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ヘルプをちゃんと読むこと

このコラムを読んでいる方は、デジタルマーケティングに深く携わっている人が多いと想像する。そんなあなたなら、先輩から「ヘルプを読め」とアドバイスされたことが一度や二度あるのではないか。なかには、アドバイスをしている側の方もいるかもしれない。

プラットフォームから提供されるヘルプを「ちゃんと読むこと」。シンプルながら、このことはデジタルマーケティングの世界で仕事をする上で、きわめて重要である。

電化製品であれば、わざわざ取扱説明書を読まなくても普通に使う分には問題ないかもしれない。しかし、デジタルマーケティングの場合は違う。試しにロクにヘルプを読まずに適当に広告を出してみるとよい。箸にも棒にもかからないような結果しか出せないはずだ。

だからデジタルマーケティングの世界で真剣に取り組む私たちは、プラットフォームのヘルプをちゃんと読み、仕組みや仕様を正しく理解した上で向き合っている。

”正解”の存在しない荒野に向き合う

さて、今回のコラムで伝えたいのはこれとは少し違うことだ。

デジタル広告で考えてみる。まず、仕組みや仕様を正しく理解しなければならない広告プラットフォームは一つではない。そして各プラットフォームはそれぞれ進化しており、そのキャッチアップも必要だ。つまり、理解することがたくさんある。

しかし、いくら理解することがたくさんあると言えど、プラットフォームに精通してさえいればいいのかというと、そうではない。「ヘルプを読め」という先輩の動きを観察してみれば、そのスキルや知識だけで問題と向き合っているわけではないことがわかるはずだ。

――このキャンペーン、コンバージョンは取れるのだけど、何がよかったのかよくわからないです。どこに、どんな広告が出ていたのかが見えません。ほとんどブラックボックスなので…。

広告運用の現場で、こんな言葉をよく聞くようになった。確かに、プラットフォームは機械学習やAIに舵を切っており、人間がそこから学びを得られにくくなっている。自分たちが関係を築きたいユーザーを理解し、広告を通じたアプローチを成功に導くための手がかりが、以前よりも見えにくくなっている。

広告を始めるとすぐに、”正解”の存在しない荒野が広がる。データを見ながら、なぜこういう数字が出たのだろうか? と問う。わからない。この最初の「わからなさ」は、おそらくみな同じだ。
わからないなかでわからないなりに想像し、仮説を立て、構想をまとめて実践し、データを検証してまた考える。その繰り返しから、状況をよい方向へ導いていく。

それは、どういうことか。
今は存在していない”正解”を作りにいくために、動きながら考え、考えながら動いているのだ。

わからないなか、わからないなりに、わかるものをつくろうとする構想力

また、デジタル広告はすでに「存在しているもの」が使われることが多い。例えば、ユーザーのシグナルを示すコンバージョンは「サンキューページに到達した」とか「このボタンをクリックした」など、「すでに存在している」Webサイトのページなどの要素からトリガーとして設定する。

広告をクリックしたときに遷移させるランディングページも同様で、Webサイトに「すでに存在している」ページを設定することが多い。最近では、管理画面に実装された生成AIは「すでに存在している」ページから広告案をものの数秒で作ってくれるようになっている。

しかし、「すでに存在している」ページやコンテンツだけを使わなければならないわけではない。
例えば顧客へのインタビューにより、意識していなかった強みが見えてきたなら、ページ内の表現に加えてみる。ユーザーがサービスの検討時に何の情報をほしがっているかを理解したなら、「存在していなかった」ページやコンテンツを新しく生み出して集客を促す。
このように、今は「存在していない」ものを新たにつくることもできる。

大事なことは、ユーザーや顧客の行動を観察し、想像し、仮説を立て、構想をまとめて新たなトライをすること。そしてデータを検証し、仮説が間違っていたら、またやり直すことである。

この「わからないなか、わからないなりに、わかるものをつくろうとする構想力」は、今後デジタルマーケティングでよい仕事をする上でますます重要になるだろう。これはプラットフォームの仕組みや仕様に精通するのとは別のスキルや知識である。

一人でやろうとしなくてよい

構想力を身につけるには経験が必要で、だからはじめたばかりの人にとっては決して簡単なことではないだろう。だが、すべてを一人でやろうとしなくてもよい。チームメンバー・関係者との対話やユーザーや顧客からのフィードバックなど、それぞれの持つスキルや知識を活かし、まとめあげた知恵で新たな価値をつくることができるはずだ。

周囲に相談できる同僚や先輩がいないという人は、身近な人に意見を聞いてみるとか、ここでこそChatGPTのような生成AIを使うのがおすすめだ。書き込む情報には注意を払いながら、人間に相談するように、今考えていることを言葉にしてぶつけるとよい。一人でやるよりずっとスムーズに、構想をまとめあげることができるだろう。

コラム担当スタッフ

寳 洋平

アユダンテ株式会社
チーフSEMコンサルタント

Web/紙媒体コンテンツの企画・編集・ライターからSEMの世界へ。2010年よりアユダンテ在籍。アナリティクスやTableauも活用しながらリスティング広告の設計・運用、コンサルティングを行う。趣味は料理、猫と遊ぶこと。
著書は『新版 SEM:リスティング広告』(インプレス)、『いちばんやさしいリスティング広告の教本』(インプレス)、『ネット広告運用“打ち手”大全 成果にこだわるマーケ&販促 最強の戦略102』(インプレス)、『Amazon広告“打ち手”大全 世界最大のECサイトで広告運用に挑む 最強の戦略77』(インプレス)

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