コラムバックナンバー

ある日、運営堂の森野さんから下記のメールが届きました。
「a2iでコラムをお願いできないでしょうか? という連絡です。代表の大内さんからの依頼文があるのでそのまま載せますね」
こういう質実剛健なメールは好きです。(ぶん投げともいう)

a2i代表・大内さんからのメールにはこんな風に書かれていました。
「ウェブのマーケティング、コンテンツ制作に関連するものであれば自由ですが、noteをいくつか読ませていただき、書いて欲しいことが全部ここにある、と思っているのですが…… もし、何かテーマがあった方がよい、ということでしたら、以下のテーマではいかがでしょう?『どうやってウェブの見えないターゲットユーザーを意識するか?』コンテンツ制作では、どうしても自分たちが発信したいものになりがちで、 どうやったらお客様を意識できるのか? というそんな感じのことです」

見えないユーザーをどうやって意識するか?

いただいたテーマは企業のWeb活用において重要な視点です。端的に答えるならば、「見えないユーザーをどうやって意識しよう」と日々問い続けることだと思っています。それが立脚点であり具体的な対応策です。なんだそれ。トンチか。と言われそうですが。いやいや。本当に。

まず、「見えないユーザー像」ですが、修行を重ねたら見えるようになる訳ではないですよね。勘違いされやすいですが、Webを積極的に活用している人たちも透視能力が身に付くわけではありません。身に付くのは下記の3点です。

  1. 不可視を受け入れられるようになる
  2. それでも見ようとする
  3. 仮説と結果からユーザー像のヒントを得ようとする

つまり、見えないからこそ見ようとする行為が重要なのであり、その行為自体が「ユーザーを意識すること」だと思っています。ちょっと恋愛とか結婚生活に似ています。自分勝手に分かったつもりになったらおしまいだし、自分の理想や理屈を押し付けたら破綻するし、分からないからと放置したら最悪だし。「分かろうとし続ける行為そのものが重要である」ぼくはそれを結婚生活で学びました。でも考えてみれば当たり前です。Webマーケティングとかコンテンツマーケティングとか言っていますが、その向こう側には必ず人間が存在します。Web活用はデジタルっぽさが目につきますが本質的に関係構築の話であり、他者を理解しようとする物語であり、便利な言葉でいえばコミュニケーションの話です。

わかりあえないことから

コミュニケーションをテーマにしたとき、ぼくの頭に浮かぶのは平田オリザさんの著書『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書)です。とてもよい本なのでぜひ読んでいただければと思いますが、2箇所ほど引用します。

「会話」=価値観や生活習慣なども近い親しい者同士のおしゃべり。
「対話」=あまり親しくない人同士の価値観や情報の交換。あるいは親しい人同士でも、価値観が異なるときに起こるその摺りあわせなど。


たとえば高校生たちには、私は次のように伝えることにしている。「心からわかりあえないんだよ、すぐには」「心からわかりあえないんだよ、初めからは」この点が、いま日本人が直面しているコミュニケーション観の大きな転換の本質だろうと私は考えている。



「あまり親しくない」「価値観が異なる」「わかりあえない」といった言葉が並ぶ通り、コミュニケーションの特性のひとつとして「異なっているもの同士の交わり」「異なっているものの摺り合わせ」を前提にしていると言えます。

Webコンテンツだって同じ

言わずもがなですが、そもそも他者のことはわからないのです。わからないけれど、ぼくたちは日々なんとかしようとしますよね? 妻の機嫌が悪そうだったら何かしただろうか…と糸口を見つけようとするし、道端でお年寄りが倒れていたらどうしました? と手を差し伸べるし、店舗でキョロキョロしている方を見かけたら何かお探しですか? と声をかけます。

Webのコンテンツだって同じです。相手がどんな人か、何に困っているのか、どんな状況なのかわからないからよく見ようとするし、声をかけるし、思いを馳せるわけです。それっぽい言葉でいえば「観察」「仮説」「実行」「検証」です。でも、そんな言葉を知らなくてもぼくたちは日々の暮らしの中でやってるじゃないですか。目の前の人をよく見て、その人が求めていることを考えて、Aかな? Bかな? と迷った上で勇気を出して声をかける。それが家族であっても同僚でもお客様でも変わりません。もしAかBかの二択で間違えたとしても些細なことです。声をかけること自体が大切なんだから。Aじゃなかったとしても、対話の中で「そうか。Bでしたね。それでしたら…」と訂正すればいいだけの話です。それなのに、なぜか皆さん、WebになるとAかBか間違えたらどうしよう…と必要以上に恐れて足を止める傾向がある。日常生活とちょっと違います。迷っても怖くても分からなくても何であれぼくたちは他者に話しかける。関与する。そうしなければ生活や社会は進まないと知っているからです。

繰り返しますがWebコンテンツだって同じです。じゃあ、何でできないのか? 自分たちの発信したいことを優先してしまうのか? お客様を意識できないのか? AかBかの選択を恐れすぎてしまうのか? 足を止めてしまうのか? それはもう単純にただサボっているだけです。何を? 相手を見ようとすること/関与することをです。見えないことをいいことに。ただもうそれだけ。できるできないとかスキルの問題じゃないですよね。だって、ぼくたちは日々やっているんだから。リアルだったらやるのにWebならやらないのはただサボっているからです。

コンテンツの向こうに人がいる

サボっているという言葉が心外だとしたら、「コンテンツの向こうに人がいる」という視点が欠落しているとも言えます。コンテンツを書くことは目的ではありません。手段です。目的はあなたのコンテンツを読んでくれた誰かの役に立つことです。(最終的なゴールは自社事業の役に立つことですが、その最初の一歩として誰かの役に立とうとする姿勢がインバウンドマーケティングでありWeb活用の肝です)

