コラムバックナンバー
Option合同会社 柳井 隆道
発信元:メールマガジン2021年5月12日号より
デジタルの時代になり、あらゆることが計測可能(トラッカブル)になり、それらをIDで紐づけて分析できるようになったと錯覚している人も多いかもしれません。しかし実際には同じ事象(イベント)でもすべてのケースにおいて計測可能なわけではなく、計測できないケースもあるのです。ランダムで欠測する場合もあれば、特定のケースで計測できない場合もあります。たとえばウェブ計測において特定のイベントはiOSでのみ計測できないことがあります。
またすべてのデータが繋がっているわけではありません。さまざまなログを取得できるようにはなりましたが、一人の行動がすべて一つのIDで紐づくわけではありません。事象は計測できてもIDが紐づかないケースもあるのです。たとえば1人が複数のデバイスを利用する際にはそれらを通算して1人の行動として紐づけられないことが多いですし、ITPの影響でiOSでcookie保持期限が短くなり、同一人物の行動なのにIDが分断されてしまうこともあります。
データを見る際には、事前にこういったことを考慮する。データがどのように発生して、計測されるかを踏まえておかなければなりません。特に今後はデータを個人単位で繋げて見ることが制限される動きが強まるので、そこが重要になります。
分析のアプローチには大きく
– 個人IDベースの分析(ジャーニー、パネル分析)
– 集計ベースの分析
がありますが、IDベースの分析はサードパーティcookieの無効化やITP、アプリにおいてはATTの影響で制限されるケースが増えます。一方で集計ベースの分析は現時点ではそこまで大きく制限される流れはないのですが、それでも特定のOSでのみ欠測が発生するケースはあります。実際には同じ設定をしてもウェブサイトによって計測されたりされなかったりすることはあります。そのサイトが読み込んでいるスクリプトの影響などで、設定が間違っているのではなくライブラリの相性の問題です。またITPなどの影響で欠測扱いになってしまうこともあります。
そしてこの「特定の○○でのみ欠測が発生する」という現象が分析・データドリブンな意思決定において厄介な影響を及ぼします。IDベースだけでなく、集計ベースの分析でも発生します。現時点ですでにウェブ広告のコンバージョンデータではiOSのデータがある程度欠損しています。厳密にはコンバージョン自体は計測できるのですが、それが広告流入と紐づかないのです。それに加えiOSではアプリにおいてもATTの影響で同様の問題が発生するようになりました。
iOSのコンバージョンが少ないのではなく、ITP/ATTの影響で計測できていないだけなのです。そこで「iOSのコンバージョンが少ない」と捉えてしまうと、iOSへの配信を縮小するという誤った意思決定をしてしまいます。ここでコンバージョン欠測がOSを問わずランダムに発生するものであれば、こういった誤った意思決定には繋がりません。単純に意思決定の精度が落ちるだけで済みます。これが「特定の○○でのみ欠測」の厄介なところなのです。バイアスに直結するのです。
以前も説明しましたが、データの発生メカニズムを見渡し、どこにバイアスが発生するのかを把握することが重要なのです。そしてバイアスと向き合うわけですが、高度な手法ではバイアスの発生自体を予測するというものがあります。つまりiOSであればコンバージョン欠測条件に当てはまるかどうかを判別する。そして欠測条件に当てはまらない場合にのみAndroidと同様の手法を使うというやり方が考えられます。最初からAndroidとiOSで共通の手法を使うのではなく、iOSのみ一定の処理(欠測条件処理)をしたうえでAndroidと同様の手法を使う。
今後は個人IDの限界に伴い、IDベースの手法の重要性が相対的に低くなり、集計ベースで的確な意思決定に貢献する手法が重要になります。そのために欠かせないのが欠損値を扱う手法であり、それ以外にも因果推論、マーケティングミックスモデリングなどの時系列分析があります。これらは機械学習とは異なる、今後求められるアプローチとして知っておくといいでしょう。
東京大学を卒業後、webマーケティングやサービス企画、システム開発などに従事。
デジタルマーケティングの世界に落ち着き、事業会社、広告代理店を経て2014年に独立。
現在は大小さまざまの事業会社、広告代理店などに対して、テクノロジー観点からデジタルマーケティングの支援を行っている。データ計測の設計、実装から分析、マーケティングオートメーションや広告運用などの施策との連携まで扱う。
さまざまな規模の経験から、企業の身の丈にあったデジタルマーケティングの企画に強い。フリーランスで活動していたが、2017年から法人化。
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