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アナリティクスアソシエーションで扱っているセミナーやコラムを見ると、ウェブ解析の話題が多いです。特に今ではGoogleのユニバーサルアナリティクス停止発表により、GA4への興味をみなさんが持たれているという背景は理解できます。 今回のコラムもGA4のちょっとした話題を書こうかと思ったのですが、そもそもa2iは「ビジネス改革につながるデータ分析の取り組みを応援するコミュニティ」ということで、ウェブは扱うものの一部のはずです(その趣旨で今の名前になったわけですが)。先週GA4の話題だったので、さすがに今回はバランスを持たせないといけないかなと思い、一歩引いた観点で。

GA4の導入、というより新しい計測ツールの導入というのは計測の棚卸しの機会であり、一歩引いてデータとの向き合い方を見直す機会でもあるのです。Googleアナリティクスというツールありきで物事を考えるのではない、多分それでGA4と付き合うのは無理。人間の行動という計測対象が最初にあって、そこから計測ルールや変数定義を考えるべき設計思想なのです。

変数の定義とは?たとえば流入/セッションの定義について、候補は複数あります。もともとセッションというのはサーバのシステムの挙動を管理する上で必要なものだったわけですが、今ではウェブ分析の世界で使われることが多い言葉で、ユーザの一連の行動を区切る単位として分析上の目的で使われます。

分析上の目的であればイシューに対して最適な定義が違ってもいいはずです。「訪問者が持続して興味を持っている時間」という観点では一定時間に集中している行動の単位の区切りに着目するのがいいですし、「SEOで流入ページを評価する」観点では、いかなるタイミングであっても検索エンジンからの遷移であればその遷移先ページに着目するのが適しています。「Googleアナリティクスではセッションの定義が○○だから…」と議論を始めるのは終わりにしましょう。

ウェブに限らないデータ分析をする人は、人間の行動のどのようなメカニズムがデータに反映されるかを考えます。分析手法を適用しやすいように(回帰式に入れやすいように)変数化します。データ分析の言葉では合成変数を作る、機械学習の言葉では特徴量を作ることですね。さらに行動に関わる全ての事情がデータに現れているのか、計測されない隠れた変数があってそれが影響しているのかを考えます。これは重要な視点で、データから導かれた知見が偏りを持ったものなのかどうかに関わってきます。統計学の世界では何度も言われる不偏性です。これにより知見の適用範囲、意味が変わってくるのです。

たとえば美容外科のウェブサイトで、シミ対策を訴求したページを見た人の来院予約率がシミ対策の訴求ページを見なかった人に比べて高かったとします。シミ対策訴求が有効だということが全ての消費者に対して言えることなのか、自社サイトの訪問者に限定して言えることなのか。そもそもシミ対策ページに流入したきっかけは何なのか、その「きっかけ」の中に偏りがないのか?「全ての消費者」と「自社サイトの訪問者」の違いは何か?に着目することは重要です。回帰分析や統計的因果推論でいう交絡因子です。

自社サイトにおける最適化のためにどのクリエイティブを見せるかということは重要なのですが、それは部分最適です。消費者の行動全体がどうなっているのかを意識しておくことは大切です。その完全なデータを手に入れることは通常難しいですが、念頭には入れておくべきです。どうやったら目的に対して最適化できるのか、その難易度とコストはどの程度なのか、そもそも解決することを諦めるべきケースもあります。一番大切なイシュー設定の問題ですよね。

一般的な分析ではまず目的があります。何に基づいて何を説明するのか、何を予測するのか、明確にしないと進めることができません。ウェブの分析ではその意識が薄い傾向があるのですが、ユニバーサルアナリティクスの廃止と新しいツールの導入がそれを考えるきっかけになればいいと思います。

コラム担当スタッフ

柳井 隆道

Option合同会社
代表社員
マーケティングテクノロジスト
marketechlabo

東京大学を卒業後、webマーケティングやサービス企画、システム開発などに従事。
デジタルマーケティングの世界に落ち着き、事業会社、広告代理店を経て2014年に独立。
現在は大小さまざまの事業会社、広告代理店などに対して、テクノロジー観点からデジタルマーケティングの支援を行っている。データ計測の設計、実装から分析、マーケティングオートメーションや広告運用などの施策との連携まで扱う。
さまざまな規模の経験から、企業の身の丈にあったデジタルマーケティングの企画に強い。フリーランスで活動していたが、2017年から法人化。

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