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先日以下の情報処理装置に対する特許が取得されました。

一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得するログデータ取得部と、
機械学習により生成された学習モデルを用いて前記ログデータを解析することにより、前記一のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である予測データを計算する予測処理部と、
前記予測処理部が生成した前記予測データを出力する出力部と、
を備える情報処理装置。

特許の全文

これは請求項の原文のままなので少し分かりやすくすると、

1. ウェブやアプリの個人の行動履歴(ログ)データを取得し
2. 機械学習を使ってユーザ行動を予測し
3. 予測結果を具体的な施策などにアウトプットする

機構が一体になったシステムに特許が取得されたということです。

先のURLにある特許の全文は長いのですが、独立項であるこの請求項が特許としてのすべて、これにあてはまれば特許侵害の対象になるということで引用させていただきました。

「CDPで機械学習やってマーケティングオートメーション」というソリューションが特許に抵触する可能性があるということです(法的な問題なのであいまいな言い方にとどめています。具体的な判断は弁理士・弁護士にご確認ください)。

特許ということで斬新性のあるシステムではあるはずなのですが、実は既存ソリューションですら抵触する可能性のあるものが多いかもしれないと私は思いました。単純な分析であれば抵触はしないですが、自動で施策につなげる(マーケティングオートメーション)となると、Tealiumのバッジ機能のようなルールベース以外では、機械学習の手法を使わないとオートメーションできるアウトプットになりにくいです(くれぐれも個別ケースにおける具体的な判断は弁理士・弁護士にご確認ください)。

これに対してデータドリブンな施策にかかわる私たちはどう関わっていくべきなのでしょうか。

まず知らずに権利を侵すのは罪なのです。

特許に抵触しそうなプロジェクト、つまりデータドリブンで顧客別施策をオートメーション化するときには、弁理士・弁護士に相談してすることです。必要に応じて特許権者にコンタクトを取る。ただここで一つ大きな問題になるのは、特許や法律の知識だけではこの特許の内容を正確に判断できないことです。弁護士や弁理士に機械学習の知識がないと機械学習の範囲を定めることができないため、具体的に何がアウトで何がセーフか判断できないのです。かなり無理ゲーなシチュエーションではありますが、ここは気を付けてください。マーケティングオートメーションやCDPなど、特許の一部または全部を含むツールを使う際にはまずツールベンダに確認してください。

そして特許に抵触するということになれば、一般には権利者に申請して特許料を支払うか、プロジェクト自体をあきらめるかのどちらかになります。運が良ければ(特許自体が防衛目的で特許権者が親切な場合には)特許料を支払わなくてもいいかもしれないですが。

知らなかったでは済まされないのです。この特許が防衛的目的の場合は、特許に抵触してもすぐにライセンス料を支払う必要はないというケースもあります。しかし現在の特許権者にその意思はなくても、特許権者が他社に買収された場合、そこが特許権を主張するようになることも十分にあります。海外では類似の事例もあります。

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また気を付けなければならないのは、当初は特許に抵触するシステムではなかったものの、小さい改修を加えていく中で特許に抵触する条件(「個人の行動を予測する」など)を満たしてしまうケース。

いずれにせよ「データドリブンなマーケティングオートメーション」を行う際に留意すべきことが一つ増えました。このコラムの読者にはこういったシステムと縁の深い方も多いと思うので、「知らずに権利侵害」ということが起こらないように今回の記事にさせていただきました。

コラム担当スタッフ

柳井 隆道

Option合同会社
代表社員
マーケティングテクノロジスト
marketechlabo

東京大学を卒業後、webマーケティングやサービス企画、システム開発などに従事。
デジタルマーケティングの世界に落ち着き、事業会社、広告代理店を経て2014年に独立。
現在は大小さまざまの事業会社、広告代理店などに対して、テクノロジー観点からデジタルマーケティングの支援を行っている。データ計測の設計、実装から分析、マーケティングオートメーションや広告運用などの施策との連携まで扱う。
さまざまな規模の経験から、企業の身の丈にあったデジタルマーケティングの企画に強い。フリーランスで活動していたが、2017年から法人化。

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