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活動報告
開催日時 | 2018/12/06(木) |
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会場 | 東京 丸ノ内 |
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2018年12月6日に、特別セミナー「実践者に学ぶデータドリブンマーケティング ~USJ、リクルート、内野氏が語る“データ統合”への取り組み~」が開催されました。今回のセミナーはアユダンテ株式会社 寳 洋平氏が企画しました。
レポート執筆
菊原 晋作(菊原web解析事務所)
柿丸 繁 氏(合同会社ユー・エス・ジェイ)
豊島 拓巳 氏(合同会社ユー・エス・ジェイ)
第一部では、USJの柿丸氏・豊島氏より、リアルビジネスにおけるデータドリブンマーケティングの実現過程と、データ統合施策の具体的事例についてご講演いただきました。
【1】どのようにデータドリブンを社内に浸透させたか (柿丸氏)
【2】データ統合のコンセプト設計と推進 (豊島氏)
【3】統合データを活用した分析・マーケティング施策 (柿丸氏・豊島氏)
【1】どのようにデータドリブンを社内に浸透させたか
「なぜデータドリブンな施策やそのための統合基盤構築を推進していくべきか、まず経営層を説得するところから始めなければならない」
これはデータ統合を検討している企業にとって非常に重要な話題で、共通のテーマでしょう。特にリアルビジネスが中心のUSJにおいて乗り越える壁がいくつもあり価値観の違いに当初はカルチャーショックすら受けたと柿丸氏は語ります。
一例を挙げると…
・データはあって当たり前 ⇔ 必要なデータだけあればよい
・全量データこそが多くを語る ⇔ サンプリングでも統計解析力で分かることは多い
・改善の積み重ねが重要 ⇔ 経営視点ではインパクトの大きさこそ正義
この価値観のギャップに当初は苦しみました。しかしこの体験を通じて「経営インパクトのない戦略は戦略に非ず」という重要な学びを得たと柿丸氏は言います。
そのうえで経営陣を説得するために、3つのアクションを取りました。
①デジタルマーケを経営の関心ごとにするために、成果インパクトを出す
②デジタルの正味価値を算定してみる(間接効果の可視化)
③市場関心が高い最新トレンドを取り入れる(米国事例など)
その後約2年の歳月をかけた説得は実を結びましたが、経営層を説得する過程で重要な示唆をいくつも得たと柿丸氏は締めくくりました。
まずは「自分が経営者の考えを理解していないのでは?」という視点を持つこと。
そして「決裁権者が理解できない提案に意味はない。彼らが重視していることを汲み取って体現しながら、決裁権者の味方を増やしていかないといけない」
【2】データ統合のコンセプト
前述の通り「データを集めれば集めるほど良い」では通りません。
カスタマージャーニーの可視化は何のために行うのか?という目的に立ち返り、そこから統合のあるべき姿を具体化したと豊島氏は語ります。
もっとも大切なのは顧客理解であり、USJにとってはテーマパークジャーニーの理解です。来場前→来場中→来場後という大きな3つのユーザー行動フェーズにおいて、どのデータが欠落しても顧客行動の理解はできません。
上記を念頭に、データ収集・加工・分析・施策への落とし込みまでを仕組み化しました。
USJのデータ収集における重要トピックは、オフライン行動センシングです。
リアルビジネスであるUSJにとっては「データが無いのが当たり前」の状態。豊島氏は「それなら必要なデータを作ってやろう」と思考を切り替えたと言います。
これは口で言うほど簡単ではありません。データがきちんと取れるか確認するため1年間テーマパーク内を装置を持って歩き回る、という荒業で実現しました。(彼らはこれを伊能忠敬プロジェクトと呼んでいます)
また、実際に収集したデータを見ると、ノイズが非常に多く、データの前処理も重要なテーマでした。例:単なる立ち寄りではない実際の喫食体験はどう定義するのか?
