に適しています。しかし、47の都道府県一覧となると、一瞥で理解してもらうには、何か別の視点が必要です。
一方、都道府県などのマップのグラフは、一瞥での場所の理解には適しています。しかし、エリアごとの面積がデータの受け止め方に影響を与えます。北海道など面積の広い都道府県は情報が伝わりやすく(場合によっては強調され)、一方で東京都や香川県といった面積の狭い都道府県は過小評価されやすくなります。島で構成される沖縄県は、情報伝達そのものが危ういです。
3D表現は、むずかしいですね。「3要素を表現する」ことと「3D表現を使う(立体的表現を使う)」ことは別だと思います。バブルチャートのように3要素を表現するのに適した表現はありますが、2次元で表現できるものを3次元(3D)で表現する場合は、はたしてそれは何を伝えようとしているのかを考えなければいけません。
伝えることと伝わることは違います。アクションの誘発までを改めて考えれば、果たして私はダッシュボードやビジュアライズでどれだけ人を動かせていたのだろうか、人の命が関わる場面で私はどれだけ貢献できるのだろうか、と心苦しく感じます。
西日本豪雨により被災された方々、ご家族の方々、お見舞い申し上げます。できることが限られている東京から、普段の生活を送りながらもつらいニュースを見聞きしては何か引き裂かれる気持ちになり、心を痛めます。早く普段の生活に戻れますよう。
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※データは、気象庁の降水量のデータを使用しました。「2018年7月8日まで」の「前10日間合計」の降水量データを使用しています。都道府県内の地点ごとに降水量データがあり、一方で地点に住所データがなかったため、適切ではありませんが都道府県ごとに各地点の平均で降水量を算出しました。データとしては参考程度に捉えていただければと思います。
外食チェーンストア、百貨店、Web制作会社(株式会社TAM、デジパ株式会社)、インターネット広告代理店(株式会社アイレップ)を経て独立。2010年にCinciを設立し、のち株式会社真摯として法人化。
マーケティング視点と分析データの根拠を元に、クライアントのデジタル領域のビジネス改善を支援している。a2iセミナー編成委員会。
著書に『Google アナリティクス 実践Webサイト分析入門』(インプレス)。
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