コラムバックナンバー
Option合同会社 柳井 隆道
発信元:メールマガジン2022年6月8日号より
ウェブ計測の設定の際、とりあえずクロスドメイントラッキングをやりたいという要望をよく耳にします。自社が複数のサイトを別ドメインで運用している場合に、サイトをまたいで同一ユーザであることを特定したいという意図です。ところがクロスドメイントラッキングはこのようなニーズを部分的にしか満たすことができません。場合によっては弊害を生むこともあるのです。
まずクロスドメイントラッキングの仕組みを簡単にまとめると、別ドメインへの遷移の際、リンクに遷移元ドメインにおけるユーザ(ブラウザ)の識別子を付加します。それによって遷移先ドメインではアクセスしたときに遷移元ドメインの識別子が付いた状態になっており、設置された計測タグがその識別子を読み込むことで識別子が引き継がれるのです。たとえばGoogleアナリティクスではこんな仕組みになっています。
クロスドメイントラッキングというものが正しく認識されていないために、複数ドメイン運用の際に必ずサイトをまたいだ同一ユーザの特定ができると勘違いされているのです。
1. 遷移がなければ、リンクやフォームがなければ適用されない
ドメイン www.example1.com から www.example2.com に遷移する際に識別子が引き継がれるのです。ドメイン間遷移がなく、 www.example1.com と www.example2.com のそれぞれに検索エンジンなどからの流入がある場合にはそれぞれ別ユーザとして認識されます。
2. クロスドメイン遷移先のサイトでデータが分断される
あるユーザがもともと自然検索から www.example1.com と www.example2.com にそれぞれ別の機会に流入し、その後 www.example1.com から www.example2.com に遷移したケースを考えます。
まず www.example2.com では最初に自然検索から流入したときに新規訪問扱いで新たな識別子が割り振られます。その後 www.example1.com から www.example2.com に遷移した際に改めて識別子が割り振られ、www.example2.com においては再び新規ユーザ扱いになります。そして古い識別子はいつの間にか消えてなくなっています。
一人のユーザが
初回訪問=自然検索からの流入
2回目訪問=www.example1.com からの流入
というジャーニーであるはずなのに、
二人のユーザが
初回訪問=自然検索からの流入
初回訪問=www.example1.com からの流入
として扱われるわけです。これは分析の目的によっては問題になりますよね。www.example1.com と www.example2.com のユーザ同一性を追いかけるあまり、www.example2.com 内でのユーザ同一性が失われる。ある意味本末転倒ともいえるでしょう。あまり気づかれていないのですが…
これがさらに
www.example1.com → www.example2.com
www.example2.com → www.example1.com
両方の遷移があるケースではややこしくなります。各ケースでどのような識別子の割り振られ方をするのか、理解するのも一苦労です。当然理解していない識別子を使ってカスタマージャーニーを見るなど、ありえないことですよね。
3. サブドメインはクロスドメイン設定不要
ほとんどの計測ツールでは、cookieのドメインはサブドメインまでカバーされるようになっています。
4. ITPの影響を受けてcookie自体が消されるリスクがある
www.example1.com の性質にも依存する(トラッカーとしての性質を持つ場合)のですが、リンクに識別子を入れたパラメータを含む場合、ITPの機能によってcookieの有効期限が1日になる場合があります。識別子だけでなく、他のすべてのcookieも消されるということで、大きなマイナスの影響があります。
有効なのは www.example2.com に独自の流入経路がない場合、つまり www.example1.com からしか流入がない場合です。たとえばキャンペーンページとフォームが別ドメインの場合や、Eコマースの商品ページと決済遷移が別ドメインの場合です。広告のコンバージョン計測で使うのはこのようなケースが多いですよね。
複数サイトで訪問者の同一性をトラッキングしたいならサブドメイン化が正解です。従来はサードパーティドメインcookieが使えたが、もう使えない。そもそもサイトをまたいだトラッキングというのはプライバシーの問題で敬遠されるものだという前提は踏まえておかなければなりません。
これらを踏まえて、クロスドメイントラッキングの有効な局面は限定的だということを理解しておきましょう。
東京大学を卒業後、webマーケティングやサービス企画、システム開発などに従事。
デジタルマーケティングの世界に落ち着き、事業会社、広告代理店を経て2014年に独立。
現在は大小さまざまの事業会社、広告代理店などに対して、テクノロジー観点からデジタルマーケティングの支援を行っている。データ計測の設計、実装から分析、マーケティングオートメーションや広告運用などの施策との連携まで扱う。
さまざまな規模の経験から、企業の身の丈にあったデジタルマーケティングの企画に強い。フリーランスで活動していたが、2017年から法人化。
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