コラムバックナンバー
メールマガジン2016年7月27日号より 衣袋 宏美
このメルマガ読者の多くは、人に何かのテーマで質問をして回答を得るような、いわゆる昔ながらのマーケティングリサーチはあまり活用していないのではないかと推察しています。そのため皆さんにはピンと来ないかもしれませんが、私のような昔ながらのアンケート調査から関わってきているマーケティングリサーチの人にとっては、今のアクセス解析の世界は、昔から比較して格段に素晴らしいと思える点があります。箇条書きにしてみると、下記になります。
・サンプリング(一部が対象の)調査でなく、全数(全員が対象の)調査である点
・ユーザーの自然な行動データを収集している点
・全自動かつリアルタイムでデータ収集し、1日遅れくらいで集計データが確認できる点
補足すると、この3点がセットで実現できているというのが重要です。
この3つが調査におけるパラダイムシフト(前提などが劇的に変化することです)だと思う理由をお話しします。
一つ目は全数調査である点。企業の商品やサービスのユーザーでも国民を対象でもいいのですが、何かの意見や利用実態を調査するためには、ユーザー(国民)の一部に調査を行い、その結果から全体を推計する方法を取ります。国勢調査のように全員を対象にした調査は、コストが掛かりすぎるので殆ど存在しないわけです。
そこで、調査のために一部の人を抽出する訳ですが、今は住民票の閲覧が普通できませんし、電話をランダムに掛けるといっても固定電話を使っていない世帯比率も高くなりました。つまりアンケート対象が偏っているので、調査結果の%でそのまま全体の%と推計することはできないといった環境です。そんな調査環境の中で、簡単に安価で全数調査できるというのは画期的なことです。
続いて二つ目のユーザーの自然な行動データを収集することの質的変化についてです。ここ数年だと思いますが、人に意見を聞く調査はあまり信用できないという話が出てきています。単に意見を聞くだけだと例えば、格好の良い答えをする、期待されていると思われる答えをする、ウソをつく、曖昧な記憶のままに答える、といった注意が必要であると認識されるようになってきました。つまり面倒だけど行動そのものを観察する方法の方がより信用できるといった流れがあります。
これに対してウェブサイトのアクセス解析データは、そもそも誰も記録されていることを意識していませんから、ごく自然なユーザー行動を収集していることになります。もちろんその行動データを元にして、ユーザーは何をしたかったのかを調査実施側が想像し、解釈が必要になります。また昔からエスノグラフィー(ユーザー観察手法の一つです)という方法はありましたが、こちらも費用が相当掛かる手法で限定的にしか行えませんでした。
三つ目の全自動かつリアルタイムでデータ収集し、1日遅れくらいでデータが確認できる点については、説明するまでもありませんね。新聞社などが実施する内閣支持率の電話調査なんかでも、企画、実行、集計は毎回手動で行い、バタバタとやらせて翌日発表が精々という差があります。
次にそれがどうしたという話と結論に入りたいと思います。
考えてみると20年前からサーバログなんかも既にあったわけで、何を今更パラダイムシフトなどというのかということですが、それはすべての機器がインターネットに繋がる(IoT)世界というのが最近になって現実のものになってきたことと関係します。
そういった機器を利用した行動データが全数かつ自動的に集められ、集計可能になって来たということです。まだまだコストやプライバシー保護の壁はありますが、例えばカメラ設置によるリアル店舗での全数行動データの取得、スマートフォンによる位置データの取得など、個人的には気持ち悪いですが、あらゆる人のさまざまな行動データが収集され、統合的なデータがマーケティングに使われるという「調査の最終段階」に近づいているのかなということなんです。
そんな概念的な話をされても何の役に立つんだとお思いでしょうが、僕らがアクセス解析で活用している分析手法、進化してきた解析ツールの集計仕様やデータの見せ方といった知見が、実は他のマーケティング調査すべてで応用できるはずなので、すごいことなんだと思って頂きたいのです。これからのデータ分析においても先頭の位置を走らせてもらえているということなんだと。
天動説から地動説に移行しようとしているパラダイムシフトのただ中に僕らは居合わせているのだと思います。何ごともスピードが早いですが、そんな面白い時代の中での仕事を楽しんでいきましょう。
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