コラムバックナンバー
株式会社真摯 いちしま 泰樹
発信元:メールマガジン2020年9月2日号より
イベントや展示会、ライブなど、いくつかの「体験」がオンラインに軸足を移し、特定の場所にユーザーを集めて時間を頂戴する機会が減り始めました。もちろん、飲食店や遊園地やレジャー、映画などのエンタメなど、従来型の体験は制約がありながらも提供は続いていますが、ビジネス向けの領域ではオンラインでの提供に移ったものも多いように感じます。
「体験」を、従来型のリアルなものからオンライン基盤のものに移行したとき、違いはどのようなところにあるのでしょうか。さまざまな側面で他にも違いはあると思いますが、以下の3つを挙げてみます。
・視覚や聴覚による体験がユーザー環境に左右される
・その時間を同じ熱量でともに過ごす難しさ
・価値観を伝える難しさ
◆視覚や聴覚による体験がユーザー環境に左右される
まず、人間の五感による体験がオンラインではユーザー環境に依存します。視覚や聴覚は、ユーザーのディスプレイやスピーカー、ヘッドフォンなどの性能に左右され、提供内容が同じでもユーザーの感じ方に差が出ます。PCやスマートフォンなど端末のスペック、ネット回線の速さも、体験の満足度や快適さに影響を与えます。加えて、ユーザーの周囲がどのような環境か、お子さまやご家族がそばにいて体験に集中できないといった要素もあります。
提供側がユーザーの環境を高く見積もってしまうと、期待値と実際の体験の差が大きく開いてしまいます。
◆その時間を同じ熱量でともに過ごす難しさ
従来型イベントでは、その場の参加者全員に同じ「時間」が流れていました。その時間その場所に滞在することを多くは前提とし、否応なしにその体験に集中する仕組みを取ることができました。
オンラインでは、参加者の間に流れる「時間」を統一するのは簡単ではありません(可能だとは思います)。ユーザーは、他に何かをしながら同時にそれを体験する、あるいはユーザーの都合に合わせて一時停止や任意に再開ということができる環境にいます。つまり、「ながら体験」「パラレルな時間消費」が増えます。参加の熱量もまちまちです。
参加者にとっては、より多様な体験手段があるというメリットもあります。しかし体験の充実感は薄くなりがちで、参加者全体の一体感も小さく、提供側も参加者の反応を感じにくくなります。
◆価値観を伝える難しさ
オンラインのイベントでは、全体のコンセプトやメッセージといった「雰囲気」「価値観」「世界観」の伝達が、従来の表現では同じレベルで伝えにくくなりました。「会場」がバーチャルだからです。参加者が実際にいるのは、自宅のパーソナルスペースだったり会社のデスクだったり、コーヒーショップのテーブルだったりとまちまちです。
もちろんVRなどオンライン特有の体験環境もありますが、それを選択するハードルは高いです。「視覚聴覚のユーザー環境への依存」「参加者全員に同じ時間を流す難しさ」といった要素を踏まえながら、提供者なりの「雰囲気」の伝え方を模索していかなければなりません。
◆「ユーザー体験」のオンライン化の中で、企業はどのように世界観を伝えていくのか
2020年代はオンラインを体験基盤としたイベントが増えるとした場合、その中で企業はユーザーにどのようにメッセージを伝え、価値を伝え、世界観を伝えていくのでしょうか。
・パラレルな時間消費を前提
・従来型の表現にとらわれない新しい表現
・カジュアルでより頻度の高い事前の接点とコミュニケーション
・ユーザーの主体的な参加の誘発
いくつか挙げてみました。多様なユーザー環境を前提としつつ、その中で新しい表現やユーザー参加の誘発をチャレンジしていくのが中心になると感じます。イベント前から参加ユーザーと一定のコミュニケーションが取れていると、積極的な参加をするユーザーも増やせるでしょう。
従来型表現の「再現」を試みるのも一つの方法です。しかし、5Gの普及を控えた2020年という節目を考えれば、新しい体験プラットフォームで双方向コミュニケーションやデジタルな表現にトライしていくことが、次の新しい広がりを生むのだろうと思いたいです。
外食チェーンストア、百貨店、Web制作会社(株式会社TAM、デジパ株式会社)、インターネット広告代理店(株式会社アイレップ)を経て独立。2010年にCinciを設立し、のち株式会社真摯として法人化。
マーケティング視点と分析データの根拠を元に、クライアントのデジタル領域のビジネス改善を支援している。a2iセミナー編成委員会。
著書に『Google アナリティクス 実践Webサイト分析入門』(インプレス)。
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