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a2i秋の広告祭が終わりました。ご参加いただいた方、ご登壇いただいた方、会場の運営をいただいた方皆さまに感謝を述べたいと思います。ありがとうございました。既にa2i代表の大内さんが、a2i秋の広告祭の感想を述べられていたので、僕の方からはコンパクトにまとめたいと思います。

a2i秋の広告祭でどのようなトピックを取り上げるかは、それなりに時間をかけて練り上げました。メインとなるテーマはAI。これはデジタル広告の仕組み上、システムのコアな部分にAIが組み込まれているので、否が応でもAIというテーマを避けて通ることができないからです。

その上で、AIによる最適化が進むちょっと先の未来を考えてみたときに、AppleのITPが登場し、リターゲティング広告や計測が行いにくくなったという、ある種、歴史のターニングポイントが脳裏に浮かびました。ITPが登場した背景のひとつに、ユーザーのあずかり知らぬところで行動履歴が取得され、過度なリターゲティング広告が横行したことへの反発があったと僕は思っています。あの時感じた広告への気持ち悪さが、規制の引き金になったのではないでしょうか。

AIによって最適化が進む様が、ITPが登場してリターゲティングや広告の計測が難しくなった、あの時の感じにとても似ているのです。なので、AIによって最適化が進みすぎた時に、どこかで急に、気軽にデジタル広告が活用できなくなる未来がもしかしてくるのではないか?その時を見据えて僕たちは何を考えるべきなのか?もテーマに組み込んでおくと、マーケターの幅が広がるかなと考えた故のセッションと並び順となりました。AIを活用するためにはデータの計測や分析が大切、だけど、AIの最適化が進んで熾烈な競合争いが起きたり、クリック単価の高騰でデジタル広告に頼れなくなったときにどうするか、ヒントが得られる場になっていたならば良かったなと思います。

計測できていたものが計測できなくなってきている難しさ

AIを活用するデジタル広告では、データを元に機械学習や予測を行い、目標を達成できるようなコンテキストを持つユーザーに広告が表示されます。つまり、表示ロジックは個に最適化されるという仕組みです。精度が高い予測に足るデータの質や量が必要になる一方で、デジタルマーケティングの世界ではトラッキングが難しくなるという、相反する状況になっています。デジタルの弱みのひとつとして、これまで計測できていたものがどんどん計測できなくなってくる世の中に対して、どう適応するかの難しさがあると思っています。

コンバージョン計測ひとつとっても、JavaScriptタグ、Google タグマネージャー、サーバーサイド計測、個人情報を用いたマッチングなど手法は多種多様です。実装ハードルも様々で、それぞれの仕組みを深く把握していなければ、より良い選択肢すらとりづらい状況です。さらに、計測したデータの精度、量、ノイズの割合などデータの質を担保し、どこからデータを持ってきて、どのようにクレンジングして、どのように保管して、どのように引っ張り出して処理するか。AIを活用するためにここまでやらなければならないのか…と。

AIを活用するために必要な学習コストは爆上がりです。でも、学ばないとスタート地点にすら立てなくなってきているのは、ある種デジタルの難しさや弱みなのだろうなと思います。

デジタルでリーチできないユーザーやコンテキストもたくさんある

視点を広告に移してみます。a2i秋の広告祭開催からちょうど1週間後、「広告運用フォーラムディスカッション 2025」というイベントで、組織、教育、計測、クリエイティブ、SMB、生成AI、営業、テストなど16のテーマで少人数のグループディスカッションを行うイベントを行いました。

僕は参加できていないですが、SMBをテーマにしたディスカッションで「電柱広告」も悪くないという話があったようで、興味深い話題だなと強く印象に残っています。自宅の近所をふらっと歩いていて、初めて知るお店や会社の電柱広告を見ちゃいますし、新たな発見もある。伊勢神宮周辺、地域のすべての電柱に掲載されているのではないか?と思ってしまう「赤福」の広告みたいにする必要はないですが、老舗がいまでも継続しているということはきっと意味があるはず。

街の中小企業をターゲットにしたり、ご高齢の方にリーチするのであれば、郵便局、銀行などの金融機関の店頭に掲載できる広告も良さそうですし、午前中やお昼の時間帯の枠を埋めたいパーソナルトレーニングジムであれば、チラシをポスティングして、健康を気にするがパーソナルトレーニングという選択肢が想起できない方に知ってもらうということもありですよね。

デジタルマーケティングに携わっていると、すべての物事がデジタルで解決できると錯覚してしまうことがあります。数値として測って評価ができるが故に、生存バイアスがかかりやすくなるというのはデジタルの弱さなのか、デジタルが故の人の弱さなのか。いずれにせよデジタルは活用せざるを得ません。定期的にデジタル指標以外の顧客接点を見直したり、チーム内で計測は難しいが重要なことを議論する機会を持ってみると良さそうです。

デジタルの強みだけでなく弱みも理解し、依存しすぎない視点を持つことの大切さが伝われば良いなと願っております。

コラム担当スタッフ

田中 広樹

Yuwai株式会社
代表取締役

日本放送協会で放送エンジニアとしてキャリアをスタート、後にキャリアチェンジでインターネット広告の世界に飛び込む。

大手インターネット専業の広告代理店で約3年の勤務を経て、アナグラム株式会社(現:フィードフォースグループ株式会社(東証グロース)傘下)にて創業期メンバーとなる第一号社員として参画。11年8ヶ月従事の後、2023年8月に退職。2023年9月にYuwai株式会社を設立。

運用型広告のコンサルティングのほか、Google ショッピング(Google Merchant Center)やデータフィード広告のコンサルティング、Google タグマネージャー、Google アナリティクスといったマーケティング関連プラットフォームの活用など、デジタルの力を使って集客の支援を行っている人。

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