コラムバックナンバー
Option合同会社 柳井 隆道
発信元:メールマガジン2020年4月15日号より
■身近な一人の事例を過大評価する危険性
近頃ソーシャルメディアでは新型コロナウイルスに感染した人が体験談を綴ることが散見されます。それはよくシェアされ、特に知人が感染したケースではより強調してシェアされます。このこと自体は問題ないのですが、われわれがそれを直接行動の根拠にするのは危険な側面があるのです。
また有名人が感染して亡くなったからといって、そのケースをとりわけ強調して「だから怖い」と騒ぎ立てる。感情的なインパクトは大きいかもしれません。ただ落ち着いてその人が医学的にどのような人なのかよく考えてみましょう。一般の人よりリスクファクターを多く抱えた人かもしれません。その場合、一般の人にとっての怖さとはレベルが違って当然です。確かに怖いのは間違いありませんが、それを鵜呑みにすると恐れ方を間違う可能性があるのです。過度に恐れて違う弊害を生み出すことにもつながります。
これらに共通していることは、われわれが事例を見ている。そしてその事例を根拠に行動を決めようとしているということです。
■ユーザーエクスプローラー誰見る問題
この事例を見て行動を決めるというのは、アナリティクスにおいても同じことをやっていますよね。ウェブなどの行動分析で、ページビュー数や訪問回数といった集約された数字ではなく個人の履歴を見る。最近は主流になってきています。Google アナリティクスのユーザーエクスプローラーなどで見るわけですが、その際に誰の行動を見ればいいのか、困ることはありませんか?ユーザーエクスプローラーで誰を見るかというのは大変重要です。選び方によっては結論が変わります。
知人の感染体験談を強調することは、ユーザーエクスプローラーで知人の行動を引っ張り出して「こんな行動をする人はコンバージョンするのです」と強調するのと同じことなのです。確かにそういうケースもあるのですが、それは一つの例にすぎません。たとえばサイト全体ではタブレットの訪問数が少なくCVRも低いのに、友達がタブレットでCVしたからといって「タブレットでもCVする」と強調するのが正しくないことだというのはお分かりですよね。施策の優先ターゲットはそこではなかろうというわけです。
目立つからと言ってユーザーエクスプローラーの一番上にあるユーザの行動を抜き出してみても全く意味がありません(セッション数が異常に多いのは関係者)。
目立たないマジョリティの行動を見ることが正しい意思決定のカギになるわけです。
■「個」の履歴を見る際に気を付けるべきこと
個票分析の際、以下の点に気を付ける必要があります。
1. ある程度の情報量があること。マジョリティとはいえ、直帰ユーザを見ても得られるものはありません。ヒントを得られるだけの履歴が必要です。
2. (その情報が)イシューに関連していること。コンバージョンと関係のないユーザの行動ばかり見ていてもアクションにはつながりません。
3. レアケースではない。類似ケースが複数ある(セグメントになっている)こと。
意識すべきは事例が母集団の中でどのあたりに位置して、どれだけ代表としての性質を持っているかということです。レアケースではないか、母集団全体からすると偏ったところに位置する事例ではないか?一方で自分の行動を決める際には、自分が母集団の中でどのあたりに位置しているか。そして事例を参考にする際は、その事例が自分とどれだけ類似しているのかがポイントです。
そのためには複数の事例を見ることが何よりも重要です。複数見るから偏りにも気づくわけです。偏ったレアな事例、マジョリティ、セグメント、それらに気づくためにはある程度の数の事例を見る必要があります。それを積み重ねてきたのがサイエンスとしての医学なのです。
Google アナリティクスの「インサイト」機能のように分析自体が自動化されていく傾向がありますが、ユーザーエクスプローラーで誰の行動を見るべきか、AIがレコメンドしてくれるようになることを期待しています。ユーザ行動に基づいたある程度うまいセグメントを作ってくれて、そこからランダムサンプリングしてユーザーエクスプローラーで抽出してくれる、理想のカスタマーアナリティクスの姿です。
東京大学を卒業後、webマーケティングやサービス企画、システム開発などに従事。
デジタルマーケティングの世界に落ち着き、事業会社、広告代理店を経て2014年に独立。
現在は大小さまざまの事業会社、広告代理店などに対して、テクノロジー観点からデジタルマーケティングの支援を行っている。データ計測の設計、実装から分析、マーケティングオートメーションや広告運用などの施策との連携まで扱う。
さまざまな規模の経験から、企業の身の丈にあったデジタルマーケティングの企画に強い。フリーランスで活動していたが、2017年から法人化。
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