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今日は一つの主題に二つの例で話をします。主題はタイトルの通りで「数字は客観的ではなく、主観的」。例として挙げる話は、会計の数字と解析データの二つです。さて個人的な話で恐縮ですが、昨日で私の会社は10期を終えました。2期連続赤字ですが現金残高は沢山あり、倒産とは程遠い状態にありますので心配ご無用です。黒字や赤字というのはざっくり言えば利益がでたか損失がでたか、つまり「売上-費用」という計算上の話です。一方倒産というのは、簡単に言ってしまえば、現金が底をついて会社を閉じることです。決算が赤字でも現金があれば倒産しません。

だから企業にとって利益を出すのも大事ですが、一番重要なのは、現金残高不足にならないことです。こちらは計算上の話ということではなく、どちらかというと物理的な現実の話ということになります。

では主題に入ります。企業会計における「数字は客観的ではなく、主観的」とは、ずばり決算は作るものだということです。意外に思われたかもしれませんが、決算はある程度作れます。つまり客観的な一つの答えがあるのではありません。私は昔会計のような仕事をしていましたが「よい決算」と「悪い決算」があります。

大企業の「よい決算」は赤字は出さず、かといって膨大な黒字を出し過ぎない、ほどほどの決算でしょうか。膨大な黒字を出したら、膨大な税金が掛かります。利益を圧縮した方がよい訳です。一方上場前のベンチャーの「よい決算」は赤字でも構わないので、とにかく売上が好調で将来性があるように見せないといけません。

前者の例の大企業が利益圧縮する正攻法は、ボーナスを多く出すとか広告費を増やすことだったりします。グレーなのは売上計上を少し先延ばしすることでしょう。その他にも調整可能なことがあります。もう使いものにならない設備や商品在庫を廃棄して、「資産」だったものを廃棄することで「費用」計上します。つまり利益は様ざまな方法で「調整」できます。かなり内部事情に詳しい人でもない限り、廃棄すべき設備や在庫について窺い知ることはできません。税法や会計法など法律に則って作成されている公的な数字も、会社側のさじ加減で決まるということで、主観的なものだということです。

一方後者の例のベンチャーが売上を好調に見せかける方法は、例えば少し曖昧な契約を早めに締結しておき、金額はどうにでも解釈できる余地を残しておくなど。ちょっとこの例は苦し紛れですが、ある程度「売上」も作れるのではないかと思います。だから決算は意思をもって作るものなのです。だからこそまた粉飾決算の類は繰り返されるのです。善意の第三者の我々にはどうにもできません。

さて次の解析データにおける「数字は客観的ではなく、主観的」の話に移りましょう。大きく二つの話に絞ります。一つ目は「データは主観的に作ってください」ということ。二つ目は「客観的だと思えるデータも疑ってください」ということです。

一つ目の「データは主観的に作ってください」に入ります。会計の例の中で「決算は作るもの」といいましたが、解析データも意図をもってよいデータを作りましょう。ここでは決してコンバージョン数を水増しするような集計上の操作をしましょうなんてことを言いたい訳ではありません。アクセス解析やその他の解析のためにさまざまなツールやサービスを利用していると思いますが、可能であれば、次のことを意識して取り組んで頂きたいということです。

・収集するデータの種類をもっと多く取得できないかを検討し、実行する
・データを集計する際の諸設定などを駆使して、よい集計データを作る

言っていることは単純です。元データをリッチにしようということと、その元データからよい集計をしようという二点です。ここまでを「データ」の範囲とします。「ビジュアル化を上手にしてわかりやすいレポートを書きましょう」という話は、「レポート(データではなく)を主観的に作りましょう」という話になってしまうので、ここでは触れません。

二つ目の「客観的だと思えるデータも疑ってください」に入ります。実際にデータを使って意思決定を行って成功や失敗をするのはデータ活用者なので、利用するデータの正確性と客観性を慎重に見極めて下さいということです。アクセス解析のデータであれば、次の三つの観点です。上の二つがデータの正確性、最後が解釈の客観性に該当するでしょうか。

・サーバーログには機械的なアクセスも含まれる。代表的な機械的なアクセスは削除できても完全に取り除けるわけではないので、ゴミもたくさん混じっている可能性を理解した上で、集計されたデータを見る

・Google アナリティクスでも、データ収集の仕様変更があり、機械的なアクセスが最近増えているので、すべて人のブラウザによるアクセスデータを元にして集計しているとは限らない

・指標の定義を正しく理解して、共通言語で話ができているか

他のさまざまな解析データにおいても、そのデータ収集の仕様や集計仕様によっては、ゴミが混ざるかもしれませんし、意味の無い集計になっている部分があるかもしれません。言葉の定義ははっきりしているでしょうか。

残念ですが、出てきた数値が即正しいもの、客観的なものだという幻想を持たないようにして頂きたいと思います。こういったことに対する簡単な対処法はありません。常に次のことを心掛けてください。

・使っているツールを正しく理解すること
・さまざまな数値と向き合い、変な数字を嗅ぎ取る勘を養う
・変だなと感じたデータがあったら、社内外の識者に聞く

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