そういった細やかなデータ精度向上の作業は今も継続的に実施しているとのことです。
【3】統合データを活用した分析・マーケティング施策
講演ではいくつかの事例が紹介されましたが、ここでは一部をピックアップします。
●分析…来場中の行動に基づいたセグメンテーション
まずは統合データを使い、ユーザーをクラスタリング。行動特性ごとに特徴づけを行う。
各クラスタ別に再来場行動を分析すると、「同じクラスタとして再来場するのか、別クラスタに移行するのか」などで明らかな傾向差が出るという。USJでは、定性調査を掛け合わせたさらなるインサイトの開発に取り組んでいく。
●マーケティング施策…当日のパーク行動に基づいたパーソナルコミュニケーション
2017年からデジタルコンシェルジュサービスを導入し、来場ゲスト1人1人の行動にカスタムしたレコメンドを提供している。顧客属性と当日の体験内容に、朝・昼・夜といった時間帯もかけ合わせ、その場でおすすめのアトラクション・飲食・グッズをユーザーごとに提案する。
さらにUSJが見据えるのは、データが直接サービスに活かされた全く新しいパーク体験の創出です。講演の中ではその新サービスアイデアの一端も紹介され、ワクワクした空気の中第一部の締めくくりとなりました。
(新サービスについては乞うご期待)
川合 雄大 氏(株式会社リクルート)
第二部は、データドリブンマーケティングに取り組むリクルートの取り組み事例が紹介されました。
冒頭では大前提となるリクルートのマーケティングについて簡単に説明がありました。
分析に関する特徴だけをかいつまむと、
・リクルートには多種多様なサービスと事業部が存在し、それぞれ事業フェーズもマーケティング戦略も全く異なる
・それらのサービスを横断した統合データ基盤と分析組織が存在する
・データパイプライン・BigQuery等のデータ基盤に加えて、Tableau等のBIもあり、データを活用する環境が非常に整備されている。
つまりリクルートでは、組織・環境の両面でデータドリブンなマーケティングの推進に最適化されているといいます。
そのうえで川合氏は、データ活用に対する基本姿勢を成功のポイントの1つ目に挙げました。
例えば「データが大量にあるんだから、何か活用できないの?(機械学習とか)」といったやや乱暴なお題は、一般的な企業ではそう珍しく無いことでしょう。しかしリクルートでは先に目的や戦略があるため、上記のような光景はほぼ見かけません。データ第一で考えず、目的や戦略を定めて測定可能なKPIを設定し、課題の解決手段としてデータをどう活かすかを設計するのが、データドリブンマーケティング成功のコツであると川合氏は説きました。
データを活用したマーケティング事例として、じゃらんnetにおける広告効果の最適化事例が紹介されました。
【背景と戦略設定】
・じゃらんnetは、日本最大級のホテル予約サービス
・事業としては成熟期を迎えており、急速な新規顧客獲得よりも新規顧客のLTVを重視したい
・トラベル業界としては、キャンセル率が増加傾向にある
以上より、下記を考慮した売上を最大化することを広告戦略として置きました。
・新規ユーザーのLTV(将来価値)
・キャンセルを考慮した実宿泊ベースのCV獲得
【達成アプローチ】
まず上記を達成するための方法を、いくつかピックアップします。
その中には、LTVやキャンセルを考慮しやすいメディアプランの選定や、新規ユーザーだけに広告を出す、自動入札機能を1から作るなどの方法がありました。
自動入札についてはGoogleなどの媒体のアルゴリズムが非常に優れており、自分たちで自動入札機能を作る方法は非効率かつ勝ち目も少なそうでした。むしろ彼らが考えたのは、「媒体の自動入札ロジックに彼らが重視するLTVやキャンセルを考慮させることができないか」ということです。
結論、売上取得タグをカスタマイズし、機械学習が「LTVやキャンセルを考慮した売上」の最大化を目指すように仕様変更しました。
この事例からも、目的→課題設定→解決方法→そのためのデータ設計というサイクルが回っていることが分かります。
以上のような、戦略に沿ったデータドリブンマーケティングを実践しているリクルートですが、他社で同じ方法を真似るのはややハードルが高いと感じてしまう人もいます。
その点について、「リクルート社内には意外にデータが得意ではない人が多い」と川合氏は語ります。彼らの組織にはクリエイティブ寄り・オフライン寄りなど様々なバックグラウンドを持つ人達が集まっており、その中でデータドリブンなサイクルを回しているといいます。
重要なのは、
・根底にある「データを使うこと自体を第一義にしない」という考え方。目的や戦略から、データを扱う手法に落としていくことを徹底している
・そのアプローチを一人でやるのではなく、「データ系の部署含め得意な人達でより合って実行する」。そしてそれがスムーズに進むような工夫をすること(プロジェクトマネジメントや共通言語の習得)
上記のようなデータ活用のポイントを押さえることである、とまとめて第二部は締めくくられました。
内野 明彦 氏
近年のスマホ普及によって益々ユーザーとのタッチポイントは分断され、ユーザー行動を一本につなげて理解することが難しくなってきています。同時に企業のマーケティング施策も広告・メルマガ・Web接客・店舗接客などと多様化し、それぞれが部分最適になってしまっているケースも多いのではないでしょうか。
第三部では、いくつものデータ統合プロジェクトを成功に導いてきた内野氏より、プロジェクトを進める際のポイントや、ユーザーを軸にしたカスタマージャーニー型の分析・施策事例についてご講演いただきました。
【1】カスタマージャーニー型分析とは?
