コラムバックナンバー
Option合同会社 柳井 隆道
発信元:メールマガジン2019年8月21日号より
ウェブ解析でよく出てくる概念として「離脱」があります。この離脱とは一体何のことを指すのでしょうか?
大まかにいえばウェブサイトを訪問し、何ページか閲覧して、サイトからいなくなる。その「サイトからいなくなる」行動を指すでしょう。離脱というのは一つのセッションの最後の行動ということでもあり、セッションの区切りを意味します。離脱の定義によってセッション数が変わる、結構大きな意味があるのです。
このセッションという概念も、そもそも本来の意味はウェブ解析とは関係なく「サーバとブラウザの間で一連のやり取りの中でログイン情報などのデータを保持できる期間」という技術的なものでしかないわけです。これがGoogle アナリティクスの文脈で使われるようになると、訪問という行動自体の区切りを示すようになりました。
Google アナリティクスなどビーコン型のウェブ解析ツールではサーバのセッション情報そのものを使えません。そのため便宜上、直近のページビューから30分(十分に長い時間)が経過したときにそれを離脱とみなし、その後のページビューを新たなセッションとしてカウントしているわけです。今やわれわれは「セッション=訪問」と捉えることが多いですが、そもそもの言葉の成り立ちで考えるとこの等式関係は怪しいのです。実際にAdobe Analyticsでは「セッション」という用語は使わず「訪問」になっています。
離脱を行動としてとらえたとき、それはブラウザを閉じるか、他のサイトに遷移することがイメージされるでしょう。ただ「直近のページビューから30分」という定義では、ブラウザを閉じても30分以内に再訪問した、他のサイトに遷移したけど(30分以内に)戻ってきたというケースは離脱には含まれません。また30分基準ではページを見てそのままブラウザを放置して30分経過するというケースが離脱にカウントされます。
離脱という行動のきっかけも、
– サイトに来た目的(情報収集、購買など)を達成して満足した
– 不満を残してあきらめて立ち去った
– 購買の検討半ばで迷いながらいったん他のサイトも見て検討を続ける
いろいろありますよね。これらはサイトに起因するものではありますが、
– 電車の中でページを見ていたが、下車するのでスマホを閉じた
という全くウェブとは関係ない外的要因のこともあるわけです。これらをまとめて議論してしまうのはいささか乱暴な気もします。
– 積極的な意思のある離脱行動
– 消極的な、結果的に離脱となっただけの行動
は分けてカウントしたいところではあります。
また下車してスマホを閉じた場合でも、空き時間ができたのでまたスマホを開いてページの続きを見ることもあります。これは行動観点で離脱としてカウントしていいのでしょうか。答えはありません。ただ自サイトのユーザ行動の傾向や分析の目的に合わせて自分なりに指標を作るのも選択肢の一つだということです。面白いのは先に紹介したGoogleの記事の中で
「この変更はウェブサイトのユーザー行動を、より明確にわかりやすくするために行います」
ということで、ユーザー行動を正しく理解するためであれば定義を変更するのもありです。その結果Googleは「ブラウザを閉じる」という行動を離脱の条件から外し、utmパラメータ付きの流入を新たな訪問とみなすことにしたのです。
逆にわれわれはブラウザを閉じる行動や、utmパラメータ以外の新たな参照元からの流入をセッションの区切りとしてカウントしてもいいかもしれません。独自の離脱やセッションの定義に基づいた分析は、Google アナリティクスやAdobe Analyticsの画面からでは不可能です。これらの画面の中では既存の定義の上で数字を見ていくしかありません。計測スクリプトの書き換えや、ログ処理の中でセッショナイズの処理方法を変えてみることで可能になります。そういった意味でもログ分析はおすすめです。
奇しくもGoogle アナリティクスのapp+webプロパティが導入され、ウェブの計測において従来のフレームワークと大きく異なるイベントベースのアプリ解析の考え方が導入されようとしています。今までのウェブ計測はユーザのページビューだけを追うのが主流でした。今後はスクロールやギャラリーの画像切り替え、動画再生などの行動を含めてイベントとして捕捉し、分析の対象にしていくというわけです。
重要なのはウェブの閲覧を単なるページビューの羅列ではなく人間の行動とみなし、なぜその行動をとったのか。そこには心の動きのどんなサインがあるかを考えるべきなのです。それに合わせた指標を作って分析する。「離脱数」という指標もその一つなのです。
東京大学を卒業後、webマーケティングやサービス企画、システム開発などに従事。
デジタルマーケティングの世界に落ち着き、事業会社、広告代理店を経て2014年に独立。
現在は大小さまざまの事業会社、広告代理店などに対して、テクノロジー観点からデジタルマーケティングの支援を行っている。データ計測の設計、実装から分析、マーケティングオートメーションや広告運用などの施策との連携まで扱う。
さまざまな規模の経験から、企業の身の丈にあったデジタルマーケティングの企画に強い。フリーランスで活動していたが、2017年から法人化。
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