コラムバックナンバー
株式会社WACUL 垣内 勇威
発信元:メールマガジン2023年8月9日号より
はじめまして、2023年7月20日に三作目になる『LTVの罠(日経BP・2023/7/20)』を出版しました。書籍の帯にある「ゴールド会員なんて顧客はうれしくない」のように、企業視点で顧客を囲い込むような施策を否定し、顧客視点でLTVに向き合うべきだと主張した本です。
僕はこれまでにも『デジタルマーケティングの定石(日本実業出版社・2020/9/10)』『BtoBマーケティングの定石(日本実業出版社・2022/12/1)』と、マーケティング関連の書籍を書いていますが、周りの人に「よくこんなに短期間で本を書けますね…」と驚かれることがあります。
確かに、本を一冊書ききるというのは、自分の命を削るような作業です。僕の場合は、集中できる時間を捻出するために、休日はすべて執筆にあてることになります。さらに書いているうちに、自分の思考の「穴」に気づかされて、ゼロから考え直すこともしばしばあります。そんな自分が、書籍を執筆する原動力は何かというお話をさせていただきます。
書籍執筆の原動力は「怒り」である
このコラムの “きっかけ” になったのは、a2iの大内さんとの会食で、書籍執筆の原動力が「怒り」であるとお話ししたことです。「怒り」とは例えば、ある企業の間違った方針を正そうと、クライアントと一緒に社内説得を試みたものの、縦割組織の弊害や周囲の不理解によって道半ばで挫折したことなど、苦い経験から生まれる気持ちです。僕が本を書き始める時は、まず「怒り」の原体験をかたっぱしから洗い出します。
残念ながらこの業界では、成果にフォーカスしていない現場によく遭遇します。皆さん真面目なので、やる気がなくて手を抜いているという人は多くありません。人は真面目だからこそ、縦割りの組織で局所最適に陥ったり、バズワードに振り回されたり、成果にフォーカスできなくなるのです。真面目なのに成果に向き合えない人たち、さらに言えばそうした環境を作り出す組織への「怒り」が、僕の執筆エネルギーです。
もちろん書籍を出せば、僕が所属する株式会社WACULの広報活動にも貢献します。商品が売れますし、採用にも有効です。しかしこうしたビジネス上の目的だけでは、執筆の熱量を維持することができません。人の心を動かす書籍を執筆するには、魂を込めなければならないのです。
強い気持ちが「共感」と「共有」を生む
魂を込めた書籍は「共感」を生みます。僕の本を読んだ感想は「あるある!!」「ほんとそれ!!」という共感がほとんどでした。
マーケティングの現場では、成果にフォーカスしたいだけなのに、多大な組織調整に苦労している人たちがたくさんいます。人間関係に疲弊し、成果にフォーカスする目が曇ってしまったとき、もし僕の本を手に取ってもらえたとしたら、もう一度立ち向かう力を注入したいと願って執筆しています。
基本的に、僕の本には「新しいこと」が何も出てきません。新しい技術、新しい施策、新しい概念などは出てきません。皆さんが知っていることを、分かりやすく共感できる言葉にしているだけです。「新しい」ということは、流行りすたりがあるということです。できる限り長く教科書のように読んでもらえる本を書きたいのです。
このような普遍的で「共感性」の高い本を書けたとき、「共感」が「共有」を生みます。「上司に読ませて、社内説得に使います!」「メンバーに読ませて、社内の共通言語にします!」のような嬉しいレビューをいただくことがあります。こうした本を書くためには、魂のこもった「怒り」を原動力にしなければならないと、僕は考えています。
最新作『LTVの罠』執筆の原動力は?
最新作の『LTVの罠』を書こうと思ったのも、元々はデジタルを「セッション単位」で分析するという悪しき習慣に「怒り」を感じたことがきっかけです。デジタルマーケティングは数字が見えすぎるため、誰もが「セッション単位」のCVやCPAで施策を評価します。
しかし本来デジタルは、短期の「セッション」ではなく、長期の「ユーザ」で評価すべき顧客接点です。なぜならデジタルは、顧客と長く、かつ安く接触し続けることが得意な媒体だからです。例えば、Webサイトなら一度作ってしまえば、毎月数千~数万人のユーザを相手に接客し続けます。こんな人数に、営業パーソンが接客するなら膨大な人件費がかかります。本来デジタルは、長期での顧客コミュニケーションに活用すべきであり、「LTV」の向上に使われるべきなのです。
今後はGA4やP-MAXなど、新技術の登場で「セッション単位」の分析が是正され、「ユーザ単位」の分析が増えるかもしれません。しかしこれからもセッション単位の分析が優先されることは変わらないでしょう。なぜなら定量的な「ユーザ単位」の分析は、人類にとってあまりに困難であり、どうやっても解釈しきれないからです。
こうした間違いを正すべく、新著『LTVの罠』を書きました。もし少しでも興味をお持ちいただけましたら、手に取っていただけると嬉しいです。このような徒然なコラムを最後までお読みくださりありがとうございました。
東京大学卒。株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善施策の提案から施策効果の検証までデジタルマーケティングのPDCAをサポートする自動分析・改善提案ツール「AIアナリスト」を立ち上げ。
2019年に産学連携型の研究所「WACUL Technology & Marketing Lab.」を創設し、所長に就任。現在、 研究所所長および代表取締役として、事業のコアであるナレッジ創出を牽引。新規事業や新機能の企画・開発および大企業とのPoCなど長期目線での事業推進の責任者を務める。
2022年5月、代表取締役に就任。
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