前半は、まずカスタマージャーニー型分析とは何か?というテーマについて。
この手法では、数十億~数千万件規模のカスタマージャーニー型(顧客行動履歴明細)の統合データを活用して、「個客軸」でマーケティング課題の解決を行います。
これまでに内野氏が解決してきたマーケティング課題は、営業リードの受注確度予測/広告予算の最適配分/チャネルを横断した販売機会の最適化など多岐に渡ります。
冒頭では、実際の事例をもとに具体的な分析イメージが紹介されました。
■ミクロ分析
表示されたのは、あるユーザーの行動履歴を一覧にした個票です。
何月何日にどこの会場を予約し、キャンセルし、来場し、後日Webサイトに訪問し、ECでグッズを買ったなどが見事に可視化されています(もちろん個人を特定できる情報は一切含まない)。
内野氏はこれを数百人分ピックアップし、クライアントと一緒にチェックしながら直感的にユーザー行動を把握し、ユーザーのリアルな行動を思い浮かべながら仮説を出していきます。もちろんこれは一部ユーザーの行動であり数値根拠としては薄いので、マクロ分析と掛け合わせて使用するといいます。
■マクロ分析
こちらで紹介されたのは内野氏が星取表と呼ぶ独自フォーマットの集計データです。
3ヶ月スパンの購入あり/なし×約6回のパターン別に、人数やLTVなどが載っています。
もちろん6つの枠すべてで購入マークがついているのが望ましいが、ここでまず手をつけるべきユーザー層は3回連続で購入したのに途中で離脱してしまったユーザーなどです。
つまり、「優良顧客になりそうだったのに途中で離脱してしまった層」がLTVへのインパクトは大きいため、こういったポイントから当たりをつけます。
本事例で目指したのは、下記のように個客の成長フェーズと将来価値を時系列で捉えながらセグメントするCRMモデルの構築だったと内野氏は語ります。
・将来価値が高くなる確率が高い人を早めにみつけて取引を維持する
・将来価値が高くなる確率が高い人に近い人を見つけて、将来価値が高くなる確率が高い人になるように育成する
・将来価値が高くなる確率が高い人は、過去の取引データと行動データから一定のパターンを読み解いて定義づけする
カスタマージャーニー型分析のポイントは、このマクロ視点(定量集計)とミクロ視点(個人の動き)を行き来しながらユーザー行動の理解を進め、改善への仮説を立てることだと付け加えました。
まとめとしてカスタマージャーニー分析で導きたいことを、下記のように定義しました。
・どういう定義で抽出される顧客に(セグメント抽出方法)
・どういうタイミングで(タイミング判定方法)
・どういうコミュニケーションをして(施策の具体設計ロジック)
・どういう反応と行動を期待して(施策の短期評価方法、体系)
・その結果顧客のCJ状態が進行して(顧客セグメント定義と判定方法)
・その結果ビジネスインパクトを生み出し(LTV視点での顧客評価)
・つまりはどのくらいの投資をしても回収できるか(顧客資産価値算定)
・運営のためにどういう体制が必要か(運用コストと体制調整)
【2】データ統合プロジェクトを進める際のポイント
後半は、カスタマージャーニー分析を行うための環境構築をプロジェクトとしてどう進めるか、というテーマです。
データ統合の手法として適しているのは、各明細データをETLで加工・統合し、BIで可視化・分析する方法です。ただ、これらを本格導入となると高額の予算が必要になり、稟議や社内調整のハードルの高さに挫折する企業も多いのではないでしょうか。
内野氏が勧めるのは、まずは低予算のスモールスタートから始める方法です。
まずは小さく始めて成功事例を作ってから本格稼働のための稟議や社内調整に入る方が、プロジェクトを進めやすくリスクも最小限に抑えられます。
小さく始める具体的な手法の一例として、安価なETLやExcelのPowerPivot 機能を使った手法が紹介されました。
最後にデータ統合プロジェクトの推進者のスキルセットについても言及がありました。
目的は仕組み構築ではなくマーケティング設計のため、プロジェクトはなるべくマーケターが主導するのが望ましい。そしてマーケターの守備範囲としては施策部分だけでなく、データ設計や加工の部分まで理解するべきというのが内野氏の考え方です。
なぜならデータ統合プロジェクトは泥臭くトライ&エラーで進めるゆえに、それをまわす「スピード」が重要となります。「データ設計」と「データ活用」の担当者が分断されてしまうと、やり直し回数やコミュニケーションの時間が増えクイックな検証改善ができません。
そのうえで、今後データマーケターには上流から下流までを一気通貫でリードできるスキルセットも必要とされてくる、と内野氏は締めくくりました。
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