もし、あなたが誰も思い浮かべないで書いているとしたら。ひょっとして思い浮かべないどころか、本当は原稿にOKを出す上司をチラチラ見ながら書いているんじゃないですか? 断言しますけど、それは仕事のふりをしているだけです。だってそうですよね。あなたに任されたミッションは「誰かの役に立つコンテンツを作って、それによって色々生まれて※、最終的に会社の事業に貢献すること」なんですから。そのミッションの肝を無視して、ただのアリバイとしてコンテンツを作っているんだとしたら、そりゃあ上手くいきっこないです。(※:長くなるので割愛します。詳しくは『BtoB企業のWeb活用におけるコンテンツの役割とは?』をご覧ください)

ちゃんと仕事しようぜ

だから、いただいたテーマ、「どうやってウェブの見えないターゲットユーザーを意識するか?」に真摯にお答えするとしたら、「ちゃんと仕事しようぜ」です。仕事のふりとかアリバイ作りとかではなく。仕事には必ず相手が存在します。相手が存在しない仕事はありえません。だってそうですよね。お客さんから電話がかかってきたのに相手を無視して一方的に製品のことを話しませんよね? しかも、お客さんに意識を向けることなく上司の顔色ばかり窺っているなんてあり得ない。そんなことしてたらぶっ飛ばされる。何でぶっ飛ばされるか? 仕事になってないからです。

つまり、ほとんどの要因は「Webを仕事だと腹の底から思っていない」に起因します。だいたいはその勘違いから始まる。いいですか? 企業においてWebは仕事です。営業や総務や事務や製造や開発とまったく同じです。仕事なんだってば。もし、あなたの会社の社長や部長が「なにホームページばっかりやっているんだ。さっさと外に出て客と会ってこい」というのであれば、それは社長や部長が間違っています。お客さんと会うのと同じ価値と意味がWebにはあります。というか、価値とか意味とかより、そもそも必要なんです。営業や経理や製造と同じように。タイヤやシャフトやエンジンが自動車に必要不可欠な機構であるように。だから社長や部長がホームページより客と会う方が「上」みたいな論調で言うのだとしたら、まず改善すべきはそこです。だって、そんな会社で見えないユーザーを意識してコンテンツを書くなんてできっこないじゃないですか。上司や社長の顔色を窺いながら彼らのお気に召すコンテンツを書くのが関の山です。そんな環境で成果の出るWeb活用なんて無理です。もし本当にWebで成果を出したいのならば、あなたたちが見るべき相手はユーザーです。社長や上司じゃない。

やるべきことは接客

もしここで、「え、そうだったんだ」と思う方がいたら、ひとつお願いがあります。今日以降、Webに関して「情報発信」という言葉を使うのを禁止してください。情報発信とかそれっぽい言葉を使うからみんな勘違いする。情報なんか発信していません。みんな見に来てくれているんです。わざわざ。あなたの会社のWebに。訪れてくれているんです。店舗に来てくれたお客さんを目の前にして情報発信をしますか? しませんよね。やるべきことは「接客」です。Webサイトは接客の場です。店舗やオフィスや工場と同じです。そこに訪れてくれたお客様を接客するのと何も変わりません。足を運んでくれたお客様に必要なことはそれっぽいマーケティング用語とか流行りのTIPSとかThe Modelとかではありません。あなたが接客するんです。目の前のお客様を。お客様の役に立つために。あなたの会社を信頼してもらうために。それはあなたが、あなたの同僚たちが、あなたの会社が、あなたの会社の製品やサービスが日々やっていることです。もうあなたたちはやっているんです。毎日。Webでもそれをやりましょう。仕事しようぜ。

補足:同僚からの感想

この原稿を先んじて読んでくれた同僚から下記の感想が届きました。

日常生活とか対面営業ではできているけどWebではできていない、というのが、日常生活とか対面営業でもできていないっていう人も多いんじゃないかと思ったりしました。どうも自分(自社)視点でお客さんのこと全然考えてない営業ってたくさんいる気が・・・どうなんでしょう🤔日常生活でもできないことが急にWebでできるようにならないんだなーって、改めて思いました。日常生活から意識します(感想です)

いやもう本当にその通りだと思います。Webは日常業務の受け皿なので、日頃できていないことがWebだったらできるなんていうことはないです。製品やサービスがパッとしないのにWebだったらすごく売れるなんていうこともない(瞬発的にあるかもしれないけれど、信頼を損なうのでやめた方がいい)。その不可逆性ははっきりしている。10を100にして伝えるのはWebではありません。10を10で伝えようとするのがWebの役割です。すごく難しいんですけど。初めは10が3くらいでも仕方ありません。それを4、5、6…と少しでも10に近づけていくのがWeb制作でありWeb活用です。ぼくたちJBNがお客様のWebサイトを作らせていただく際もWeb活用を支援するときもすごく根掘り葉掘り聞くのですけど、それは日々の仕事について知りたいからです。自社は社員さんも製品もサービスもすごくいいのに、お客様の役に立てるのに、Webだとそれが上手く伝えられない…と悩んでいる企業様こそWeb活用に向いていると思います。その逆はないです。

コラム担当スタッフ

稲田 エイジ

株式会社JBN
制作ユニット マーケティングディレクター
Web活用支援 /note
Twitter

長野県在住。 東京の小さな広告代理店の営業・企画、地方の小さな出版社の広告営業・編集を経て、長野県長野市の小さなWeb制作会社に所属。BtoB企業のWebサイト戦略策定およびWebディレクション、コンテンツ制作、Web活用支援を担当。ミッションは「伝わるをふやす」。ユーザー・企業・社会の三方良しにWeb活用支援で役に立ちたいと思っています。本や漫画や映画が好きです。

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